NORIKIYO | 新作『馬鹿と鋏と』ロングインタビュー「ラッパーとして、自分が持ってる志に誠実にやりたいってだけ」

2018.10.18


NORIKIYO | 新作『馬鹿と鋏と』ロングインタビュー「ラッパーとして、自分が持ってる志に誠実にやりたいってだけ」
NORIKIYO

ラッパー・NORIKIYOが、先日8枚目となるアルバム『馬鹿と鋏と』をリリースした。本作から新たにストリーミングも解禁され、精力的な活動は変わらず磨きがかかり、そのブレないスタンスにファンはもちろん、ミュージシャンからも高いプロップスを得続けている。新作のエピソード、サウンドに対するこだわり、敬愛するアーティスト、そして今後の活動等々、「ラッパーは街や時代の代弁者であるべき」と語るNORIKIYOが、今の時代に何を感じ、何を思い、何を伝えようとしているのか。そんな彼が語った生の言葉をできる限り再現しようと試みたロングインタビュー。

 

アルバムタイトルに込めた意味

——前作の『Bouquet』は”後悔”といったプライベートな部分がテーマでしたよね。裏テーマには”LOVE”があったりと。それに続く今作『馬鹿と鋏と』のテーマをまずお伺いしてもいいですか。

“馬鹿と鋏は使いよう”っていう言葉から着想して作ったアルバムで。その言葉の本来の意味はご存知の通りだと思うんですけど、今回の場合は「馬鹿が鋏を持っている」っていう風に考えてて。完璧な人間なんかいないじゃないですか。みんな多かれ少なかれ馬鹿な部分はありますし。ここで言う”鋏”っていうのは自分の得意なこと、例えば仕事だったり。サッカー選手だったらサッカー、書道家だったら書く事だったり。そういう”鋏をどう使うか”っていうのを表現してます。

でも、それだったらタイトルも「馬鹿と鋏」でいいんですけど、鋏の後に「と」をつけた理由は「馬鹿と鋏と”何”なのか?」の”何”の部分をみんなに考えてもらいたいっていうのがあって。完璧じゃない自分が、自分の秀でたものだったり、やりたいと思ってることに対して、その自分が持ってる武器をどう使うか、何を持って使うかっていうこと、を考えてもらいたいなっていう。

——みんなへの問いかけだと。

まぁカッコよく言ったらそうですね(笑)。

——僕も考えてみて、そこには”音楽”っていう言葉もあてはまるのかなってちょっと思いました。音楽も表現する人によっては、すごくいいものができたり、全然違うものができたりすることもあるなと。

そういう風に捉えてもらってもいいし、特に正確な答えがあるわけでもないんですけど、俺はそこに志や愛を考えたんです。そういう事をぼんやりとイメージしました。

——その考えに至る、何かきっかけがあったんでしょうか?

友達の話なんですけど、会社に行く途中にホームレスの人がいて、ある朝パンをあげたらしいんです。そしたら「ありがとう!」って喜んでくれて、次の日もいるんでまたパンを差し入れたりしているうちに、話をするようになったと。「おじさん、なんでこんなことやってんの?仕事したほうがいいよ」って言ったら「おう、仕事したいんだけどな」って答えるもんだから、知り合いの建設会社の社長さんに仕事に就けるよう話をつけてあげたらしいんですね。面接の住所も書いて渡して。そしたら、そのおじさんは面接の日に来なかったらしいんです。で、次の週会社行く時にまたいるから「なんで行かなかったんだよ、おかげで恥かいたじゃん」って言ったら、おじさんは「でも仕事しなくても、お兄ちゃんがパンくれるから」って。

この話を聞いて、確かにこっちが良かれと思ってやってる事でも、無駄になることもあるなと思って。人を助けたと思ったとしても、それがただの甘えになっちゃったりする。それも”使いよう”ってことだし、その話がすごい興味深いなと思って。

——確かに、考えさせられるエピソードです。

それで、そういう行為を効果的にするには、どうすれば良いかなって思って。俺も子供ができて思ったことは、子供の歩く道の石ころをコケないように全部とってあげるのか、敢えてそのままにして、コケたら「ほら下見て歩かないと、コケて痛いんだぞ」って身をもって分かってもらうのか。それって、両方とも愛じゃないですか。そういった愛なんかの使い方にもっと意識を向けたら、もうちょっと色んな物事がうまくいくかなと。それは相手の立場に立って人をより深く思いやる行為だと思うし、エゴと呼ばれるようなものじゃなくて、なんかもうちょっとキラキラしてるっていうか。そういった思いで作りました。

——『Bouquet』を制作の時点ですでにコンセプトのある作品を作りたいとおっしゃっていましたが、それが今作にあたるんでしょうか?

