Maika Loubté インタビュー | スケーラブルなインディペンデント活動を支えるチームビルディング

2020.11.28


Maika Loubté インタビュー | スケーラブルなインディペンデント活動を支えるチームビルディング

インディペンデントアーティストのシェア拡大が鮮明になった2020年、自由なスタンスのアーティストが様々なシーンでフィーチャーされる機会も増え、国内音楽シーンを取り巻く環境も変化しています。インディペンデントアーティストが、あるきっかけからいきなりチャート1位になったり、テレビCMに出ることも珍しくなくなりました。ただ、活動規模がある程度大きくなるとぶつかるのが「手が回らなくなる」という問題。リリース自体は今や自分でもできますが、アーティスト活動にはリリース以外にも当然ライブやMV、PR、マーケティングなど様々なことがあり、全てを自分一人でこなすには限界があります。「自分のペースで活動したいんだけど、急に大きな案件の話も来てて、どうやって対応していけばいいんだろう……」 そういった悩みを抱えるアーティストは今後ますます増えていくでしょう。

そこで、「少人数チームでインディペンデントを貫いてきた」というスタンスながら、海外ツアーも行い、現在、新曲「Show Me How」がMAZDAの新型車CX-30のテレビCMにも起用されるなど、アーティスト活動の規模を拡げているMaika Loubtéへ、スタッフの木村氏を交えながら、スケーラブルなインディペンデント活動を支えているチームがどのように運営されているのか話を伺いました。

 
テレビCMにも起用された新曲「Show Me How」

——先日リリースされた「Show Me How」は昨年のスペインツアーをはじめ、すでにライブではやっていたそうですね。

Maika Loubté : 去年の夏前ぐらいに曲のモチーフはできていました。未完成な曲もライブで演奏して仕上げていくこともあるんです。やっぱりライブでやると改めて気づくこともあるし、客観的に曲に向き合えますから。

——アレンジは最初に比べて変わりましたか?

Maika Loubté : シンセサイザーの音も含め、最初からはっきりとイメージのある曲だったのでそんなに変わらなかったです。しいていうならビートが変わったくらいかな。

——Maikaさんご自身も出演されていますが、「Show Me How」がMAZDA CX-30のCMに起用された経緯というのは?

Maika Loubté : 実はCMのお話をいただいてから、新しく書き下ろしの曲を作る予定だったんですが、CMに使う配信ライブの様子を撮影した時に「Show Me How」を演奏したところ、立ち会っていた関係者の方に「あの曲(「Show Me How」)いいね」って思っていただけたようで。そういう流れから、最終的に「Show Me How」が起用されることになりました。

 
——こういった案件について、例えば木村さんが普段から積極的な営業活動をされているんでしょうか?

Maika Loubté : 案件や仕事をとりにいくみたいな動きは特にはしていないですよね?

木村 : スタッフサイドは基本的に自分とアルバイト的契約のスタッフ、あとはケースに応じて外注するという小さなチームでやっているので、各方面の担当の方とまめにコミュニケーションしたり、アクティブに売り込む営業まではできていないんです。その分、作品やビジュアルを含め、アーティストが作る良いものをちゃんと世の中に伝えていくという基本を大切にしています。そうすることが、仕事の問い合わせにもつながるだろうと考えて取り組んでいます。今回もそういう流れの中でお話をいただけたんだと思います。

Maika Loubté : なので、ありがたいことに今回のお声がけも普通に正面からいただきました。

木村 : 彼女は職業作家としても優れていて、歌唱や楽曲提供など作家仕事もきちんと提供できているので、そこから発生するネットワークもあるんです。そういったコツコツとした地道な活動が、アーティストとしての強度につながっていると思います。

 
チームのきっかけ

——今やインディペンデントアーティストに対してもこういったナショナルクライアントからの案件が以前よりさらに増えてきたと思うのですが、だからこそ、そういったことが発生した時にしっかり対応できる体制を整えておくことが大切になってきていると思います。木村さんとMaikaさんはどのような経緯でチームを組むようになったのでしょうか?

木村 : 自分はタイに関する案件を普段やっていまして、以前「BIG MOUNTAIN MUSIC FESTIVAL」というタイで開催されるフェスのコーディネーションを手伝っていたことがあったんです。そこには毎年日本のミュージシャンをゲストで呼ぶんですけど、2015年12月の開催の時に彼女に出てもらったのが知り合ったきっかけでした。以来、彼女の日本のライブにも顔を出すようになって。その後、2016年の年明けに「マネジメントを手伝ってほしい」と連絡があって、それからです。

——2015年当時、Maikaさんはどういったステータスだったんですか?すでに作品もリリースされていましたが。

Maika Loubté : レーベルは流通だけ手がけてもらっているという感じで、当時は事務的なことも含め完全に一人でやっていました。そういう状態が2015年いっぱいぐらいまで続いていたんですけど、さすがに手が回らなくなってちょっと木村さんに相談してみようかなと。

——マネジメントってアーティスト人生を左右する存在だと思うのですが、木村さんにお願いしたのはどうしてだったんでしょうか?

