【このリリースがすごい!】Sazanami『漣』| 小さい自分の中にある大きな世界

コラム・特集
2026.10.13
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、Sazanamiのアルバム『漣』を紹介。


Sazanamiの1stアルバム『漣』は、さざめく波と時計の針が動く音から幕を開ける。このオープニングトラック「intro」は、単なる雰囲気作りのためのインストゥルメンタルというよりも、『漣』がどのように鳴らされるのかという宣言であるし、このアルバムがほぼセルフタイトルとも言える一語を冠している以上は、バンドそのものの在り方を規定するものでもあると言えるだろう。つまり彼らは、時が流れゆくことを確かに噛み締めながら、小さなざわめきも聴き逃さないように耳を澄ませて、歌い奏でる。

11曲51分というランタイムは決して短くない。9曲目の「水槽にゆられて」は約7分半にも及ぶし、5分超のトラックも3つある。「不眠日記」では、たった4行の歌詞が喉から放たれるまで、2分35秒の時間をかける。すぐに通り過ぎてもいい場所を、何度も踏み締める。そうして一歩一歩を注意深く確かめ、時には後ろを振り返ったりしながら、Sazanamiは時を進めていく。

そう、彼らが同じメロディを紡ぐ時、それはただ“繰り返された”というよりも、あえて同じ場所に立ち戻ったり、あるいはふとした瞬間に記憶がフラッシュバックしたかのように感じられるのだ。そうした逡巡の先で鳴らされる轟音は、堰を切ったように激情的であると同時に、そうなるべくしてなったという必然性を感じずにはいられない。

きのこ帝国やひとひらを影響源に挙げる4人が一斉にシューゲイズな質感の音を鳴らす時、浮遊感というよりもむしろ、音の中に溺れるような息苦しさに襲われる時がある。前述の「不眠日記」は、せーので響く一音目から重い。そして、その中からどうにか顔を出して呼吸しようともがくように、オガワタクミ(Vo/Gt)の歌声は切実さを帯びている。

浮上して空の高さを知り、また潜水して闇の中に沈む。オガワは、夜道で鼻腔をくすぐる細やかな空気の変化と、あまりにも大きなもの――海、地球、国、世界、命――をどちらも歌詞に描きつつ、その手が包める範囲の狭さを何度も確かめ続けている。だからこそ、トラックリストの最後を飾る「天泣」で“世界の中の自分”と“自分の中の世界”がひっくり返るようなポエトリーリーディングが、それまでの長い旅路の終着点としてあまりにも相応しい。



Sazanami『漣』

Sazanami『漣』各サブスク

Sazanami『漣』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーの音楽ライター。

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