A-BRUT project インタビュー |「Est-ce un handicap ou un talent?」(障がいか、才能か?)新進気鋭のコレクティブやクリエイターも賛同する“生の芸術”プロジェクト

2018.9.21


A-BRUT project |「Est-ce un handicap ou un talent?」(障がいか、才能か?)新進気鋭のコレクティブやクリエイターも賛同する”生の芸術”プロジェクト

ある日、TwitterのTLをチェックしていると、とても気になるデザインのTシャツが目に飛び込んできた。そのデザインの発する魅力にひかれ調べてみると「A-BRUT project」なるアートプロジェクトが立ちあがったとのこと。アップカミングなアートコレクティブ・BLACK BASSのメンバーがルックに登場し、クリエイター・Niko Wuもメインビジュアル撮影で参加するなど、音楽やカルチャーとも深くつながりながら“あるアート”についてフォーカスしているという同プロジェクト。気になるその内容について、A-BRUT project運営委員会の代表、関口佳那さんに話をうかがいました。
 

文脈性のないアートとの出会い

——A-BRUT projectを知ったのは、BLACK BASSのTwitterのタイムラインでルックが流れてきたのがきっかけでした。このプロジェクトを立ち上げることになった経緯を教えてください。

もともとアートが好きなんですけど、その中でもクラシックアートがすごく好きだったんです。時の試練を経てきたからこその、普遍的な価値や美しさに魅力を感じていて。でも、ある時パリに行っていくつか美術館を巡ったんですけど、何だかクラシックアートをうんざり感じてしまって。もちろん素晴らしいんですけど、なぜか自分の中で違和感を覚えたというか。

そう感じていた時に、表参道のMoMA STOREで「そこにある価値展」という展示をやっていて。サザビーズなどでキュレーターをやっていた方がアールブリュットに着目した障がいをもった方のアートの企画展だったんですけど、たまたまふらっと入ったら作品に衝撃を受けて。文脈性がない、今までみたどのアートとも違っていて。アートって基本的には文脈や歴史、伝統の上に成り立ってきたものじゃないですか。でも、芸術に関する教育を受けていなかったり上手い人の絵に影響を受けているのではなく、自分の描きたいように描いている、表現欲求そのままが発露されているタッチに感動して。すごく価値のあるアートだなと、これに関わる何かをやりたいと思ったのがきっかけです。

——関口さんは慶應の学生だとお伺いしましたが、カタチとしては大学のゼミのプロジェクトなんですか?

私が入っているゼミは慶應義塾大学岡原正幸研究会のゼミナールで、感情社会学やパフォーマンスアート、障がい社会学を領域としています。そこで立ち上げようとスタートしました。

立ち上げにあたって、まず精神病院の造形教室やエイブル・アートを扱っているNPOの施設を訪問してお話を伺うなど、改めて勉強をしました。活動の形は色々考えたんですけど、学生ということもあり、こういうアートを落とし込んだプロダクトを非営利で販売して発信しようと運営開始しました。


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A-BRUT project運営委員会代表・関口佳那さん

——何名ぐらいで運営しているプロジェクトなんですか?

フェイズ毎に企画趣旨に賛同してもらえるスタッフが関わっているんで、流動的ですね。エンジニアからフォトグラファー、デザイナー、マーケターなど。非営利なので、販売代金は全て商品原価と運営費、アーティストへのロイヤリティーへあてています。

 

“生の芸術”とは

——ジャン・デュビュッフェが提唱したアールブリュットですが、初めてこの言葉に触れる人もいると思うので、改めて少し説明をお願いします。

前提として、「障がいをもった人のアート=アールブリュット」ではないんです。いま一般的にいわれているアールブリュットの定義としては、「西洋の正当な芸術教育を受けていない人が創造したアート」となっていて。定義によってはアフリカのアートや精神疾患の方のアート、受刑者のアートも含まれたり。アウトサイダー・アートと混同されることもあります。

イコールではないという部分を説明すると、アールブリュットの特徴上、その担い手がたまたま障がい持った方である場合が多い、ということなんです。さらにいうと、障がいを持った方の中にも芸術教育を受けていらっしゃる方もいますし、これまでのアートの影響を受けている方もいらっしゃいます。

私たちは“生の芸術”と呼んでいるんですけど、障がいを持っている方の中でも、伝統的なアートの文脈の影響を受けていないカテゴリーの絵を描いていらっしゃる方のアートにフォーカスしています。

障がいのある方のアートだから価値があるとは考えていなくて、ある特定の価値のあるアートがそこにあって、その担い手がたまたま障がいを持った方だった、という考えで取り組んでいます。ときには人と違う部分で障がいと呼ばれてしまう特徴が、だれにも描けない絵を描く才能となっていて、その作品を評価する。こういったフィロソフィーをもって取り組んでいます。

——では、プロジェクトの主な目的はそういうアートの発信ということでしょうか?

