ストリーミング / サブミッション時代におけるEPK (Electronic Press Kit ) 作成&活用方法

2019.6.4

日本にもストリーミングで音楽を楽しむ文化が根付き始めたことで、アーティストにとっての「成功の形」は大きく変化しています。

一昔前までは大手レコードレーベルに運よくフックアップされればメジャーデビューという流れが典型的なサクセスパターンでしたが、ストリーミングサービスの普及に伴って、アーティスト自身がリリースした音楽をより多くの方に聴いてもらおうと、多くのフォロワーを抱えるプレイリストやYouTubeチャンネルへ向けて楽曲ピッチ・サブミッションする機会が生まれたことで、レーベルに所属することなく、サクセスする道も開かれました。
※サービスへの楽曲ピッチ&サブミッションに関してはこちらの記事をご参照ください

さて、では実際に楽曲をピッチして多くの人に注目されたとして、そこから、様々な関係者により深く自身をプレゼンテーションするには、楽曲の他に何が必要となってくるでしょうか。

今回はその一つとして、ストリーミング時代に即したEPKの活用&作成方法をご紹介します。

EPKは、インディペンデントであれ、プロダクションやレーベル所属であれ、用意しておくにこしたことはありません。これまでも音楽関係者に音楽を売り込む時、効果的な方法として積極的に利用されてきましたが、ここで改めておさらいしておきましょう。

関連記事 : ストリーミング時代の音楽活動で知っておきたいこと

 
※2022年3月2日 追記
注:本記事中のAdobe Sparkは、現在はAdobe CREATIVE CLOUD EXPRESS (Creative Cloud Express) に改称されています。
https://www.adobe.com/jp/express/

 

■EPKとは

EPKとはElectronic Press Kitの略称であり、アーティストの履歴書のようなものです。よって、あなたの音楽にまつわる情報は全て含まれている必要があります。

EPKはファンに向けたものではなく、あなたと将来仕事をする可能性のある、関係者が見ることを想定したものです。そのため、一般的にファンに向けて作られているオフィシャルサイトとは異なるということをまず認識してください。

EPKの例
GUCCI MANE のEPK (Atlantic Records)
Adobe SparkのEPK sample

 

■EPKの作成方法

EPKを作る上で特別にお金かける必要はありません。その気になれば、下記の必要項目を盛り込んで自身で作成することも可能です。海外ではEPKを用いてアーティスト情報をやり取りすることが多く、オンラインで無料作成が可能なサービスが多くあります。

様々なサービスの中からいくつかのサービスを下記にご紹介しますので、自分のアーティスト像にマッチするサービスを選択して作成するのもありかと思います。

ReverbNation

Sonicbids

Bandzoogle

 
Adobeシリーズは有料ではありますが、優れたEPKを作成する上で有効ですので合わせてご参照ください。

Adobe Spark

 
EPKを作成する時、もっとも重要なのは受け取る側を意識することです。どんな情報を伝えれば、よく理解してもらえるのか、プッシュしようと思ってもらえるのか。また、どんなデザインであれば、ストレスなく情報が伝わるのか。常に確認しながら作成しましょう。

 

■EPKに含めるべき情報

以下に、最低限EPKに書き込むべき情報をまとめてみました。

これまでもお伝えしてきた通り、意識すべきは「受け取る側にとって、どんな情報が有益で、どんなデザインであればストレスなく情報提供ができるのか」ということです。

 

1). 音楽

書くまでもありませんが、音楽はアーティストをアピールする上で、最も重要な情報です。受け取る側がスムーズに音源に到達できるようにリンクを用意する必要があります。

媒体としてはストリーミングやYouTubeなど様々ですが、自身の楽曲の中で、どの楽曲が一番視聴回数が高いのかを確認した上で、代表曲を最低3曲程度聴けるよう作成すると良いでしょう。プライオリティトラックをまとめたプレイリストを作るのもひとつの手でしょう。

 

2). 宣材写真

高画質のアーティスト写真をいくつかのパターン用意します。サイズやカラーバリエーションなどを工夫して、受け取る側の不要なやり取りを減らせるように意識するべきです。

参考:アー写を撮影&作成する時に、改めて気をつけておきたいこと | 5 THINGS TO THINK ABOUT BEFORE YOUR NEXT PHOTO SHOOT

また、自身の代名詞と呼べるようなアルバムやシングルがリリースされている場合、それらのジャケット写真も用意しておくことをおすすめします。

 

3). バイオグラフィ

今までどのような活動をしてきたのか、シンプルかつ濃くまとめてください。

自分自身で書く方法もありますが、知り合いのライターに依頼し、情報を共有して共に作成するのもありです。良いバイオグラフィを作成できた場合、配信ストアの説明欄やFacebookのアーティストページにも同様に使うことができます。メディア担当者が情報源としてバイオグラフィを使いやすいよう、短文仕様(100文字程度)と長文仕様の2種類を用意しておくと良いでしょう。

 

4). 過去、そしてこれからのイベント情報

関係者に、精力的に活動していることが伝わるように、過去にどのような会場でライブをしてきて、これからどんな場所でライブをすることが決まっているのか示す必要があります。

