【コラム】初の海外フェスに挑む Black petrol ― ジャンルを超える革新的な音楽集団が切り開く未来

コラム・特集
2025.4.25
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「詩のみが常に真理へと到る道」というフランツ・カフカの言葉を想起させる鋭敏なリリックも、ジャンルレスだが洗練されたバンドサウンドも極まったBlack petrol(ブラックペトロール)の最新EP『Insomniac Reveries』が凄い。“エクスペリメンタルジャズヒップホップバンド”を名乗るBlack petrolは、takaosoma(Guitar)、SOMAOTA(MC)、ONISAWA(MC)、たけひろ(Bass)、石尾紘樹(Keyboard)、almin(空閑歩夢)(Drums)、安原大貴(Sax)からなる7人組である。2023年に「SUMMER SONIC (Osaka)」『出れんの!?サマソニ!?』、2024年には「FUJI ROCK FESTIVAL」『ROOKIE A GO-GO』に出演するなど、頭角を現してきた彼らはチェックしておくべき革新的な音楽集団だ。

 
2017年に大学のジャズ研究サークルなどを中心に京都で結成したのち、MCのONISAWA、SOMAOTAがメンバーに加わるとストリートライブ、そしてライブハウスやイベントへと活動の場を広げていった。2019年に1st EPとは思えないハイレベルな作品『Q’uoted By』、続いて2020年に2nd EP『UnIdentified ChildRen』をリリース。2021年には1st Album『MYTH』を発表し、同年には石若駿率いるバンドSMTKによるツアーの京都公演にもゲストアクトとして出演した。また、空音の楽曲「STREET GIG feat.Black petrol」(Black petrol初の客演とプロデュース)でヒリついたその競演に熱くなったリスナーもいるだろう。

 
架空の人物たちによる物語をコンセプトに据えた1st Album『MYTH』に対して、レコーディングからミックスまで全て自主制作したという今回のEP『Insomniac Reveries』は、Black petrol自身を真っ向から表現しており、彼らの志と音楽性の高さが結実した鮮烈な傑作である。社会の不条理に切り込んでいくM1「Dilatancy」から度肝を抜かれた。SOMAOTAの<気楽が全てじゃないよ>というラインは時代に刺さる。ONISAWA独特の緊迫感のある切実なバースは、この社会に適応できないし虚構の群像に迎合できない人々を照らす。2MCを擁するヒップホップ・バンドの表現としても成熟しており、音、声、言葉がこれだけ一体となってグルーブしていくのはバンドスタイルならでは。インダストリアルチックな実験的かつ凶暴なバンドサウンドと融合するのは、SOMAOTAの時に人をくったようなトリッキーなフロウのラップと人間味溢れるONISAWAの骨太なラップ。二人のコントラストもやはり強み。そして曲の後半は不穏なビートとスクリームが支配するという極端な展開も攻めててかっこいいし創造的だ。

昨年9月にリリースされた「Howlin’collective」は、Black petrolの歴史を凝縮させたような先行シングル。原点を感じさせるコンテンポラリー・ジャズに乗って展開していくのは、<nerdy and hard/はみ出し持たざる者達の会>であるBlack petrolのリアルな諸々だ。<本当に孤独なやつだけ人と繋がれる/群れるんじゃなくて隣に居る>というバースからは、バンドという集団としての強度を伝える。拠点である京都を離れたあとも共に音楽を作ることを選んだという彼らであるが、その選択は正解だと形づけたのが今回のEP。葛藤が強い覚悟や確信へと繋がり、これだけ振り切れた作品を作り込んだのではないだろうか。

ラップミュージックやラップすることそのものをリリックのテーマに据えたM3「Capital, sweat」にもアイデンティティーと信念が刻まれており、SOMAOTAとONISAWAがラップをせざるを得ないカルマのようなものを感じさせる。曲の後半はトランシーなダンスミュージックへと変貌し、魂のダンスを誘発してくる。リスナーの精神と肉体を刺激してくるこういった過激さも、どこかの誰かの人生とシーンに対するトリガーの一役になるはずだ。

EPを締めくくるのは「Kamogawa in my day」。高い演奏力や豊富な音楽的素養を感じさせながら、あくまでも既存のジャンルを超えていく未知のミクスチャーサウンドを開拓し、リリシストとしての成長を示した彼らが、鴨川や馴染みの店で戯れる等身大のミュージックビデオは、純粋にグッとくる。総じてこれまで以上に多彩な音楽性を内包するEPだが、多かれ少なかれ革命を孕んでいる“ブラックミュージック”として受けとめ、筆者は日々聴いている。

 
「TuneCore Japan」と「YOUNGBLOOD新血計画」が共同で展開するアーティスト発掘プロジェクトの日本ラウンドにおいて最終優勝を果たした彼らは、5月4日に北京で開催される中国最大級の音楽フェス「2025年北京スーパーストロベリー・ミュージック・フェスティバル」で初の海外フェスに挑む。さらに、5月16日には下北沢ADRIFTにて、Kingo、Sagiri Sólとともに企画「White Haze」を開催し“普通の対バンではない、特別なライブの形”を届けるという。彼らが切り開く未来が本当に楽しみ。


Black petrol『Insomniac Reveries』

Black petrol『Insomniac Reveries』

 

 
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この記事の執筆者
堺 涼子
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