【このリリースがすごい!】sadchelsea『百華典』 | 猥雑なサウンドと少女性の不協和が引き起こす、悪夢の中毒的オルタナポップ

コラム・特集
2026.10.26
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、sadchelseaのアルバム『百華典』を紹介。


悪夢が現実と理想の不協和によって引き起こされるものとするならば、sadchelseaが誘う「ナイトメアポップ」は今作でいよいよ開花しつつあると言えるだろう。2023年に結成され、これまでリリースしてきた2作のEPでは00年代以降の国内オルタナティブロックにゴスの質感を加えることで個性を確立してきた彼ら。初のフルアルバムとなる本作ではとうとうジャンルの枠を飛び越え、唯一無二の境地に達しようとしている。

バンドにはソングライターが2名いる。作詞も手がける黒宮華(Vo,Gt)の楽曲がその言葉を鮮やかで直情的に具現化するものだとしたら、背景にあるイメージを立体化させるのがpaul(Gt)の役割なのかもしれない。「宵」では妖しげなディスコ・ファンク、「ダンス・マカブル」では闇夜を駆けるようなシンセ・ウェイヴと、現在のJ-ROCK文脈に依存しない形でバンドの世界観を拡張させている。

低音弦のリフがヘヴィに轟く「I Feel an Evil (I want you)」は、グランジすら飛び越えて、Bring Me The Horizon『That’s the Spirit』以降のモダンメタルに接近していると言って差し支えないだろう(エレクトロなサウンドとの自然な接続も含めて)。そしてその振り幅は、奔放なようでいて実のところ、ブレがない美学によって軸が通っているように感じるのだ。いずれも、猥雑で煙たくて、蠱惑的。

だからこそ、黒宮の歌声と歌詞に滲み出る少女性が、やけに際立って耳から離れない。そのボーカリゼーションから、椎名林檎やTommy heavenly6、中島美嘉や土屋アンナによる『NANA』関連楽曲を想起するリスナーは少なくないだろう。そして、その参照元との時代の隔たりすら、丈の合わないコスチュームや馴れないメイクのように、歪な美点となっている。

彼女は、時に「321で、にゃ〜ん★ミ」(「宵」)とかおどけながら、慎みもなく我儘に欲望を吐き出し続ける。本来は街の喧騒から浮いているはずのその声にこそ我々は耳を奪われてしまうし、「黒猫ちゃん」のクライマックスで不意に“大人っぽく”転調した瞬間に、もうその毒性にすっかり魅せられていることに気付かされるのである。



sadchelsea『百華典』

sadchelsea『百華典』各サブスク

sadchelsea『百華典』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーの音楽ライター。