【連載】アーティストのための法と理論 Vol.8 – 他人のギターリフを自分の曲に借用しても大丈夫か? | Law and Theory for Artists

2021.3.6


【連載】アーティストのための法と理論 Vol.8 – 有名曲のリフを自分の曲に借用しても大丈夫か?  | Law and Theory for Artists

音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」の弁護士メンバーが、音楽活動における法的な具体事例をQ&A形式で定期的に解説・紹介する連載『Law and Theory for Artists』の第8回。

全8回の連載の最後を飾る今回は、他人の曲のギターリフを自分の曲に借用する際の注意点について取り上げます。

Law and Theory × THE MAGAZINE
(Illustration : LID BREAK)

 

【連載】アーティストのための法と理論 - Law and Theory for Artists Vol.8

Q. 自分の曲の中で他人の曲のギターリフを使いたいのですが、著作権法上問題はないでしょうか?

<相談内容>
私は、アマチュアハードロックバンドLaws N’ Theoriesの作曲を担当しているISといいます。今回新たに作っている曲のアウトロに、リスペクトの意思を示す意味で、敬愛するバンドGuns N’ Rosesの曲で使われているギターリフを借用することを考えています。曲全体としては、原曲と全く違うものだと思うのですが、これは著作権法違反となってしまうのでしょうか?

 

A. 清水航弁護士の回答

<回答の概要>

自らギターを弾く等して新たに録音する場合、借用したギターリフが、「そのアーティスト専用」としても良い程にオリジナリティがある場合には、無許諾でそのギターリフを用いた楽曲の販売又は演奏等をする行為は編曲権及び同一性保持権侵害となる可能性があります。その場合、JASRAC等の音楽著作権管理事業者への申請に加え、編曲権及び同一性保持権権に関する窓口となる音楽出版社等から許諾を得る必要があります。

また、原曲の音源からそのギターリフ部分のみを収録して利用する(サンプリングをする)場合、レコード会社等から原盤権及び実演家の権利の双方に関する許諾を得る必要もあります。

 
1. 自らギターを弾く等して新たに録音する場合


(1)問題となる権利

著作(権)者には、他人が勝手に自己の著作物の改変等をしないように求める編曲権及び同一性保持権という権利があります(編曲権に関する対応については、本連載Vol.3を参照)。他人のギターリフを自分の楽曲にそのまま用いた場合に編曲権又は同一性保持権の侵害となるかということについて確立した見解は存在しませんが、紛争予防の観点からは、窓口となる音楽出版社等からも許諾を得ておくことが実務的と言えます。

 
(2)ギターリフに著作権が認められるためには

ここで、ギターリフは2~4小節のフレーズを繰り返すものが多く、その長さからいっても、メロディー(旋律)、リズム等の選択の幅に限界があるため、安易に著作権を認めてしまってはおよそ新たな楽曲を生み出すことが出来なくなってしまいます。そこで、ギターリフ自体に著作権が生じるのは、「そのアーティスト専用であり、許諾がなければ他の人が別の曲に使ってはいけない」としてしまっても良い程に、メロディーにオリジナリティが存する場合に限定されるでしょう。

どのような場合に「そのアーティスト専用」としてよいだけのオリジナリティがあると言えるかは、個々の事例判断とはなってしまいますが、ギターリフで言えば例えば以下のようなことが考慮要素として考えられます(なお、これらの要素は、他の楽器のフレーズに著作権が認められるかを検討する際にも共通する部分が多いでしょう)。

※本記事内でリンクを貼付している各動画及びそこで用いられている楽曲は、あくまで奏法その他の例として示しているに過ぎず、当該楽曲のギターリフに著作権が認められるか否かの見解を示すものではないのでご留意ください。
 

①複雑なメロディーであるか否か
順次進行ばかりで音飛びが少なく、休符等がないためにリズムも単調なメロディーは「ありきたり」なものとなりやすく、オリジナリティが認められにくいでしょう。どこからが複雑と言えるかは明確な線引きがなく難しい問題ですので、他の考慮要素も組み合わせて検討せざるを得ませんが、一連のメロディーの中で特徴はどこにあるのかという分析的な視点を持つことは有用と思われます。