Maika Loubté : 当時そこまで大げさには考えていなくて。とにかくすごく困っていたんですよね、お仕事のお話をいただいても対応しきれなくて。それで周りを見た時に、実際にやりとりをしたことがあって、なんとなく信用できそうだな、ちゃんとやってくれそうだなっていうのが木村さんだったっていう(笑)。ただ、最初から活動の全てを預けるというより、ギャラの交渉や案件の調整といった、事務的な部分だけをまずお願いしました。やっぱり最初からお互いの理解がすごくあった訳ではなかったので「あなたに私のアーティスト人生お任せします!」という感じでは全くなかったですね。ドライといえばドライな感じではじまったというか。

——木村さんはMaikaさんからお話をいただいた時いかがでした?

木村 : 上手くいかなかった時どうしようかなっていうのを考えました(笑)。やっぱり合う合わないもありますし、時間をかけて理解を深めながらどうなっていくかなっていう感じで。とりあえず、まずは1年だけやってみようと。

ただ最初から意識したのは、今もそうなんですけど、自分の方でアーティストの権利を囲うようなことはやめようということです。正直、いつケンカ別れするか分からないじゃないですか、お互い人間ですし。アーティストの作品や権利は長い時間残っていくものですので、そういうところはできる限り本人がキープできるようにしつつ、それとはまた別のところで自分に分配されるようにできたらいいなという感じで。

——それまでアーティストのマネジメントのご経験というのは?

木村 : マネジメント業務に関しては、もともとタイ人のWisut Ponnimitっていう漫画家のマネジメントをずっとやっているので、交渉や調整は得意なんですけど、彼女のマネジメントをはじめる前ぐらいの時期は、自分が興味ないことを手がけるのはやめようと正直思っていて。音楽はもともと好きでしたけど、もうタイに関することしかやりたくないみたいな(笑)。でも、Maika Loubtéの音楽には個性があるし、嫌いになることはないかもなということで引き受けました。最初はやることの範囲も事務的に線引きして、ここまでしかできないからと。その範囲の中で最大限ちゃんと仕事が増えていくようにやっていこうという取り組みでした。

Maika Loubté : 最初はお互いの領域を侵害しないようにっていうのは特に気を使っていましたね。


Maika Loubté インタビュー | スケーラブルなインディペンデント活動を支えるチームビルディング
タイ最大級の野外音楽フェス「Wonderfruit Festival」出演のためタイ滞在時のMaika Loubté

 
インディペンデントアーティストがはじめてチームを作る際に注意したいこと

——その日まで以前のMaikaさんのように一人でやっていたんだけど、急にバズったりして、いきなり状況が変わっていくような時、まずどんなところを注意しながら周りにお願いしていけばいいんでしょうか?

木村 : 全部自分でできるアーティストもいるので人によると思うんです。とはいえ事務的なことを気にしながら作品に取り組むのって相当ストレスだと思うので、まずはとにかくざっくり制作と雑務を分けた方がいいのかな。

Maika Loubté : 昔の自分もそうだったんですけど、インディペンデントだと何でも自分でやっちゃいがちというか。ある程度まではそれでいいと思うんですけど。だから、自分で何が出来て何が出来ないかをまず洗い出して、把握しておくといいかもしれませんね。そこをはっきりさせて、お願いできるところは信頼できる人にお願いして。それがどれだけ整理されているかが、いかに自分が創作に没頭できる環境を作れるかにつながると思います。

あと、当たり前ですけどお互い顔が見えているっていうの大切だと思います。本当に忙しくて困ってたら正常な判断ができなくて、会ったことのない知らない人たちの甘い言葉を頼ってしまうようなこともなくはないと思うし。いきなり送られてきたメールのおいしい話に飛びつくと危ないみたいな(笑)。どこに所属するかっていう規模の大小で判断するよりも、誰と一緒にやっていくのかっていう信頼、人間の部分が大事だと思います。

木村 : 気をつけることとしては、アーティストとスタッフの関係がどうなるか分からなくても案件や作品は続いていくので、お互い期間を区切って、チームが解散したとしてもその期間は最後までちゃんとやってねっていう風にしておいたほうがいいと思いますよ。ただ、個人間の場合は、最初から律儀に契約書っていうのも難しいかもしれないので、合意の覚書だけでも残しておいた方がいいと思います