そうです。こういうアートがあるっていうことを知ってもらうのが一番ですね。そのきっかけとして、今回のようにプロダクトの販売を行っています。“生の芸術”として“Representation”していきたいんですね。

例えば、これがきっかけで「アールブリュット」と検索して新たな知見を得てもらえたり、これまでそういうアートを知らなかった人たちのコミュニティーで私たちがフォーカスするアートがデザインされている服が流行ったりして、それをアーティストが見かけることで世界のつながりを感じてもらえたり。そういうことが起きるようなプラットフォームとしてありたいというか。

——A-BRUT projectがフォーカスしている部分はすごくセンシティブな部分も含んでいますよね。

ご協力いただいているアーティストや福祉施設との信頼関係は、この企画において最も高い優先順位になっています。センシティブになっているには、それなりの理由がちゃんとあるので。実は私が至らなくて失敗しそうになったこともあって、その時に本当に何が大事か順番を間違えてはいけないとすごく反省しまして、そこは一番大切にしているところです。

——それぞれの呼称をどうするかも気をつかわれるところですよね。

障がいを持ったアーティストのアートをひとくくりにすることには、色んな解釈や議論があるんで、十分に配慮しながら取り組んでいます。


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まずはデザインから興味をもってもらいたい

——呼称のあり方などに一石を投じようとか、そういった訳ではない?

そういう議論に真正面から取り組もうというのではなくて。福祉の世界でも、対外的な発信を積極的に行っている施設とそうではない施設がある中で、アーティスト自身が作品の保存や発信をすることが難しいケースもあったりするんですね。なので、当然外部からの関わりにすごく敏感であったりもします。障がいや才能に関する考え方は、施設によってもさまざまで、私たちの考えも専門の方や福祉に従事されている方からしたら真実ではないと思われるかもしれないです。そこも自覚しながら、私たちなりに一生懸命考え最大限の配慮をしながらやっています。

いろいろな見解があるので、ここで言っていることが一般的だと主張しているわけではありません。フラットに「単純にアートとして素晴らしいものなので多くの人へ発信しよう」というスタンスです。まずはデザインから興味をもってもらいたくて。どちらかというと、かわいそうとか、支援をしようとか、そういう発想ではなく「才能がある人がいる、それを多くの人に知ってもらいたい」という気持ちでやっていて。もちろんアートがきっかけで福祉に興味をもってもらえればそれは素晴らしいことですけど、やはり彼らを“Representation”することをメインに考えています。

——僕も最初、普通に「魅力的なデザインだな」と感じました。

なのでプロジェクトをPRするInstagramでも、そのハンディキャップや支援といったところは特に前面に出していなくて、まずはプロダクトに興味を持ってもらって、身につけてもらったり検索したり、同封しているリーフレットを読んでもらったりして、「あ、こういうプロジェクトなんだ、こういうアートがあるんだ」って思ってもらえれば。


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アーティストの魅力を最大限活かすプロダクト

——今回、野田夢友さんのアートを採用されたのはどうしてでしょう?

みぬま福祉会の工房集さんにご賛同いただいて、そこに所属しているアーティストさんの中からプロダクトに一番映えるアートを選定させていただいた結果、野田さんの作品になりました。

——野田夢友さんの作品を最初に見たときはいかがでしたか?

やはり感動しましたね。良い意味で荒々しいところ、あらがいがたい表現欲求がそのまま表出したようなパワーがこのアートの魅力だと感じますし、野田さんの作品にはその部分がすごく出ていて。まずはTシャツからはじめようと思ってたんで、色彩感もファッションアイテムとしてコーディーネートのイメージがすごく湧いて。

——今回製作したプロダクトでこだわった部分は?