どうだったかな。いずれにせよ、その時に1曲目の「馬鹿と鋏と」という曲のトラックはもうあって、「これはもう絶対次のアルバムの1曲目にしよう」っていうのは決めてました。ただ何を書くかは決まってなかったですね。それで、さっきの話を友達から聞いた時に「俺もそういうことあるな」って。同じようなことをしてガッカリしたこともあるし。多分親が俺にしてくれたことを考えたら、親もガッカリしたこともあったんだろうなと思って(笑)。だからそれって本当に”使いよう”の話だなって思った時に、”馬鹿と鋏は使いよう”っていうのがパーンときて作り始めた感じですね。

 

また一曲目から聴きたくなるような構成に

——今回のアルバムを全て聴かせていただいて、月並みなんですけど、バラエティに富んでるなと思いました。いわゆるオントレンドなヒップホップが多くリリースされている昨今、音楽的にも普遍性をもった楽曲が揃っているなと。全体的にはどういうサウンドをイメージして作られたんでしょうか。

サウンドに関して言うと、周りの方が作ってるアルバムって、例えばトラップミュージックだったら、全部トラップミュージックっぽいオケじゃないですか。俺はあんまりそういうのにこだわってないんです。アルバムで伝えたいテーマを伝えるためにトラックを選ぶっていう風にしてるんで。

もちろんその前にはトラックだけ聴いて選ぶんですけど、色んな音楽が好きなんで、雑食というか、サウンドとしてはそんなにまとまってるものじゃないかなと。ただ、好きなトラックで曲を書いていって、アルバムの伝えたいテーマが決まったら、並べなおしたり、足りないところを足したり、無駄な部分は省いたりして、曲を詰めていく感じで作ってます。

——ライナーノーツには”爽快感”という言葉もあって、アルバムの最後は「乾杯」って言葉で締められていますし、全体を聴き終わった後にスッキリというか、ある種心地よい感覚になりました。

まぁ嫌な気持ちになってもらいたくて音楽やってる訳じゃないから。例えるなら、カレーを食べに行って、ただ暴力的な辛さだったというよりは、スパイスも効いてて辛いんだけどちゃんと美味いというか。そんでラッシー飲んで爽やかに帰るみたいなね(笑)。「辛かったけど美味かった、また食べたいな」っていう風にまた一曲目から聴きたいと思って欲しいし、そういうところは毎回意識しています。

——トラックについてですが、集め方は前作の時と同じような感じだったんでしょうか?

基本的にはそうですね。トラックメーカーもInstagramにアカウントあるんで、それで連絡とってみたり。あとは前からずっとお世話になってる海外の人や、トラックをずっと作ってる仲間もいるし。なんか海外のトラックメーカーのその仲間にも俺のメールのアドレスが流出してるみたいで、勝手にトラックが届くこともあるんです。「あいつと同じ条件でいいからPayPalでここに振り込め」みたいな(笑)。

——勝手に送りつけてくるってすごいですね(笑)。今回は13曲中6曲がT-Jonesのトラックですよね。

彼はもう4枚目くらいからお世話になってて。

——T-Jonesのトラックを使うようになったきっかけは?

なんかディグってて見つけたんですよね。YouTubeで「R&B Instrumental」、「HIPHOP Instrumental」とかで検索してて、その流れでディグリまくってたらHPに行きついて連絡したって感じだったかな。彼はJust Blazeに「こいつのトラックヤバい」って言われてるみたいで。ホーンとかベース、ハイハットとかも恐らく生で、良いトラック作るんですよ。だから、グルーヴもクォンタイズしてるわけじゃないから、やっぱりすごいいいんですよね。かと思ったら、すごい電子的な曲も作れるし。引き出しがすごい。

——ちなみに会ったことはあるんですか?