ツアーが決まっていたり、フェスティバルに出演が決まっている場合もEPKを通して情報を開示するようにしましょう。

 

5). これまでに特集された記事やインタビュー記事のリンク

アーティスト本人以外からの視点から執筆された記事は、アーティストの魅力をより引き出すだけでなく、関係者からの信頼度にも影響します。また関係者に対し、メディアとのやりとりに慣れている印象を与えることもできます。

 

6). ビッグプレイリストやキュレーター、ストリーミングサービスにピックアップされた実績

過去に自身の楽曲が、フォロワーの多いプレイリストや影響力のあるプレイリスト、チャンネル登録者数の多いVlogerやリアクション動画、ストリ−ミングサービスでバナー/ビジュアルカバー展開などされた実績があれば、記載してください。そのプレイリストのアーカイブが残っている場合は、そのプレイリストリンクも記載するようにしましょう。

今や、どのようなプレイリストにピックアップされたかも、アーティストの実績を表す非常に大事な指標となっています。

 

7). SNSやオフィシャルサイト / 各ストリーミングサービスアーティストページのリンク

SNSは最もアクセスしやすく、かつアーティストが自由に自己プロデュースできる場です。運営している全てのSNSアカウントのリンクを貼ることで関係者に常に最新の情報を届けることができます。

また、各ストリーミングサービスにおいて、例えばSpotify for Artistsを活用して自身のページを充実させることも可能なので、ストリーミングサービスの自身のアーティストページリンクも記載しましょう。それは、ストリーミングサービスを使いこなしているという事実を伝えることにもつながります。

ただ、これらはリンクが増えすぎる可能性もあるので、リンクの数が多い場合はLinktreeのようなサービスを組み合わせることを検討するとよいでしょう。

 

8). 代表者の連絡先

もしマネージャーがついている場合、マネージャーのメールアドレスや電話番号を記載しましょう。バンドを組んでいる場合、関係者が直接アクセスしやすいように代表者を決めて連絡先を記載することをおすすめします。

 

9). その他、場合によって必要と判断した内容

例えばフェスやライブ出演打診の際には、上記の内容に加えてステージプロット / テクニカルライダー(公演での機材をはじめとした必要な情報がまとまったもの)を用意すると良いかもしれません。芸術に関する様々な公演において必要となるテクニカルライダーですが、音楽公演も例外ではありません。テクニカルライダーについてもオンラインで作成できるサービスがあるので、参考までにご紹介しておきます。

Musicotec (Technical rider creating tool online)
※スペイン・バルセロナ発のサービスですが、英語対応しているので比較的使いやすいかと思います。

状況に応じて、関係者が欲しい情報は何かを考え、その情報にスムーズに辿り着けるようデータを用意することが重要です。

なお、上記の9項目を盛り込むにあたって、プレスリリースの作成時と重複する部分もあるので、下記もぜひ参考にしてください。

参考:プレスリリースを作成する際のコツ | HOW TO WRITE A PRESS RELEASE THAT GRABS ATTENTION

 

■EPKを作る上でやってしまいがちな誤り

最後にEPKを作成する上でやってしまいがちな間違いについて3点。

1). PDFで送信する

PDFで送信することの問題点は以下の通りです。

①PDFがモバイルデバイス(スマートフォンなど)との相性が悪い
②PDFスパムが急増中
③内容をアップデートしづらい
④リンクが機能しない

 

2). 過剰 or 過不足

今までどのような情報を含めるべきかということについて解説してきました。しかし理想は場合によって大きく変わることがあります。

状況によっては、もっと情報量を増やす必要があるかもしれませんし、ボリュームが多すぎて読む気を削いでしまうかもしれません。上記のEPKに含めるべき項目を基本としてながら、自身で取捨選択してみてください。

 

3). 更新をしない

情報は常に新しくある必要があります。EPKを通して、さらにあなたが積極的に音楽活動に取り組めたと実感できた時、ぜひ一度EPKの内容を見直してみましょう。新たに加えるべき活動実績がきっとあるはずです。

 


冒頭でも触れたとおり、ストリーミングサービスの普及により、自身の音楽をより聴いてもらうため、自らアプローチできる機会は昔に比べて増えてきています。

反面、情報過多の昨今、正確に自身の公式なアーティスト情報を関係者に届けることができるように準備しておく必要があるでしょう。例えば、プレイリストピッチの際、備考欄にEPKリンクを記載しておくことで、効率的にアーティスト情報を伝えることができます。

インディペンデントで活動しているアーティストの方々は、様々なきっかけになるであろうEPKの作成&活用にもぜひチャレンジしてもらいたいと思います。

 
参照元:COMMON MISTAKES TO AVOID WHEN BUILDING AN EPK (TuneCore Blog)
How to Make an Electronic Press Kit for Musicians | EPK Press kit for music (Alchemist Ventures)

この記事の執筆者

THE MAGAZINE

国内のインディペンデントアーティストをメインに新たな音楽ムーブメントを紹介するウェブメディア