 
②どれくらいの長さのリフであるか
短ければ短いほど、レパートリーに限界が生じやすいため、音の並び等に求められるオリジナリティが相対的に上がります。2小節だけのリフで著作権が認められるには、他にはない何かが必要となってくる場合が多いでしょう。また、同じようなフレーズを少しずつ変化させていくリフについては、当該フレーズ単体では著作権が認められると言えなくとも、全体としては著作権が認められる場合もあり得るでしょう。

 
③特定の奏法から生じやすいフレーズであるか否か
ギターを含む楽器では、特定の奏法をすれば「よくあるフレーズ」というのがあります。例えば、単にパワーコードをかき鳴らしたものや、スウィープやライトハンドでは良く出てくる音の並びについては、仮に音程の起伏が激しくとも「そのアーティスト専用」とは認められない場合が多いと考えられます。

Van Halen「Eruption」0:57からライトハンド奏法のフレーズ

 
④そのリフの特徴が「抽象的なアイデア」に過ぎないか否か
抽象的なアイデア自体は著作権による保護の対象とはなりません。例えば、Napalm Deathの「You Suffer」は1.316秒の世界一短い楽曲として有名ですが、これをまねて1.316秒の楽曲を作っても、曲の長さ自体で著作権侵害にはならないのです。同じようにリフについても、電気ドリルを使って弾くリフがあったとして、電気ドリルを使ってリフを弾くというアイデアは著作権で保護されるものではありませんから、それによって弾いている音の並び等に特徴がなければ単独で著作権は認められません。

Napalm Death「You Suffer」

Van Halen「Poundcake」 電気ドリルを使用したリフが聴かれる

 
⑤同じようなリフを用いた楽曲が現に他にどれくらい存在するか
同じようなリフが沢山あり、多くの人が聞いた瞬間に「あの曲のリフだな」と特定することが出来ないような場合には、「そのアーティスト専用」とは認められない場合が多いと考えられます。

同じようなリフは沢山あります……

 
逆に副次的な要素に過ぎず、過度に重視すべきでないと考えられることとしては、以下のものが挙げられます。

①楽曲の知名度
そのリフを用いた楽曲が結果的に大衆に受け入れられたか否かという知名度と、リフ自体に高度のオリジナリティがあるかは別の問題ですので、分けて考えるべきです。但し、楽曲以上にリフ自体が有名である場合、そのリフに強い特徴があると受け入れられたことが間接的に示されているとは考えられます。

 
②テンションコード等の利用
楽曲の類似性に関する裁判例においてメロディーが重視されている傾向に鑑みると、リフの中でテンションコードを用いる等、楽典的にみてやや複雑なことをしていたとしても、そのこと自体によって直ちに当該ギターリフに著作権が認められるとはならないと考えられます。

The Jimi Hendrix Experience「Purple Haze」 テンションコードといえばこの曲が思い浮かぶ人も多いはず

 
③キー(調)、テンポ(BPM)
楽曲の類似性(本質的特徴)を検討するに際し、キーやテンポは重視すべきでないという見解があります。このような見解を参考とすれば、著作権が認められるかを検討するに際しても、キーやテンポは重視すべきでないと考えられます。上記の「メロディーの複雑さ」というものを検討するにあたっても、テンポが速いあるいはキーが高い(低い)ことで弾くのが難しいに過ぎない場合には、そのことをもってオリジナリティが高いとは言いにくいでしょう。

 
④音色(エフェクト)
トーキングモジュレーターやフランジャー等のエフェクターが効果的に用いられることで印象的となっているリフもあります。もっとも、エフェクターの種類自体がそこまで多くないことを考えると、音色の選択は考慮要素として付随的なものにとどまることが多いと考えられます。なお、ディレイやワーミー等の音数や音程を変えるものについては、それによって旋律やリズムがどこまで複雑になっているか等を検討することになるでしょう。