いや、それがなくて。メールとかのやり取りだけで。

——前作では、「It Ain’t Nothing Like Hip Hop」や「Memories&Scars feat.七尾旅人」もT-Jonesのトラックでしたよね。Facebookのポストで拝見したんですけど、「It Ain’t Nothing Like Hip Hop」の曲名についてT-Jonesから軽い注文があったようですが。

たまに自信のある曲が出来て、気乗りしたらそれをプロデューサーに送るんですよ。それで「It Ain’t Nothing Like Hip Hop」をT-Jonesに送った時に、「グッドバイブスなのは伝わるけど、これフックの英語の意味違うんじゃねえか?」って言われて。「こういう意味で使ってるんだけど」って説明しても、「いや、それは違うよ。そのままだったら出さないでくれ」って。「俺の名前がクレジットされてたら、俺はヒップホップが生まれた国でやってて、このままだと『ヒップホップなんかもういい』みたいな意味で勘違いされるから」って言うから、「じゃあもうサビ録り直すよ」って(苦笑)。

——そういうこともあるんですね。ビートメイカーとプロデューサーの部分で、最近はトラックを集めて、NORIKIYOさんが作りあげるといった感じでやられてるんでしょうか?2作目とかはBACHLOGICさんとガッツリやられていましたけど。

うーん、その辺はどうだろう。届いた時点でもうトラックにフックでメロディが入ってる時もありますけどね。「リアーナになりたいんだろうな」みたいな感じの女のコのガイドが乗ってたりとか(笑)。まぁ、その通りにやるわけじゃないですけど、参考にする時もあるかな。


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フィーチャリングアーティストとのエピソード

——今作だと、例えばACHARUさんが歌ってるところのメロディーはNORIKIYOさんが考えたんですか?

ACHARUちゃんとの曲は歌詞は全部俺が考えてて、誰か歌ってくれる人いないかなってなった時に、ACHARUちゃんは駅2つ隣に住んでるし、レコーディングに迎えに行くのも楽だし、ダメ元で頼んでみっかみたいな(笑)。彼女は自分で曲も作るし、歌詞もメロも書く人だから、オレが書いたものをやってもらうのはちょっと失礼かなって思ったんですけど、まあ友達だし、一回頼んでみるかって。そしたらOKしてくれて。でも最終的には、メロはACHARUちゃんなりに、自分好みのメロに変えてきてくれて。

——客演でいうと、今回AK-69さんを初めて迎えられていますが、そのきっかけというのは?

以前に、AK-69さんの曲のRemixでお誘いいただいて。それでライブとか、武道館もそうですけど、呼んだいただいたりお話しする機会も増えて。そういう時に、AK-69さんのライブDJをされてるDJ NISHIMIAさんと俺のライブDJのDJ DEFLOくんが仲が良いんですけど、ちょうど二人がいるイベントに遊びにいったら、DJ NISHIMIAさんから「いつもやったことないような曲を一緒にやったら面白いんじゃないの?」って言っていただいて。

それで、AK-69名義の曲じゃあまり無かった様な曲をやりたいなって思って。彼も人間だからきっと鬱憤も溜まってるだろうし。だから、やるんならAK-69さんが持ってるはずの引き出しでまだ開けて無い箇所を開けたくて、敢えてすげえ嫌味な曲を書いて一緒にやりたいなって思って。だから「可哀想な人達 feat. AK-69」は最初からAK-69さんを誘うつもりで書いた曲なんです。絶対AK-69さんなら、ただ嫌な感じじゃなくリリカルに面白いっていう意味で嫌味な曲も書けるはずだと思ったし。AK-69さんのファンの人にも面白いと思ってもらえるだろうし、俺の音楽をフォローしてくれてる人も「AK-69ってすごい面白いな」って感じてもらえるような曲になったと思います。

——AK-69さんにその提案をした時は、最初どういうリアクションでしたか?

「ぜひやらせてよ!」って言っていただけました。「次のアルバムでやってもらいたい曲があるんですけど」って電話して、テーマとかどういう曲かとか、オケも伝える前に「もう絶対やるよ!」みたいな。二つ返事で引き受けていただけて。

——曲のテーマに関してもすぐに理解していただけた?

俺が最初に録った物を送ったら「NORIKIYOはこのリリックはどういうことで着想して書いたんだ?」って訊かれて、説明させていただいて。この曲で言ってるみたいな人たちについて、言いっ放しで「お前らクズだな、ダセーよ」っていうんじゃなくて、愛を持って忠告するというか。「もっと違う時間の使い方あるよ」って、ほんのりあったかい感じにしたいんですよって。そしたら、もうバッチリなやつを仕上げてきてくれて。

——その前の曲の「Same Shit」とあわせて、3~4曲目は、今回のアルバムの中で皮肉が効いている流れになっていますね。

そこはスパイスっていうか、その流れがあるから全体としての味が引き立つでしょ、って感じですね。だから、伝えたいことを伝えるためには必要なセクションというか。ツンデレで言ったら”ツン”みたいな(笑)。でも、そうするためにわざと書いてるていうよりかは、思ったことの本音ではあるんで。ただ、アルバムのどこに配置するかってなったら、まあその辺がいいのかなって。

——また、「墓石屋の倅 feat. DJ SOMA」に参加されているDJ SOMAさんは、相模原の先輩なんですか?