Maika Loubté : そして、何をお願いするにしてもやっぱりお金の話は最初にちゃんとしておいた方がいいですよね。

——一緒にやる人とその業務の目処がついたとしても、コミット具合はどうコントロールすればいいでしょうか。例えばアーティストが主導の場合、月に決まったお金を渡したとして、果たしてその分に見合った動きをしてくれるかってやっぱり不安な部分もあると思うんですよね。しかも、そのお金の相場さえ分からないケースもあります。

木村 : そこは難しいですよね。少なくとも必ず定期的に見直すタイミングを設定しておくべきだと思います。定期的に一緒に状況をレビューする機会を設けていれば、お願いしている仕事量と金額のバランスが是正されていきますし、それを繰り返せば、結果としてアーティストにとって良い環境につながると思います。だから、あまり最初に責任感が発生しすぎるような仕組みは多分良くなくて。お互い結果を求めすぎず、期待しすぎずにスモールスタートできる仕組みの方がいいのかなと僕は思います。

Maika Loubté : お願いして思った通りの結果がでなかったとしても、なんでもトライアンドエラーですし、目の前のことに一喜一憂しても結局それは商業的な話でしかないんですよね。アーティストとして表現の根本にあるのは作品と自分ですし、純粋に「この曲が人に伝わってほしい」という気持ちそのものが大切なので。それこそ時間が経って聴かれるかもしれなくて、目の前の結果をコントロールしようとしすぎなくてもいいんじゃないかな。

——世の中には目的と手段が逆になっているケースも度々目にします。

Maika Loubté : シンプルに純粋に音楽と向き合うことが大事なのに、見栄えや方法にとらわれすぎるのはおかしいですよね。私もその辺は純粋に取り組んでいたいなと。

 
アーティストとスタッフのコミュニケーション

——普段のお互いのコミュニケーションってどういう感じなんですか?

木村 : 一回案件が走り出すとそれはもう毎日ですよね。お互いウザいと思ってるんじゃないのかな(笑)。それこそ夫婦や恋人よりも頻繁な連絡になってくるので。だから仕事以外の部分では極力関わらないようにしているというか。

Maika Loubté :「おはよう」とかそういう挨拶もないです(笑)。

木村 : その辺の距離感も意識しています。良い作品作りの環境を作れるようサポートすることに愛を持って取り組めたらいいなと思ってて。

——今までチーム解散の危機のようなことはありましたか?

Maika Loubté : ケンカは普通にありますよ(笑)。

木村 : お互い本音で話しますからね。ただ、お金で揉めたことはないです。

——ケンカしても案件は続いていたらコミュニケーションしなきゃいけないじゃないですか。仲直りはどうやって?

Maika Loubté : 特に仲直りのくだりもないですよ。普通に淡々と(苦笑)。ケンカ別れしたとしても、結局何事も永遠ではないから。みんないつかは死ぬし。

木村 : いつどうなるか分からないですからね。この取材を受けた明日にもケンカ別れするかもしれないし、そうなったとしてもアーティスト活動は続いていくわけで。だから、普段からどういう状況になってもアーティスト活動が続けられるようにスタッフは意識しておいたほうがいいですよね。

Maika Loubté : 夫婦だって離婚するし、バンドだって解散するし、そういう“人との約束”っていうのはあってないようなもの。ただ、自分が音楽を作って人に伝えようっていうのは“自分との約束”で、自分がコントロールできるものなんですよね。自分との約束をしっかりしていれば、私としては人との別れがあるかもしれないっていうことも別にネガティブにはとらえていなくて。

——お二人の「いつどうなるか分からない」という考えだったり、そういうテンションや感覚があっているというのもチームでは大事なのかもしれませんね。少し話は変わりますが、普段のコミュニケーションや管理においてツールは何を使っていますか?

Maika Loubté : 連絡に関しては主にLINEですね。海外の人が関わる場合でもけっこうLINEを使いますが、WhatsAppやWeChatもあると便利です。

木村 : 資料の共有に関してはDropboxを使っていて、クリエイテイブ系を入れるフォルダとお金関係をまとめたフォルダに分けて整理、運用しています。計画や予算、タイムラインの共有はGoogleのスプレッドシート、スタッフとのto do共有にはTrelloを使っています。

 
方向性はどこまで相談する?

——アーティスト活動の方向性については相談して決めていますか?それともあくまでMaikaさんの意思があって、その決まったことに対して木村さんがサポートするというカタチなんでしょうか?