作品の良さを引き出すことですね。野田さんの作品の魅力が効果的に伝わるよう、デザインレイアウトしました。


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「Est-ce un handicap ou un talent?(障がいか、才能か?)」

他のこだわりとして、胸プリントバージョンには袖に「Est-ce un handicap ou un talent?」という文字が入っているんですけど、日本語で「障がいか、才能か?」という意味で。そこには、繰り返しになりますが「ある側面からみると障がいととらえられるような特徴が、別の側面からみると彼らにしか描けないアートを産み出す特別な才能として発露し感動を与えてくれる、その視点の転換ってすごく素敵なことだと思いませんか?」というメッセージを込めています。

——そのコピーライティングは関口さん自身が?

はい、私自身で考えました。「アールブリュット」がそもそもフランス語で、そこからプロジェクト名「A-BRUT」という造語も考えているので、袖ロゴもフランス語にしました。

——この頃はエシカルファッションの話もよくききますが、そういう文脈もあるんでしょうか?

エシカルファッションの文脈で購入していただく方もかなりいらっしゃいますが、「ここにかっこいいアートがある、じゃあそれを発信しよう!」とやっていることなので、結果的にエシカルだったというのはあるかもしれませんが、もともとエシカルファッションをテーマにしているわけではないです。エシカルなストーリーというよりは、まずアートのデザインの良さから入って欲しいと思ってて。


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——またプロジェクトのルックも非常に洗練されていますね。

今回の企画で、ビジュアルは絶対に大事だと思ってて、アパレルブランドと同等のクオリティのビジュアルを作りたかったんです。それで、たまたまNYLONとかで活躍してるNikoちゃん(Niko Wu)とつながっているスタッフがいて、Nikoちゃんの世界観や色彩観はぴったりだ思ってオファーをしてみたら、企画趣旨にも賛同いただけて、メインビジュアルの撮影で協力してもらいました。


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“文脈から抜け出したアート”はヒップホップにも繋がる!?

——BLACK BASSとの繋がりというのは?

BLACK BASSのleniくんとゼミが同じなんです。それで、BLACK BASSのメンバーが着ているルックを撮らせてほしいってお願いしたら、快諾してもらえて。

個人的に、文脈にとらわれないという意味ではヒップホップにも共感するところがあって。米文学の授業でケンドリック・ラマーのリリックを分析する大和田俊之先生の講義を受けたんですけど、「ロックはロマン主義でヒップホップはポストモダンだ」と。ざっくりいうと、ロックは様式があるけど、ヒップホップは「なんでもいいじゃん」っていう。「こうじゃなきゃいけない」っていう文脈から抜け出したアートだという部分で、このプロジェクトはヒップホップのアーティストさんにもシンパシーを感じていただけるんじゃないかなと勝手に思ってます(笑)。

今度10月12日に代官山UNITで友達がオーガナイズしている”CLIQUE”というパーティーがあるんですけど、そこにBLACK BASSも出てて、当日は今回のプロダクトの販売もさせていただきます。他に、SUPER SHANGHAI BANDのパーティーにも置いていただける予定もあったりするんで、音楽のフィールドでも発信していければなと

——カルチャーの匂いが濃いプロジェクトですよね。ローンチしてからまわりの反応はいかがですか?

たくさんの反応をいただいていて、その半分ぐらいはもともと福祉に関連している方々からですね。「MUKU」の方にもリアクションいただいたり、SNSでもあたたかいメッセージをいただいています。そういう方の反応に励まされながら、私たちがメインのターゲットにしている学生やカルチャーの方々にももっと広めていきたいです。今回のこの記事も音楽に関係のある方が読まれると思うので、普段こういうアートに関わりがない人にも知っていただけたらなと思います。

——こういったアートにインスピレーションを受けた音楽が産まれたりするかもしれませんね。

そういうことが起きたらとっても素敵だと思います。この企画も、野田さんのアートはもちろん、Nikoちゃんのアートやモデルさん、Webデザインと色んなクリエイティブがシナジーになっているので、続いて共鳴が起これば最高ですね。

——今後はどういう風に展開される予定ですか?

今回だけの企画に終わらせたくないんで、次も新しいアーティストをフィーチャリングしてやっていきたいです。でも、続けること自体が目標ではないですし、フィロソフィーがぶれるぐらいなら続けてもしょうがないなと。

非営利で取り組んでいますし、会社化を目指したりも今のところないので、まずは今回で私たちが着目するアートを少しでも多くの人に知ってもらいたいです。あとは、プロジェクトの趣旨に賛同してスタッフとしてジョインしたいという方がいらっしゃればぜひご連絡ください!


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