そうです。俺が中学校の時だったかな、「東京ストリートニュース!」っていう雑誌があって全国の地元の有名人が載ってたんですけど、それこそMACCHOくんも載ってたし。で、相模原はそのDJ SOMAくんだったんですよ。もう昔から地元の超ヒーローみたいな。

——DJ SOMAさんとは何かエピソードとかあったりします?

彼は六本木にあったクラブのラウディの店長をやってたんですけど、俺が初めてDJをやったのがそのハコで。その時、ヘッドフォンのボリュームの場所が分かんなくて「すいません、ヘッドフォンのボリュームどこですか?」って聞いたら「ここだよ!」って”MONITOR”の部分を指すから、「”MONITOR”って何ですか?」って聞いたら、「お前、そんなことも分わかんないのにDJやってんのかよ」っていうやり取りがあって(笑)。いつかそれを復讐してやろうと思って、今回フックアップして復讐を遂げました (笑)。まぁ、いつも一緒に飲んだら言ってることなんですけど(笑)。最近はRIP SLYMEさんのライブDJやったり、underslowjamsをやってたり。スクラッチが昔から上手だったんで、今回お願いしました。

——この曲は、NORIKIYOさん的にストライクゾーンのど真ん中だということですが。

ですね、この曲はMVも撮って、発売日に公開して。曲中でMACCHOくんの歌詞を使ってるので、MACCHOくんに少し出演していただいて、子供の頃からずっと見てて、ステージの下から首あげて見上げる存在だった、昔からリスペクトしてる人たちと曲作ったり、せめぎ合いながら表現し合う、その舞台に俺も来たんだなって思いましたね。歌詞も使ってるんで、せっかくだからMVにもMACCHOくんに出てもらいたいってお願いしたら、曲も聴いてないのに「いいよ」みたいな(笑)。

——そのパターン多いですね(笑)。

「明日撮影なんで、どこどこまで来てください」って言って、ずっと前から曲は送ってたんですけど、前日に初めて「曲聴いたんだけど」って(笑)。直前で聴いたのによくこの人出てくれるなみたいな(笑)。

——このMVのコンセプトというのは?

お葬式を連想させるのがいいなと思ってて、いつもお願いしてる地元の映像監督のダイキスポーツに「白黒で撮りたくて、あとは任せるんで」ってだけ伝えて。内容はまぁ見ていただければ。

——「Elevation feat. DJ DEEQUITE」では、トークボックス奏者のDJ DEEQUITEさんを迎えていますね。

IITIGHT MUSICっていうWest Coastのヒップホップが好みの人たちがやってるお店があるんですけど、その1店舗目が町田、2店舗目が渋谷だったかな、彼はそこに所属してるDJでありトークボックスも出来る感じです。

ちなみに、IITIGHT MUSICは痒い所に手が届くっていうか、誰も知らないようなアーティストのCDをこのご時世にコンプトンまで行って、リカーショップのレジとかに置いてある自分たちでパッキングしましたみたいな音源を買って来て置いてるお店で。それで、SD JUNKSTAのWAXのアルバムでDJ DEEQUITEがトークボックスもできるって知ってたんで依頼しました。

——また、般若さんとはこれまでもご一緒されていますけど、今回の「Grinding Grinding feat. 般若」ではいかがでしたか?

早かったですね、彼は。「最近忙しいですか?」って聞いたら、「芝居もあるし、忙しいよ」って言ってて。「とりあえずプリプロ終わった曲あるんで送ります」って送って、忙しいみたいだから時間かかるだろうなと思ってたら、「俺も言いたいことあるから」って確か3~4日くらいで戻ってきて(笑)。昭和レコードのスタジオで録ったと思うんですけど、「どうだった?」って言われて「いやもう何も言うことないっす」って言う感じ(笑)。誰もがクスッと笑える面白いところもありつつ、メッセージは確実に伝えるっていうのをその短期間で出来るのは流石だなと。あと、あの人ワンテイクしか録らないんですよ、客演は。セカンドアルバムでやっていただいた曲のレコーディングもスタジオに来て2分で終わったんで。滞在時間15分くらいで帰っていった(笑)。

