音楽プロモーション | 海外メディア/サービスへの楽曲ピッチ&サブミッション Vol.1

2018.12.7

リリースした音楽をたくさんの人に聴いてもらうために、フォロワーを多く抱えるプレイリスト・影響力のあるYouTubeチャンネルへの楽曲ピッチ、サブミッション(簡単に言うと「この曲聴いて、もしも気に入ったらとりあげてください!」と提案すること)が、ストリーミングサービスなどの普及により頻繁に行われるようになりました。

それは、デジタルディストリビューションサービスを通じて、有名無名を問わず誰でもApple MusicやSpotifyなどで作品のリリースが可能になった今、音楽プロモーションに悩むアーティストにとっては、嬉しい動きのひとつであります。

この楽曲ピッチやサブミッションは、海外レーベル・プロモーターたちによって、日常的なプロモーション手法として導入されています。そしてインディペンデントで活動しているアーティストこそ、概念や考え方、ちょっとした方法さえ身につければ誰でも自らの音楽活動に取り入れることが可能です。すでに日本からも、世界最大級のプレイリストや音楽チャンネルにアーティスト自らがアクションし、楽曲をピックアップされる事例が出てきています。

ただ、この一連の事象について関連事項を調べてみると、「サブミッション・メディア」という言葉だけが一人歩きしていることが多く、一体そこで何が起きているのか、何が生まれているのか、分からないケースがほとんどかもしれません。

そこで、こういった全体の動きをなんとなくにでも理解していただき、少しでも今後の音楽活動に役立つことを願って、そのそもそもの成り立ちや概念、考え方、実施に向けた具体的な方法をここでお届けしようと思います。

あらためて、「サブミッション・メディア」のはなしを。

まずは、日本でもあちらこちらで聞かれるようになった「サブミッション・メディア」について、今あらためて、考えてみようと思います。

実は、日本における「サブミッション・メディア」の展開については、TuneCore Japan が深く関わっています。というのも、「サブミッション・メディア」という言葉自体は、日本で生まれました。もっと踏み込んで言うと、我々および関係者が“勝手にそう呼びはじめた”ものなのです。

ためしに「Submission Media」と検索してみても、なんの英語文献も見当たらないと思います(カタカナで「サブミッション・メディア」と検索すれば、いくつか日本の記事は出てくるかと思いますが)。海外の音楽関係者にたずねても、おそらく通じないはず。

では、どういった経緯で、この「サブミッション・メディア」という言葉は誕生したのか。そこには、1組の日本人アーティストの存在があります。

あるアーティストの事例

ご存知の方も多いかもしれませんが、2017年にほぼ無名の状態から、海外のSpotifyを中心に大きなヒットを記録した、「AmPm」というアーティストがいます。

彼らと話をする機会があり、当時彼らが興味を持っていた海外のメディアやキュレーター、それらの媒体とのコミュニケーション方法、音楽のプロモーションについて対話を進めていく中、お互いの好奇心が一致するポイントがありました。

それは海外には、インターネットを経由し、アーティストとメディア(ここでいう“メディア”は、YouTubeの音楽チャンネルやSpotifyのプレイリスト、インターネットラジオ、音楽ニュースサイト、その他テイストメーカー、キュレーター、インフルエンサーなど、影響力をもった媒体・媒介者・プラットフォームを“メディア”としてくくらせていただきます)が、お互いのクリエイティブを交換し合うことによって、あたらしい音楽が伝搬していくコミュニティ、エコシステムを築いているということでした。

アーティストは自身のクリエイティブである“音楽”、“写真”、“イラスト”などをメディアに提供(提案=サブミッション)し、メディアは自身のクリエイティブである“独自のセンスで編集されたプラットフォーム”を、それらのコンテンツの発表場所として提供する。

広告出稿ありきでも、一部の関係性を優先したコンテンツのとりあげ方でもない、“純粋なお互いのクリエイティブ”を拠り所にしたコミュニティの在り方。それらは結果として、あたらしいアーティストや、フレッシュな音楽が表出してくる場として、機能しているように思えました。

「やっぱりこれ、気になりますよねー」

「はい。気になって、Majestic Casualには会いに行きました」

「えっ、まじすか!?」

そんなやりとりをしながら我々は、この一連の現象を、なんと表現できるのか考えていました。

特におもしろいなと思ったのは、アーティストが自分のクリエイティブを直接“提案(サブミッション)”できるという点。そしてその提案(サブミッション)を、メディアがアーティストの有名無名に問わず、“コンテンツとして優れている、自分たちのブランドに合う”と判断すれば、フラットに採用している点です。

起点となっているのは、“提案(サブミッション)”という概念。する側も、される側も、そのクリエイティブの“提案(サブミッション)”を起点として、密接に関わり合っている。そしてその関わり方が、既存の音楽プロモーションで陳腐化した方法論より、よっぽどフラットで、風通しがよくて、気持ちいい(ごめんなさい)。

