2018.8.30
画家/ブリコルールのヒラパー・ウィルソン。これまで、toe、思い出野郎Aチーム、Y.I.M.などのアートワークやグッズ制作を手がけ、先日はタイ・バンコクのアンダーグラウンドアートシーン最重要スポットのひとつ”Speedy grandma gallery”にて個展を成功させるなど、精力的に活動しています。ヒラパーさんのアトリエにて、その作風を表すかのようなリラックスした雰囲気のなか、その活動について話を聞ききました。
「日本人なの?マジか!(笑)」
——先日までタイで個展をやられていたそうですね。
以前タイでギャラリー巡りをしていた時に、ギャラリーオーナーと知り合う機会があって、後日「うちのギャラリー(Speedy grandma gallery)で個展をやらない?」って声をかけてもらったのがきっかけでした。今年の4月27日から5月18日の期間で開催したんですけど、今回は日本から作品は持っていかずに、すべてむこうでスタジオを借りて滞在制作したものを展示しました。絵の具と筆だけカバンに入れて、1ヶ月前にむこうに渡って。けっこう広いギャラリーだったんで、40枚ぐらい描きました。チャレンジングでしたけど、刺激的で楽しい個展になりました。
——現地の反応はいかがでしたか?
いろんな見方をしてくれて、めちゃめちゃ面白かったですね。ギャラリーのある地区が、アジア人だけじゃなく欧米の人も多くいるところだったんで、ほんとに色んな国の人が見てくれて。現地に住んでる人も、旅行で来ている人も。
——“日本人的なアート”という評価でしたか?
というより、けっこうフラットに見てくれたと思います。僕のアーティスト名が”Hiraparr Wilson”なんで、作品をみてくれた人はどこの国のアーティストか分からなかったみたいで。「どこから来たの?」ってきかれて「日本だよ」って言ったら、「マジか!」みたいな(笑)。
団地生まれPOG育ち
——確かに”ヒラパー・ウィルソン”ってぱっと聞くと、どこの人だろって感じはします(笑)。ヒラパーさんのバイオを改めてお伺いしたいんですけど、育った環境はどんな感じだったんですか?
地元は昭島市です。団地っ子でしたね。めちゃでかい団地で。小学校も中学校も全部団地の中にあって、それこそ小学生の時はそこから出なくても生活できるような。ゲームとかやるより団地の中にある山の中に秘密基地を作って遊んだり、活発な子供でした。
——美術に興味を持ち始めたのはいつからですか?
小学校の頃にはすでに興味を持っていました。POGって知ってます?メンコというか牛乳瓶の蓋みたいな。その絵が好きで、そこに描かれてるキャラクターをノートにひたすら模写してました。コンテンツとして、そこまで強く興味を持ったのはPOGが一番最初でしたね。
——絵を習ったりしていたんですか?
団地内にアトリエをやっている方がいて、小学校5〜6年の時に通ってました。お絵かきしに遊びに行くぐらいの感覚でしたけど。
——それで中学にあがったら美術部に入ったり?
いや普通にバスケ部でした。友達にも絵を描いてることはあまり言わないで、こそこそやってて(笑)。
——音楽に対してはいつごろから興味が?
中学ぐらいですね。家にJ-POPがたくさん入ってるコンピがあったんですけど、その中にスチャダラと電気グルーブの曲があって、「これだ!」と思って。今はぜんぜんそうじゃないんですけど、当時はギターとかあんまかっこいいと思わなくて、楽器はちょっと違うなと。
——高校でもその路線が続くんですか?
だいたいそんな感じです。時代的にストリートが流行ってて、まわりにヒップホップ好きな人がたくさんいて。だから、ちょっとグラフィティとかかじったり。途中で別の高校に編入したんですけど、編入先の学校がオーストラリアの学校と提携してたんで留学したり。高校を卒業した後は、アメリカで絵の勉強をしたいなって漠然と思って、シアトルの郊外にある美術系の短大に行ったんですけど、そこは卒業せずに1年ちょいで帰ってきちゃいました(笑)。
——そこから多摩美に?
そうですね、予想外にストレートで入れちゃって。でも絵を描かない学科に入るという(笑)。芸術学科っていう評論や企画、キュレーターの勉強をする学科でした。
——ボアダムスのEYヨさんの舞台も手がけてましたけど、それはその時に?
大学を卒業してアートギャラリーに就職したんですけど、なんかいかにも公民館的な感じで退屈だったんで(笑)、それはその時に企画したイベントです。
他にも、Taikuh Jikangっていう影絵とガムランをやってるアーティストの影絵展と音楽ライブの企画とか、音楽と美術をミックスして活動してる人が好きで、そういうイベントをギャラリーで開催したりしていました。
こっそり絵を見られてた
——音楽作品のジャケットを手がけたのは、同じ多摩美の思い出野郎Aチームが一番最初だったんですか?
