【コラム】「ナツメグ」がバイラルヒット 神奈川日吉発の新鋭バンドPURPLE BUBBLEが奏でる“普遍的な輝き”

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2025.3.18
【コラム】「ナツメグ」がバイラルヒット 神奈川日吉発の新鋭バンドPURPLE BUBBLEが奏でる“普遍的な輝き”のサムネイル画像

現時点ではまだ知る人ぞ知る存在と言っていいだろう、2024年5月に始動したばかりの4ピースバンドPURPLE BUBBLEが2025年1月に配信スタートした楽曲「ナツメグ」が現在、バイラルヒットしている。2月初旬にSpotify国内バイラルチャートにも初登場6位という好成績だ。2024年10月頃からこの曲のライブ音源などをSNSで披露し、配信スタート時にはすでにTikTokの総いいね数が20万を超えていたため、この時代ならではの火のつき方と言えそう。ちなみにこのバンドはインスタの更新もかなりマメ。初投稿の際から「#邦ロック」とプロフィール代わりに添え、最短距離で出会うべきリスナーに向けて発信するのもなんとも今っぽいインディー・ロックバンドだ。だが、そういったきっかけたちを経て出会うPURPLE BUBBLEの音楽の最大の特徴は、今っぽさを取り入れた流行りものなどではなく、時代も人も選ばない普遍的な輝きにある。

 
神奈川県日吉発、「あなたの憂鬱を吹き飛ばす」バンドを自称するPURPLE BUBBLEは、「あなた」つまり、聴き手とともにあるという意味でポップな姿勢をアイデンティティとするロックバンドである。サブスク解禁した初の作品となった2曲入りシングル「クラルテ/A maze」から自分たちのポリシーを有言実行している。苦い過程も肯定しながら可能性が広がる未来をポジティブに描いた瑞々しく疾走感のある両曲は、予備校のCMソングに即採用したいくらいエネルギッシュで眩しい。また、歌詞にある“歓声”というワードからは、作詞作曲を務めるヴォーカルのK-taring自身の未来予想図も投影されているように感じられ、こうした上から目線ではない等身大の歌詞もPURPLE BUBBLEに引き込まれる所以。出会ったばかりなのに、共に生き、時に寄り添ってくれる存在としてファンは彼らに深い親しみを覚えているのではないだろうか。「クラルテ/A maze」に続いて配信した楽曲「愛の天秤」も、大失恋の経験者の共感を呼んでいるセンチメンタルな曲調の人気曲だ。

 
一方で「ナツメグ」は、さらに間口を広げ、老若男女に親しまれ得る曲という印象。誰がいつ何時、気分が落ちている時も上がっている時もフィットするマーチのようなミドルテンポのサウンドがとにかく心地いいナンバーだ。牧歌的な空気感は最近の音楽シーンにおいては新鮮であり、YouTubeのコメント欄の声も「懐かしい」「平成感」「昭和っぽい」などと形容し賞賛している。そのあたたかさには本能的に心を開いてしまいたくなるし、TikTokで流れてきてふと泣けてきたリスナーも多いはず。念のため説明すると、ハンバーグの風味づけでおなじみのナツメグとは、刺激的だがほのかに甘い香りもするスパイスだ。この曲を通して歌われているのは、後悔も人生のスパイスになるだろうというポジティブかつ普遍的なメッセージであり、むしろ人生は守りに入ったら味気なくなる、と背中をひと押ししてくれる。K-taringが影響を受けたアーティストや尊敬するアーティストとしてBUMP OF CHICKENを挙げている(※1)のも納得、人生の真理に触れている歌詞の内容もBUMP OF CHICKENを彷彿とさせる。<自分自身の価値は 誰にも決められやしないから 泣いても笑っても 君のままでいられるんだよ>という一節も、きっと誰かを励ましているはずだ。そしてさらに、誰かが負けてしまいそうな時に寄り添い愛を歌うことが僕にとっての生きる意味、と明言する「ナツメグ」という曲は、彼らの所信表明でありこれから続く音楽活動の狼煙のようとも言える。

 
 
そんな大切な人生訓と覚悟を込めたこの曲が、言ってしまえば現在の彼らの認知度を上回るほど大きなヒットを迎えているのは、ポップなロックバントとして「リスナーに届ける」という気迫と使命に満ちた曲作りが果たされているから。8小節ずつどこを切り取ってもメロディアスかつキャッチーで、サビ以外にも聞かせどころが何度も来るため飽きさせない。中毒性があり、作り手としての執念さえ感じさせるほど実は構成が綿密で、ほんわかとしたアーティスト像の裏に末恐ろしささえ覚える。そして、極めつけのようにこの曲を人生讃歌に仕立て上げているのがアウトロ部分だろう。転調ののちケルト音楽風のバンド・アンサンブルは一気にアグレッシブになり、まるでマリオを一面クリアした時の効果音みたいな祝祭と、勇者の行く道を照らすファンファーレのような熱狂に包まれ、爆発的なフィナーレを迎える。肝となる歌声についても。トレンディーな高音ではなく、この落ち着いたトーンだからこそ奥底から酸いも甘いも立ち昇ってくるようでとてもエモーショナルだ。スムースな発声をするK-taringの声には隣で語りかけられているような近さがあり、瞬間的にリスナーと信頼関係を築くことができる特別な歌声だと思う。


PURPLE BUBBLE『幸せのスパイス』

「ナツメグ」も収録のEP『幸せのスパイス』

 
 
そんな彼らは、早くも3月15日にアップビートの直球恋愛ソング「ノープラン」を発表した。そもそも彼らは、「JAPAN JAM」の舞台に立ちたいと思ってPURPLE BUBBLEを組んだ(※2)ということだが、邦ロック然としたポップで切なげなメロディーラインやドラマティックな曲展開を見せるこの曲を、大きなフェスで数万人とシンガロングする光景が見えた。キラーチューンを次々と発表し、間違いなく急上昇中のPURPLE BUBBLE。近い将来とんでもないバンドになる可能性を秘めている。


PURPLE BUBBLE「ノープラン」

シングル「ノープラン」

 
PURPLE BUBBLE
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参照:
※1, ※2 IMALAB https://imalab.jp/posts/VAVdnvPO

 
 

この記事の執筆者
堺 涼子
連絡は「sakairyoko8@gmail.com」まで