「なんかこの、“提案(サブミッション)”って考え方が、大事っぽいぞ」

「よく見ると、どのメディアにも[SUBMIT]って表記やボタンがあるじゃんか」

「じゃあこの新興メディアって、『サブミッション・メディア』なんて呼び方をしたら、分かりやすそうだな」

そんな対話を何度か繰り返し、気づけば我々も、一連の現象を「サブミッション・メディア」を巡るアレコレとして、語るようになっていました(その後、アーティストビジネス・カンパニーのluteさんとTuneCore Japanが共同で「lute music」を立ち上げたのが、言葉としての「サブミッション・メディア」を決定的にしたと思います)。


lute music
lute music
 

昔からある営みのひとつ

ここまで読み進めてくださった人の中には、そんな背景をもつ「サブミッション・メディア」について、「え? それって元々あったんじゃない?」と、思われる方もいるかもしれません。「“アーティストとメディアがお互いのクリエイティブを交換し合う”なんて言うけれど、それって元々そういうものじゃん」、と。

そう、まさしく、そのとおりなんです。古くはラジオだってそうだし、今やどれだけ大きくなった商業誌であっても、その始まりには必ず、今ここで言っている“提案(サブミッション)”に近い形があったはず。だからこの「サブミッション・メディア」は、言葉だけとらえると必要以上にあたらしい印象を受けるかもしれませんが、音楽とメディアの在り方として、昔から存在し、今にいたるまで脈々と続いている営みなんです。

ただそれが、インターネット、YouTube、SoundCloud、Spotify、Instagramなどの要素と複合的に絡み合うことで、よりユニークなかたちで発展した。かつ、世界中のだれでもアクセスできるようになった(提案するアーティストも、提案されるメディアも、それをコンテンツとして楽しむ消費者も)というのが、この一連の「サブミッション・メディア」の最も注目すべき点なのかもしれません。

 

もう一度整理して、体系化しよう。

前置きが長くなりましたが、今回あらためて「サブミッション・メディア」についてまとめるのは、もう一度これらの文脈を踏まえたうえで、実際にそれがどういうものなのか、どうアーティストや音楽産業と共存し得るものなのかを、体系化して整理するためです。

どうにもこの「サブミッション・メディア」は、日本の音楽産業の中では、“よく効くクスリ”や“未来の音楽プロモーション”的な、ちょっと本質からずれた扱いをされてしまっているように思います。

その責任の一端を、この言葉を使いはじめた我々自身が担ってしまったのも否めないのですが、ニュースの見出しに持ってくるようなキャッチーな部分の抽出だけではなくて、そもそもの概念や考え方、具体的な向き合い方について、本連載にてお伝えできますと幸いです。

ここでの目的は、大きく2つです。

  • あらためて「サブミッション・メディア」とはなにかを整理し、アーティストにとっての活用方法、プロモーション方法を伝える。
  • アーティストが実際に「サブミッション・メディア」にピッチ(サブミッション)を行う際に参考となるような、ナレッジベースを用意する。

 

つまり、この「サブミッション・メディア」自体を啓蒙したいわけではなく、これらを活用することで、日本人アーティストの海外ヒットに、少しでも貢献することができれば幸いです。

2018年も終盤となり、音楽産業に関わるプラットフォームもサービスも、ずいぶんと出そろってきた感があります。誇張ではなく、音楽を世界に届けるために使える“ツール”については、日本も海外も差はなくなってきました。

だからこそ今、なによりも大切になっているのは、そのツール(乗りもの)に乗せる“クリエイティブ”です。つまり、ミュージシャンでいう音楽の力。それを前提として、その心身を注いだ音楽を届けるうえでの、適切なツールの“使い方”があります。

冒頭でも述べましたが、実際に今、有名無名を問わず、自身のクリエイティブ(楽曲)と、適切なツールを生かすことで、海外のビッグプレイリスト、メディアにピックアップされる日本人アーティストも現れてきています。これは日本の音楽産業にとって、勇気のでるニュースです。

 

サブミッションやピッチは、「魔法」ではない

ただ、事前にひとつお断りを。この連載に綴る内容は、そのまま実践すればApple MusicやSpotifyで、必ず爆発的に再生されるような“魔法”ではありません。あくまで今後のアーティストのプロモーションを考えるにあたっての、ひとつの具体的な方法でしかありません。(いちばんのプロモーションは、“いい音楽をつくる”に尽きます)。

本連載を読んで、サブミッションやピッチを行うか否かも、最終的にはアーティスト自身の判断です。その判断をするにあたっては、メジャーで活動しているかインディーズで活動しているかなどの立場の問題、アーティストとしてのブランディング方針、プロモーションで徹底するトーン&マナーなどが絡んできます。「サブミッション・メディア」やプレイリストピッチについて知った結果、「自分はトライしないほうがいい」という判断も大いにあると思います。

自分たちは、それでもまったく構わないと思います。大事なのは、めまぐるしく変わる音楽産業の現在に思考停止せず、「今、いったいなにがおきているか」を把握したうえで、今後の自らの活動に反映させていくことなんじゃないかなと。

熱っぽい能書きが長くなってしまいましたが、次編では、具体的な「サブミッション・メディア」の存在と成り立ちについて、あらためて理解していければと思います。

この記事の執筆者

Takashi Watanabe | 渡邊貴志

Artist Promoter / 1990年山形県生まれ

https://twitter.com/ctakawatanabe