——すごい(笑)。

「BEATS & RHYME」作った時もワンテイクでしたからね。

 

マスタリング、ジャケットについて

——サウンドの部分でいうと、マスタリングはここ最近、4枚目から前作まではトム・コインがやられてましたね。先日、残念ながらお亡くなりになられましたが。

そうなんですよね。マスタリングとかミックスに関しては、基本的に昔からOHLDとやってきたんですけど、以前のアルバムで彼がトム・コインにマスタリング投げたら「お前のミックスめちゃめちゃいいね!」って返ってきて、「世界のトム・コインから褒められた」って喜んでてて。「好みがどっちか分かんないから、低音強めと普通なやつ2パターン作ったから、どっちか好きな方選んで使ってくれよ」ってトムから戻ってきて、「そんなことあんの!超ぜいたくじゃね!」ってスタジオで爆音で聴き比べながら、どっちも良くて決めらんないな、みたいなこともあったりして。

それで、お亡くなりになられたって知って、もう俺達どうしたらいいんだってなってたんですけど、I-DeA君とPUNPEEと一緒にブルーハーツのトリビュートに参加させてもらったときに3人で話してたら、マスタリングの話題になって、どうやらJoey Bada$$をマスタリングしてる日本人がいるらしいと。調べたらThe Mastering Palaceってとこで、そこが錚々たるアーティストを手がけてて。それこそChance the RapperやPusha Tとか、最近のJay-Zもそうだし。一見でも頼めるのかなと思ったら、普通にオーダーフォームがあるじゃんって(笑)。それでその日本人の方に、Tatsuya Satoさんっていうんですけど、お願いして。細かいニュアンスとか、もしイメージとかけ離れてたら英語だと伝えるの中々難しいじゃないですか。だから、日本人に頼んでみたいっていうのと、Joey Bada$$やってる人だから分かってるだろうなっていうのもあって。

——仕上がりはいかがでしたか?

バッチリだったし日本人の良さも出ているマスタリングだなと思いましたね。やっぱエンジニアによって味があると思うんですけど、トムみたいな派手な感じというより、全体を馴染ませつつ滑らかというか。足りないところは足してくれてるし。だから俺からしてみたら違う魔法使いが現れた感じ。ドラクエでいったら、トムが攻撃系の魔法使いだったら、Satoさんは僧侶とか賢者みたいな魔法を使うっていうか(笑)。きめ細やかで、まさに日本の職人、宮大工みたいな仕事をする人だなって思いましたね。

——クリエイターが関わる部分でいうと、ジャケットは今回も246GRAPHIXが手がけられていますよね。今までとまた少し違うというか、ポップというか。これはNORIKIYOさんがこういう感じがいいとイメージを伝えたりしたんですか?

いやジャケットに関しては、完全に信頼してお任せしてるんで。今回は締め切り1週間前に突然iPhoneで写真撮られて、「あいうえお」って言ってみてとか言われて (笑)。締め切りも迫ってたんで適当に作ったんじゃないですか(笑)。「どう?」って言われて。「どうもこうも、好きにやって下さい」みたいなやりとりで(笑)。KANE君がレイアウトとかやって、細かいところはFATEがやって。今思えばタイトルに鋏が入ってるから切り貼りした感じにしたのかなと。


NORIKIYO 『馬鹿と鋏と』
NORIKIYO『馬鹿と鋏と』ジャケット

 

ストリーミング解禁の経緯

——さらに今回のアルバムからの新たな試みといえば、ストリーミングを解禁されましたが、その経緯というのは?

昔から流通に関して相談に乗ってくれてる友達に時代の潮流を聞いたりもして。俺自身Apple Musicには入ってるんですけど、それで音楽を聴くことはほぼないんですよね。ぶっちゃけ月に1回開くかなぐらいで、個人的には試聴機みたいな感覚で使ってて。だから新譜はクラブや友達の車で聴いたり、気になったのはSHAZAMで調べて、そこからYouTubeでディグったりとか。そういうノリで、暇な時にApple Musicで適当に聴くかみたいな。そこで気に入った物があればCDで出てればCD買う感じですね。

