曲の長さ&曲順のトレンド、2019年にヒットしたアルバムから見えること
日々、アーティストの方々と接していると、よく聞かれることがあります。
「今って、短い曲の方がいいんですよね?」
たしかに、特にUSのチャートを見ると、4分以上ある曲は非常に少ない状況になりつつあり、それを裏付けるレポートもあります。
ただ、音楽というアートがフォーマットに縛られてしまうことは本末転倒な気もしますし、一方で、マクロなタイムラインで考えてみると、いわゆる大衆音楽が出現する以前のクラシックの時代は、長く演奏される楽曲が当たり前だったことはみなさんご存知の通り。そうやって時代のフォーマットとともに音楽のありようが変わってきたのもまた事実です。
アーティスト、ミュージシャン、音楽家にとって、多くの人に作品を届ける、聴いてもらいたいのは当然の欲求としてあるでしょう。心血を注いで作りあげた自らのクリエイティブありきで、それを広めるためにどういったアプローチをとるべきか、その判断をする上で、進化しているテクノロジーやサービス・トレンドを事実として把握し、木を見て森を見ずの状態に陥らないようにしておくことは、楽曲ありき/マーケティングありき、いずれにしても大切なことだと思われます。
そんな今日のトレンドのひとつに、「曲が短くなっている」というファクトがあるわけです。ストリーミングサービスの1再生カウントが30秒という基準に対し、スキップレートをいかに下げるか、1再生カウントをいかに稼ぐかに、何年も前から特にストリーミングが普及した地域においてアーティスト(のビシネス)サイドは神経を注いできました。
そこで今回、2019年現在、グローバルに商業的に成功している作品において、複数の曲がパッケージされるアルバム/EPといったフォーマットにおける楽曲の長さと曲順をオーバービューしてみようと思います。
※繰り返しですが本稿は、「作品」が大前提としてあり、そこからアーティストが周りの状況を見渡し、自分のやりたいことや方向性と照らし合わせて、世間へのアプローチの方法を決める一つの参考になればということを意図しています(「曲を短くしたほうがいいですよ!」等をむやみに勧めているわけではありません)ので、そこは十分にご留意ください。
3つの作品から見る楽曲の時間
ということで、先日突如リリースされたKanye Westの『Jesus Is King』と、2019年を象徴する作品だったといっても過言ではないBillie Eilishの『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』、そして戦略的なアプローチを常に仕掛けるTaylor Swiftの『Lover』という、今年リリースされたヒット3作品をとりあげてみます。
これらの作品ごとの楽曲の長さを曲順にグラフにするとこのようになります。
これらアルバムのトータルタイムを曲数で割った平均タイムは、
Kanye West 『Jesus Is King』 ― 2:27
Billie Eilish 『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』 ― 3:03
Taylor Swift 『Lover』 ― 3:25
となっています。
Kanye Westが特に顕著ですが前半には相対的に短めの楽曲が集中している傾向が見てとれます。
国内のヒット作品はどうなっているか
参考までに、国内の作品も見てみます。
2019年に国内のストリーミングチャートで強い存在感を示した、Official髭男dism『Traveler』、あいみょん『瞬間的シックスセンス』、King Gnu『Sympa』をとりあげてみましょう。
タイムラインの比較はこちら。
King Gnuは海外のトレンドに近いアプローチになっている一方、Official髭男dismとあいみょんは4分以上の曲も高い割合を示しています。裏返すと、まだ日本はそこまで短尺の曲でなくてもヒットする状況にあるということが分かります。国内ストリーミングチャートを席巻しているOfficial髭男dismのシングル「Pretender」は12曲目に配置されており、そこも”シングルカットなどベストな曲をアルバムの前半に集中させる”という最近のグローバルセオリーには当てはまらない形となっています。
また上記USの3作と同様に、これらアルバムのトータルタイムを曲数で割った平均タイムは、
Official髭男dism『Traveler』 ― 3:57
あいみょん『瞬間的シックスセンス』 ― 4:03
King Gnu『Sympa』 ― 2:41
となっています。
上記にあげた6つの作品においては、もちろん様々な要素や作品としての芸術性を加味、試行錯誤し、このような曲の長さ、曲順で構成されていると思われます。その上で、リスナー側もリリースする側も、プラットフォームのメインがストリーミングに移行しつつあり、アルバムというフォーマット自体の存在意義も曖昧になってきている中、敢えて数字だけで見てみると上記のような事実が浮かび上がってきます。
6作品を比較したグラフはこちら。
今後、国内の作品はどういったトレンドになっていくのか
また、2019年11月14日11:00時点(※チャートは常に変動)でのApple Musicのデイリートップ100にチャートインしている短い楽曲と長い楽曲の曲数をUSと日本で比較してみると…
USでは、
3分未満の楽曲:52曲
4分以上の楽曲数:4曲
日本では、
3分未満の楽曲数:3曲
4分以上の楽曲数:59曲
と、驚くべきことに全く正反対の状況になっています(USでヒップホップのジャンルが非常に強いという側面も大いにありますが)。
ちなみに、「これはUSだけの話なんじゃないの?」という声も聞こえてきそうなので、Apple Music デイリートップ100 グローバル も念のためチェックしてみると…
3分未満の楽曲:49曲
4分以上の楽曲数:8曲
と、やはり日本というよりUSに近似した数字が出てきます。
こういったファクトを受け、どういったアプローチするかは当然ながらアーティスト自身(あるいはレーベル、レコードメーカー、プロダクション)の判断になります。
日本でも嵐や星野源など有名なタレント、アーティストの楽曲がストリーミングにカタログされる動きは日々加速し、ストリーミングの存在感は大きくなり続けています。ストリーミングが普及することは不可逆的な状況にあり、上記のような事実がある中で、日本のアーティストがどういった一手をうっていくのか、特にクリエイテイブやプロモーションに関するセルフな裁量が大きいインディペンデントなアーティストがどういったアプローチをするのか、今後ますます注視される点です。