STAP Sigh Boys インタビュー 1970年からやってきた“高円寺のMac DeMarco”?謎とセンスがあふれる注目ポップ・アクト
70年代+モダンを志向するサウンドメイク
——楽曲制作を始めたのはコロナ禍で退屈だったからだと伺いました。
そうそう。YouTubeのチュートリアル動画で録音の方法を勉強しました。実はその前には音楽自体にちょっと飽きてて、クラブやライブハウスにもあまり行ってなかったんだけど、コロナ禍の中で音楽の良さを改めて発見したっていう感じですね。
——曲作りは、どのように出発するのでしょうか?
大体、カッティング的なリズムギターを録音して、ベースも実際に弾いてる。ドラムは打ち込みですね。シンセはちょっとしか弾いてなくて、多くの場合、自分で演奏したギターの音をサンプルしたりエフェクターを駆使したりしてギターっぽくない音を作ってる。もしお金があったらアナログシンセサイザーを死ぬほど買おうと思ってるけど、無理だね(笑)。Logic Proにあるベーシックなシンセサイザーしか使ってないです。
——楽曲制作で一番時間をかけるのはどのポイントですか?
ミックスとマスタリングだね。2月にリリースした「Light(n)ing」は特に苦労して、何か月もかけて30バージョンぐらい作りました。メロディやアレンジは一日でできることもあるけど、ミックスやマスタリングは後悔したくなくて。
——楽曲自体は感覚的に作れるけど、サウンドメイクには強いこだわりを持って取り組むと。
僕はエンジニアじゃないから、YouTubeの動画を死ぬほど見て学んでるんです。活動初期の楽曲はちょっとLo-Fi過ぎてもう聴けない(笑)。それがコンプレックスになってるから、もっともっと良い音にこだわっていきたいと思ってます。今後は、Electric Light Orchestraみたいなサウンドを作りたいな。
——STAP Sigh Boysの楽曲を聴いていると、オールディーズな名盤を再生しているような気持ちにさせられるというか。本当に70年代にこんなヒット曲があったんじゃないか?と思ってしまいます。
僕は1970年の大阪万博のために日本に来たから(笑)、やっぱりあの時代の音楽を作りたいと思ってる。もしタイムスリップできるなら、1970年代の大阪に戻りたいと思ってるし。でも、僕の音楽にはモダンな音も少し含まれてます。
——時折、日本語が織り交ぜられている楽曲があるのも特徴的ですよね。ネイティブでは思いつかないような言葉の分解のしかた、リズムへの当て方をしてるなと感じます。
歌詞、おかしいよね(笑)。メロディーに英語のリズムが合わないと思ったら、日本語を使うようにしてる。だから、選択肢が色々あって便利です。日本語の楽曲はこれからも作りたいし、サウンドもより日本っぽい曲を作りたいですね。五木ひろし「よこはま・たそがれ」とか細川たかし「北酒場」みたいな曲がいいな。渋い曲。
——リッチなコーラスワークも聴き応えがあります。
実は中学生の時にコーラス隊に入ってて、教会で歌ってたから、それでハーモニーの感覚を覚えたんだと思います。
——楽曲制作やアートワークにはAIを活用しているそうですね。
去年、Midjourneyっていう画像生成ツールにハマってて、色んなジャケをそれで作りました。曲作りにもちょっとだけAIを活用したことがあって、僕は譜面とか読めないタイプだから、どのコードを使うかというアイデアをもらったり。
——今後、アーティストはどのように生成AIと向き合うべきだと思いますか?
みんな使うようになって、特別なことではなくなるんじゃないですかね。でも、AI活用に反対する人も増えていくと思う。僕自身も、AIを使うのは自分のクリエイティビティではないと感じてるから…… どうなるかな。
——たとえば、AIがDaft PunkやMichael Jacksonの名曲に匹敵する作品を創り上げたとしたらどうします?
……困るよね(笑)。でも、本当にそのレベルの楽曲を作れたっていうなら、まずは聴いてみたい。初音ミクも人気になったし、同じようにAIが作った曲も受け入れられるかもしれないね。それが起こるのはそんなに遠い未来じゃないと思う。