でも、ストリーミングに関しては、やってももはや安売りする感じにはならないんじゃないかなって思いはじめて。最初は曲っていう自分の大切な子がぶん回されてるみたいなイメージがあって毛嫌いしてた部分はあったんですけど、ストリーミングで聴いて気に入って、好きになってくれた人は買ってくださる事もあるだろうし、さらにライブに来ていただいて、その曲の良さを証明すれば、信頼関係ができるだろうし。そういう関係ができれば、また俺が作品を出した時には興味を持ってくださるだろうし。だから、その入口としてストリーミングがあってもいいのかな、そういう時代なのかなって。要は試聴機って考えたら、そこには入ってた方がいいわけじゃないですか。それだったら入ってないより入ってるほうが知ってもらえる機会も増えるだろうし。それで、どうせサブスクやるなら、Apple Music以外も全部やろうっていう。もともと海外には、CDを買う文化がもうないだろうってうことで、Spotifyでだけやってたんですけどね。

——NORIKIYOさんは、これまでもファンに寄り添うというか、ニーズを適切に汲みとってこられた気がするんですよね、楽曲のフリーDLをやられたり、CDの封入でライブでの特典をつけたりとか。

みんなの意を汲んでるというよりも、一緒に面白いことをしたいっていう感じですね。一緒に楽しみたい。例えばCDの特典も、ライブに来てもらって一緒にライブを作り上げて、「あぁ面白かったね」ってなりたくて。そのための工夫をするっていうか、お互い信頼関係を作る為になんかできないかなって考えてます。

——前作リリース後は詩集『路傍に添える』を発表されていましたが、今作の後もそういったアプローチの作品は何か考えていらっしゃいますか?

そういうのは今のところ特にないですね。詩集は俺が出したいと思って出した訳ではないので。ワンマンライブはやろうと思ってはいるんですけど。キャパも今までよりも少し大きいところに挑戦してみたいなっていうのはあります。

 

「ラッパーとして、自分が持ってる志に誠実にやりたいってだけ」

——長くやられてきた中、NORIKIYOさんの理想とするアーティスト像に近づいていると思いますか?

そのアーティストっていう言葉がちょっとね、どういうものなのか僕には分かんないですけど。自分の作った音楽をより多くの人に伝えて、その音楽を使ってみんなで楽しみたい、そのスケール感を大きくしたいってのはあります。伝えられる人数は増やしていきたいし、その日がお祭りだったとしたら大人数でやったほうが面白いじゃんっていう。

“アーティスト像”とかみなさんおっしゃいますけど、それより「40歳手前のおじさんがラップという術を使って面白いこと企ててる」っていうだけなんですよね。それを世の中の人がアーティストっていうならそうかもしれないですけど。オレの中でアーティストっていうと、もうちょっと崇高なイメージがあるんですよ。だからアーティスト云々とか言われると、こそばゆいというか居心地悪いというか。ラッパーとして、自分が持ってる志に誠実にやりたいってだけで。それをやってる間はまだチャンスがあるんじゃないかなって。人に音楽を聴いてもらえるチャンスが少しは続くんじゃないかって。いつ聴いてもらえなくなるか分からないし、だから、せめて聴いてくれる人たちには楽しんでもらいたいんです。その人たちのためだけにやってるわけではないんですけど、信頼関係っていうか、さっきも言ったような楽しませる工夫っていうのをちりばめていきたいです。

やっぱり曲を書いているときはライブを意識して書いてるし。実際、今回の「墓石屋の倅」だったら、「BEATS & RHYME」の曲のイントロをスクラッチこすって入れてて。だからライブで「墓石屋の倅」やって「BEATS & RHYME」をスクラッチした部分で実際に「BEATS & RHYME」をかけて、その流れでMACCHOくんが出てきて「BEATS & RHYME」一緒にやったらさらに盛り上がるだろうと。そういうとこまで想像して曲作ってるから、聴いてくれてる人にゴマすってるわけじゃなく、楽しんでもらえる工夫ってのは常に考えて作ってます。細部までディテールを考えて作ってるから。なるべく独りよがりにならないように、下世話な言い方かもしれないですけど、セックスできるっていうか、その方がお互い気持ちいいだろうなって。

——聴いてくれる方、ライブに足を運んでくれる方、そういう人達との信頼関係もしっかりあって、その上で音楽をやっていると。

俺が思うラッパーって、街や時代の代弁者であるべきだなって思うんですよ。マイクって拡声器みたいなもんじゃないですか。自分のことばっかりをいう時期を経て、今はマイナスな事より良い方に針が振れるほうがいいんじゃないっていう気持ちでやってるんで、例え辛辣なことを言ったとしても聴いた人が楽しめるようにやるべきだし。ただのディスだけだったらサイコ野郎じゃないですか、人のこといじめて気持ちよくなってんのかみたいな(笑)。