Maika Loubté : 方向性も事務的なこととクリエイティブ的なことの二つあると思うんです。例えば、リリースに関してどのディストリビューターにするかといったことは、事務的な作業も伴うしトライアンドエラーしていく範囲ですから相談しますね。一方で、音楽的な方向性やアーティスト像といった部分に関しては、自分の判断で迷いなくやってます。本当に自分がやりたいこと、説得力のあるものを作ること、そういった一番大事な部分は自分で決めています。

木村 : 僕自身がけっこう独立思考が強くて、自分でやったほうが結果として最後に得るものは大きくなるんじゃない?っていう考えを音楽に限らず持っているので、クリエイテイブに関してはアーティストが納得してやれているのが一番大切だと考えています。ただ意見は正直に言いますね、「これシングルにした方がいいんじゃないの」とか、「これはあんまり好きじゃないな」とか。

Maika Loubté : そうやって本当に思ったことを正直に言ってくれるのは、なんとなく「いいんじゃない?」って適当な意見を言われるよりかはずっといいと思ってて。ある意味信用できる貴重で客観的な意見ですよね。その意見を聞くか聞かないかは別ですけど(笑)。でも幸いなことに音楽に関して全く趣味が合わないっていうのは今のところなくて。

木村 : 大前提としてアーティストが納得しているのが一番重要ですけど、出来上がったものの趣味があうかどうかというのもチームにおいてはけっこう大切だと思うんです。人間なので好き嫌いはどうしてもありますし。彼女の場合は、僕も自分に嘘をつかず後ろめたくなく良いものとして人に伝えることができています。自分があまりいいと思わないものを人に勧めるっていうのは、いずれどこかで無理が生じるんですよね。

 
リリースにおける企画はどうやって考える?

——Maikaさんはリリース毎にタイアップや企画がいい感じに伴っていますよね。

Maika Loubté : ラッキーだと思います、毎回本当にありがたいです。

木村 : そのラッキーを引き寄せるのが普段からの地道かつ持続的な活動であって、それがきちんと布石や種になっているのかなと。

——リリース時の企画、例えば昨年の「Ride My Bike」では世界中から写真を募ってアートワークにし、ファンを巻き込んでいって広まりましたよね。ああいったアイデアはチームで話し合って出てくるんでしょうか?

Maika Loubté : その去年の企画は、もともと私が写真のコラージュで何かやりたいなと思ってたことがきっかけで立ち上がったので、私サイドの発案ではあるんですけど、スピード感を持ってカタチにできたのは、やっぱりスモールな体制ならではの身軽さとチームワークがあってこそだと感じました。さらに、企画を走らせながらグッズにしようとか、様々なチーム内でのインプットがあったことで、あそこまで広がったと思いますね。

 
木村 : maco maretsさんとのコラボ曲「Niet II」も、原曲の「Niet」がアルバム『Closer』の中の一曲で、ピッチする機会がなかった作品だったんです。でもすごく良い曲だし、なんとかこの曲に光を当てたい、みんなにこの曲の良さに気付いてもらいたいよねっていうことで、ライブでご縁があったmaco maretsさんを招いてシングルとして改めてリリースしたという経緯があって。こういう風に曲とちゃんと向き合った上で、毎回何かしら引っかかりがあるよう取り組んでいます。

 
Maika Loubté : まずは音楽ありきで、それを伝えるには何ができるだろうって、そういった意識が共有できていれば自分やチームからも自然と色んなアイデアがでてくるのかなと思います。

——インディペンデントなアーティストにとって、プロモーションやメディアへの露出はどうしても気になるところですが、結局は日頃からのコツコツとした活動や音楽自体に向き合い続けることが重要で、近道はないということですよね。

Maika Loubté : プロモーションについては、私もまわりのインディーズのミュージシャン友達と話していたら時々トピックにあがりますけど、答えはないですよね。もうコツコツやるしかなくて。いいものを作って、それを人に届けたい、そこから何ができるだろうしかなくて。

今回のCMについてもコツコツと音楽活動をやってきた中の一つの出来事で、テレビということでバンって目立って見えるかもしれませんけど、そこにつながるたくさんの地道なことがあった上でのありがたいお話なんだろうなと。だから、これからも自分との約束を大切にしながら、チームとも音楽ありきの意識の共有と信頼関係を続けていけたらなと思います。いつどうなるか分からないですけど(笑)。

 
 

※Maika Loubtéによるプレイリスト「Maika Loubté : 心に保湿できる、シンセサイザーミュージック」が、『THE MAGAZINE』のApple Musicオフィシャルキュレーターページにて公開中。

 

Maika Loubté
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この記事の執筆者

THE MAGAZINE

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