一番はじめは女の子二人組ラッパーのY.I.M.です。頼まれた時は「なんでオレに頼むんだろう?」って思ったぐらいで。その頃は絵を描いてるなんてぜんぜん誰にも公開してないし、ただノートに描いてただけなんで。でも、Y.I.M.のオミールが同じ大学だったんですけど、こっそり絵を見てたっぽくてなぜか僕にオファーするっていう(笑)。だから多分、思い出野郎AチームもY.I.M.の絵を見て声をかけてくれたんだと思います。
——toeのデザインもしていましたよね。
JAZZYSPORTのgakuさんが思い出野郎のジャケを見ていたらしくて、たまたま僕がお店に行った時にその話になって、JAZZYSPORTとtoeのコラボTシャツを手がけさせてもらいました。僕もそのへんの音楽は好きだったんで、ぜひという感じで。
——なんか自然な流れでつながっていきますね。 今の作風になったのはいつからなんですか?
けっこうスタイルはバラバラで、毎回違うことをしてて。絵が下手だから、全体的にゆるい感じなのかな、結果として(笑)。
——でも、素人目線で恐縮なんですけど、共通してどこかトロピカルなイメージを受けるんですよね。色彩の感じとか。
タイが好きだからかも(笑)。夏とか、暑い場所が好きだからにじみでてるのかな。でも、そう言ってもらえるのは嬉しいですね。トロピカルさを特に意識しているわけじゃないんですけど。
LUNGに全部やられた!?
——その原点ってなんだと思います?
ひとつ思うのは、子供の頃、毎年夏休みに母親の実家の福岡に行ってて、それがすごい楽しかったんですよね。もう閉園しちゃいましたけど、スペースワールドに遊びに行ったり。あの世界感がすごく好きで。そういう幼い時の“宇宙”とか“夏”っていう影響が、どこかにしみついてるのかもしれないですね。
——音楽作品のジャケットを描く時はどういうところから着想を得ますか?
リクエストがあればそれに合わせます。お任せの場合は、もうそのままアーティストのイメージだったり、音楽だったり、人となりから考えますね。
——好きな絵画のアーティストはいますか?
イギリスのアーティストでLUNGが好きです。彼はもう僕がやりたかったことを全部やってるっていうか、最初に作品を見た時はびっくりしました。先日、来日してたんで会いに行ったんですけど、彼を最初に知ったのは吉祥寺のアマラっていう五木田智央さん関連の人がやっているギャラリーの展示でした。作品を見た瞬間に「全部やられたー」みたいな(笑)。エアブラシも使ってるし、抽象的でポップな感じもふくめて。
——ヒラパーさんの制作において主な技法というのは?
僕もLUNGみたいにエアブラシを使ってたんですけど、最近は粘土を重ねて立体的に浮き上がらせて、アクリルで色を塗るっていう作り方が多いです。技法は常に色々試してます。
——表現の方法が違っても、やはりどれもヒラパーさんの一貫した作風を感じます。
一人で個展やったとき、「グループ展ですか?」って言われるぐらいバラバラというか、もうちょいしぼっていきたいとは思ってるんですけど、そう感じてもらえるのは嬉しいです。なんかひとつのやり方でやってると、すぐ飽きちゃうんですよね(笑)。
——トートバッグにドローイングする個展もやってましたよね。
あれはジャーナルスタンダードの方が僕の個展を見て気に入ってくれたらしく、声をかけてくれて実施したイベントでした。作品でいうと、僕は絵だけに限っているわけでもなくて、印刷物と実際の作品の差を出したいというか。立体の作品は見る角度や影で印象が変わるし、それは印刷物だと表現できない部分だと思いますし。
——あと、DJもたまにやってますよね?
あれはただの趣味です(笑)。
——どんな選曲なんですか?
トロピカルです。
——やっぱりそうなんですね(笑)。展示の予定などはありますか?
9月17日から下北沢のケージで個展をやります。この間のタイで作った作品を、タイ料理屋さんに飾るという。9月30日には櫻井響さんのDJパフォーマンスやAhh! Folly Jetの弾き語り名義であるArhoolie Set(高井康生)さんのライブなどもあります。
音楽作品のアートワークも、もっと手がけていきたい
——これからの活動で構想していることはありますか?
展示をもっとやっていきたいですね。音楽の知り合いはけっこういるんですけど、実は美術とかアート方面に知り合いや仲間があんまりいなくて(苦笑)。グループ展とかやったことないんで、自分の絵の感想とか、絵の話をもっとしたいんです(笑)。だからLUNGに作品を評してもらったときはめっちゃ楽しかったなぁ。
——音楽アーティストの作品を手がける予定は?
今のところはないんですけど、機会があればもっと色んなアーティストとやっていきたいです。
——今って、音楽ディストリビューションのハードルが下がった分、せっかく良い音楽を作っているのに、その世界観を伝えるジャケットなり、ビジュアルの部分が惜しくてちょっともったいないなというケースもある気がします。リリースの頻度は確実にあがってるんで、視覚的な要素も今後大事になっていくだろうなと僕らも感じています。
作っている音楽に、僕の作品の世界観が合いそうだったらぜひ声をかけてください(笑)。
Hiraparr Wilson(ヒラパー・ウィルソン)
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