だからクスって笑えるようなことだったり、「たしかにお前の言う通りだな」みたいなことだったり、そういう仕掛けをしないとって思うと、自分的にはやっぱりアーティストというよりラッパーだと思うんですよね。ラッパーってそんな崇高なものじゃないと思うんですよ。世界のラッパーを見ても、少なくとも俺はそういう感じに受け取って無いですね。街のお兄ちゃんとか街のおじさんでしょ。味の変わらないラーメン屋、そこのチャーハンずっと美味いよねみたいな。たまに五目の具材がちょっと変わったりするけど、でもベースの味はやっぱ変わんないみたいな。

 

10年という時間を経て見えてきた景色

——昨年はブルーハーツのトリビュートにも参加されていましたが、やはりNORIKIYOさんにとってのその崇高なアーティストがブルーハーツだったりするんですよね?参加されていかがでしたか?

もう夢の中にいるような感じでしたね。ブルーハーツのパラデータ、ステムのデータを使わせてもらったんで、感動してもう身体の毛穴が全部開いたっていうか。「人にやさしく」という曲のデータを開いた時に、声とかギターとかがバラバラに聴けるデータだから、甲本ヒロトさんの歌う前の声を慣らす感じからの歌いはじめとか、マーシーさんのブレスしてるところとかをアカペラで聴ける訳じゃないですか、ほんと夢のようで。それを聴いただけで一生の思い出だわって。こんな幸せなことないでしょって。

——どういう経緯でオファーが来たんですか?

PUNPEEから「やりませんか?」って来て、「やるに決まってるでしょ」って(笑)。PUNPEEもブルーハーツのコピーバンドやってたぐらいだから。PUNPEEのトラックで1曲やらせてもらって、レーベル側から他にPUNPEEもがっつりラップするのがあってもいいんじゃないってことで、他の曲もデータあるから作ってみればって言われて、「え、もう1曲おかわりしていいんですか」みたいな(笑)。それでI-DeA君が良さそうだなって思ったんでお誘いして、彼が「TRAIN-TRAIN」のピアノの部分をサンプリングして組み直して作ってくれて、PUNPEEがフック書いてくれるって言うから先に書いてもらって、それにあわせてラップ書いたっていう感じですね。楽しかったですよ。これに関しては、ホント音楽を続けてきて良かったなって思える瞬間だった(笑)。マジで光栄だったし。

——まさに、冥利に尽きると。

もうブルーハーツのあの4人がたとえ10秒だったとしても俺のラップを聴いてくれるかもって思ったら、それだけでもうやりますよね。ライブのバックステージに来るか?ってなんか偉い人に誘われたことがあったんですけど、もう神様には触れちゃいけねえって、恐れ多くて辞退させてもらったし。もちろんすごい会ってみたいし、この曲のこの歌詞の意味は何だったんですか?とか聴きたいことは山ほどあるんだけど、もう逆に怖いなって。ただ、もし何かあるのであれば、この先で自然な形でお話できる時もあるかなって。

——美空ひばりさんや長渕剛さんと、ブルーハーツはやはり同じライン?

そうですね。まぁ神様っていう言い方は変かもしれないですけど、神々しい存在だから。長渕剛さんには一度お会いしてお話させてもらったことがあって。富士山みたいに物静かで、怖さと温かいオーラが混在してる感じがして。「君は何のために音楽をやっているんだね?」ってすごい優しい言い方で、言葉少なめで穏やかに確信つかれたっていうか、丸裸にされたっていうか。5秒ぐらい答えられなくて。「なんかやるせない思いとか、そういうのがあって。それを自分の曲にして人前でライブすると、少し気が晴れるんです。なんか浄化された気分になるんです」って言ったら、「そうかぁ」みたいな。その後すごい脳味噌ぐるぐるしたっていうか、”伝える”っていうことを本当に考え始めたきかっけだったかもしれないですね。ちょうど2ndをリリースするぐらいの時だったかな。

——2ndだと、10年前ぐらいですか。

10年かかって、ようやく俺がガキのころにテレビで観てた時の長渕さんとかがサクッとやってたことの入り口のドアに手をかけたみたいな感じですね。焦りはしないけど、やっぱあの人たちすげえなって。説得力っていうか、ラップってこんなに言葉が詰まってんのに、なんで伝わんねえのって。