Bon Jovi「Livin’ On A Prayer」 イントロのトーキングモジュレーターが印象的

 
上記を踏まえると、やはりギターリフ自体に著作権が認められる場合は必ずしも多くないように思われます。Guns N’ Rosesの楽曲で言えば、「Sweet Child O’ Mine」のイントロのリフについては、音の並びが特徴的で他の楽曲にはあまり見られないものですから著作権の生じている可能性がありそうですが、他方で「You’re Crazy」のイントロのリフについては、使われている音程が少なく、パワーコード主体の比較的よく用いられるようなフレーズであるため、ギターリフ自体に著作権は認められにくい(あるいは後述のように少し変えれば最早別のフレーズと言いやすい)ように思われます。

 
(3)フレーズを一部変更した場合

仮に原曲のギターリフに著作権が認められるとしても、その一部を変更することで、最早別のフレーズであるとして編曲権侵害にならない場合も考えられます。

もっとも、変更後のリフを聞いた多くの人が依然として「あの曲のリフだな」と思うようであれば、別のフレーズになっているとは言えない場合が多いでしょう。なお、上述のようにコードにテンションを付加したり、キーやテンポを変更しただけでは、もとのリフのメロディーの特徴が失われない(別のフレーズとは言えない)ことが多いと思われます。

 
(4)使用方法について

ア 自己の楽曲の一部に(イントロやアウトロ等にのみ)利用している場合
ギターリフ自体に著作権が認められる場合を前提とすれば、このような使い方であっても権利侵害になると考えられます。また、質問者のようにリスペクトの意思を有していたとしても、それによって適法になるものではありません。

イ 自己の楽曲の主要部分に用いる場合
仮にギターリフ自体には著作権が認められない場合であっても、同じジャンルの曲にそのギターリフを使うことで結果的に楽曲全体あるいは、当該ギターリフを使ったセクション(Aメロ、サビ等)単位で原曲に近いものとなって、編曲権侵害になる場合が考えられることに注意が必要です。

特にハードロック等のギターリフが前面に出ることの多いジャンルでは、原曲の特徴部分として歌メロとギターリフの両方が取り上げられる可能性があり、例えば、Guns N’ Rosesの「It’s So Easy」でも用いられているような歌メロとの掛け合いをしているギターリフについては、結果的に歌メロの音程やリズムも似てしまいがちなので注意が必要です。

 
2. 原曲の音源からそのギターリフ部分のみを収録して用いる場合


原曲のギターリフをサンプリングして用いる場合、著作権等のみならず、原盤権と実演家の権利も問題となります(これらの権利については、本連載Vol.2Vol.4を参照)。

サンプリングについては、様々な議論がされていますが、日本では裁判例の蓄積もなく不明確な点が多い領域です。もっとも、現在の日本の著作権法を前提とすると、許諾を得ることなくギターリフ単位でサンプリングして、大きく加工することなく利用した場合に、適法と判断される場合は多くないように思われます(例えば、「元のレコードを識別できるか否か」を原盤権侵害の基準とする見解がありますが、このような見解に立っても侵害は否定しにくいでしょう)。

したがって、本稿の質問者のようなケースにおいて、ギターリフをサンプリングして利用しようとするのであれば、レコード会社又は音楽出版社等から原盤権と実演家の権利の双方に関する利用許諾を得る必要がありますが、日本においては権利処理の方法が確立されておらず、特に洋楽曲については煩雑となることが指摘されています。そのため、基本的にはサンプリングするのではなく、練習をして自分自身で弾けるようにするか、弾くことの出来る人に依頼する方が現実的でしょう(但し、依頼する場合には、実演家の権利を買い取る等、後に当該音源による収益等について争いが生じないように注意して下さい)。


 
アーティストのための法と理論 Law and Theory for Artists

 

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この記事の執筆者

清水航弁護士

東京弁護士会所属。Music Lawyer Collective「Law and Theory」メンバー。

https://law-and-theory.com/