今の若い人たちってひとくくりにするつもりはないけど、「で、君は何を言いたいんだいって?」っていうのが9割じゃないですか。俺がおじさんすぎるから感性が無いのかもしれないし、一概にそういうのが悪いって言えないけど、こんなにたくさん言葉を書いて伝わんないっていうのは不思議だなって思うし。女口説く時に、「俺はさ、あのさ、こうでさ、お前優しいし、親とかも大切にしてるじゃん、だからお前のこと好きなんだよね」ってごちゃごちゃいうよりは、「あの……実は好きなんだよね」って言ったほうが伝わるみたいな。ラップってアートフォームは、言葉並べて”俺が俺が”みたいになりがちだけど、ラップでもそうじゃない表現ってできるはずだと思うし。そこを探してやってて、10年経ってようやく少しはできるようになってきたかもって思います。

 

「かっこいいのをただ真似するっていうのはもったいない」

——先ほど40歳前とおっしゃってましたが、年齢の区切りを意識することはありますか?40代はこうやっていこうとか。

歳に関しては、「今いくつだっけ?」って思うぐらい意識してなくて。それより、次にどんな楽しいことしようか、何して遊ぼうかしか考えてない感じなんで。夜中のライブが眠くなるってのはあるかも、次の日起きれないっていう(笑)。

ヒップホップについて言うと、俺がハタチのころは色鉛筆でいったら12色みたいな感じだったけど、今は42色以上あると思うんですよね。だからチョイスがたくさんあって、羨ましいなって思う反面、なんでみんなその中の流行ってる一つの色しか使わないんだろうってのはある。いっぱい色があって、そこからさらに細かく組み合わせればオリジナルの色ができるのに。それがもったいないなって思いますね。まぁ好みの話だから、本人が楽しんでればいいんですけど。

——SD JUNKSTAが出てきた時「そう、これこれ!こういうの待ってた!」って思いました。やっぱり他に無い色でしたから。

たしかに、あの時は俺から見た世界でですけど「絶対俺たちが日本で一番かっこいいでしょ」みたいなのはあったかな。馬鹿すぎてね、なんも分かってなさすぎて(笑)。だから、別に今に例えてああだこうだ言うつもりは無いけど、やっぱり俺は神奈川県民だし、それを抜きにしてもBAD HOPを聴いてクールだと思うんですよね。「こいつらまじかっけえ」って。

——でも、色んな偶然が重ならないとそういう存在っていうのはなかなか現れないのかもしれないですね。SD JUNKSTAもBAD HOPも、別に大阪桐蔭みたいに越境留学させたすごい選手を集めたわけじゃなくて、たまたま地元でああいう風になってるわけですから。

つまり街の代弁者なんですよ彼らは。ヒップホップで言う所のフッドスター。川崎は世界を探したってあそこにしか無い訳だし、違う街なら違う音楽性になるはずでしょ。場所的には近いけど横浜はオジロだし、でも確実に味は違うんですよ。相模原でBRON-Kとやりはじめたガキの頃から、相模っぽさって何かなって思って試行錯誤してたし、俺とBRON-KとTKCでグループの中でさえも違うことをやる勝負だったから。それに凝ってたんだよね、それが当たり前だと思ってたし。だから、“BAD HOPっぽい”のがあったとしても、それならもうBAD HOPを聴くし、かっこいいのをただ真似するっていうのはもったいないって思うんですよね。

 

死ぬまでに書きたい曲

——今後チャレンジしていきたいことは?

誰のことも傷つけないような表現なんだけど、辛辣なことを歌うっていうのをやりたいですね。聴いた人の全員があてはまるし、全員があてはまんないような。「島唄」ってあるじゃないですか。あの曲がすごい好きです。要は”争いはやめよう”っていうことなんだけど、”お前のせいでこうなった”とか、特に言わないじゃないですか。最後に戦争で死んで愛する人がいなくなっちゃった、この事実が広まってほしい、もう二度とこういうことは起きてほしくないってメッセージがあって。誰のことも悪く言わないで、世の中を良くする方向に針が振れる、そういう曲を書いてみたいなってずっと思ってるんですけど、まだ書けてないですね。死ぬまでに1曲そういう曲が作れたら最高ですね。

ラップでそれができるのかなっていうのがあるけど、だからこそ登るには価値のある山だし、やりがいがあると思うし。もし俺がその山を登ることができたとしたら、聴いた人はその景色を見れるわけだから。おこがましい話だけど、それを聴いた人が影響を受けて、また新しい色の流れができてくるわけで、そういうのに一役買えたらなって思います。


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2018.12.1更新

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