タイプライター インタビュー プロデュースの本質を語る「いい曲を作ることしか考えていないし、結局そこから全てにつながっていく」

2018.7.6


タイプライター | プロデュースの本質を語る「いい曲を作ることしか考えていないし、結局そこから全てにつながっていく」
タイプライター

ラッパーとしてキャリアをスタートさせ、トラックメイカー、DJ、プロデューサーとしても常に話題を呼んできたタイプライター。最近では、音楽好きをザワッとさせているユニークなヒップホップクルーSUSHIBOYSを世に送り出し、TikTokなどでデジタルネイティブ世代を中心に人気のAYA a.k.a.PANDAもプロデュースしています。マルチな活動に一層磨きをかけるタイプライターさんに、そのスタンスからクリエイティブの原点にいたるまでお話を伺いました。

 

新しいアクションのきっかけは毎回おなじ

——昨年はYMGさんと『LA LA PALOOZA』をリリースされていましたが、直近の活動状況を教えていただけますか。

最近は主にSUSHIBOYSのマネージメント、プロデュース、楽曲制作、DJと彼らに関しては全部やっているのと、AYA a.k.a.PANDAのプロデュースをしています。あとは以前と変わらずビートメイクをしたり、撮影・編集も含めたPVの制作もしていますね。その他、色んなアーティストにも関わっています。

——クリエイティブな動きを同時にたくさんされていますが、例えば映像だとどういうことがきっかけで始められるのでしょうか?

毎回そういうきっかけは一緒で、ラップをはじめてからトラックを作るようになるまでも、トラックメーカーがいないとオケがなくて進まないってことで、自分でやったほうが早いからトラックを作るようになって。映像もそれと同じで、音楽に映像が必須な時代にシフトしている中、映像制作も外部に依頼するとコストも時間もかかるし、「もう自分でやったほうが早いな」ということで始めました。今は音楽で勝負をするにしても予算をそこまでかけることができないでしょ?コストをたくさんかけても回収できないぐらい市場が狭くなっているし。だから映像でも、ローコストで制作して発信できるような環境を構築しないと長く続けていけないなと思って。

——とてもフットワーク軽く活動されていますよね。

やっぱり今は速いじゃないですか。俺の場合、映像だと撮影から編集まで含めて2〜3日で済ませちゃうんですよ。この早さはなかなか他にはいないんじゃないかな、みんなびっくりするんですけど(笑)。でももうそれぐらいのスピード感でやらないといけない時代ですよね。手配や時間調整とかそんなことに手間をかけるよりも、シンプルな体制でスピーディーに良いクオリティのものを作り上げる方が今の時代にあっていると思います。

——映像を作る中でタイプライターさんはどういうことからインスピレーションを得ていますか?

YouTube等で最新の海外作品やカメラワークは常にチェックしているんですけど、映像に関してはぶっちゃけ作る前は漠然としたイメージしかないんですよね。ロケーションもアーティストにどこで撮りたいか要望を聞いて、あとは現場でどう撮ろうか決めるんです。その場その場のフリースタイルなんですよ。自分で編集するから、カット割りも全部自分のアタマの中にあって。俺の現場では香盤表もないですからね。でも、撮影は常に時間に追われてて、さらにフリースタイルだから撮る前は気が重いときも正直ありますよ、「あーまたこれやんのか」みたいな(笑)。

——とすると本当に納得のいく撮影というのはまだないですか?

本当に満足できたことはないかもしれないです。カメラもレンズも、舞台を作り込んだりとか、突き詰めて色々やりたいんですけどね。

——AYA a.k.a.PANDAの「甘えちゃってSorry」のMVは照明も凝っていましたね。

あれも全部自分でやりました。現場に外部の業者を入れたことはほとんどないですし、あの照明も秋葉原に行って見つけてきて(笑)。だから、そういう照明等含めて本当に全て一人でやっています。

でもね、照明のプロからしたらきっとまだまだなんだろうなとは思いますよ。編集しているときに「あぁ、あの(照明の)あて方は違うんだ」って気付いたり。「Logで撮る」っていうのもプロのカメラマンに教えてもらったり。毎回撮るたびに勉強ですね。

——これまで制作してきて気に入っている映像作品はありますか?

撮る度に一番新しいのはよくできたと思うんですけど、やっぱり後から粗が見えてきちゃいますね。自分にしか気付かない部分かもしれないですけど。映像制作に関して言うと、俺なんかはまだまだで、音楽を広めるための作品の域をまだ出ていないですね。やっぱり映像畑出身の人の作品はアートだなと思うし。映像を本当の意味でクリエイトしているかというと、まだその段階ではないかな。

 

手探りで始めたマネジメント

——マネジメントの活動についても少しお伺いしたいのですが、SUSHIBOYSが出てきて話題になったとき、やはり事前にかなり戦略を練っていたんですか?

ある程度の構想はありました。まず良い曲を作って、YouTubeでアンテナの高い人に評価してもらって、ネット上で良い雰囲気を作ってからリアルのイベントをやるっていう。だから、タワレコでレコ発をやったときはリアルな数字としても結果がきちんと出て、目に見えるカタチとして落とし込むことができました。そこから一気に火が着いて、オファーも多くいただけるようにもなりました。

——考えた通りに結果を出すというのは今の音楽シーンではかなり難しくなってきていると思うのですが、やはりそこはタイプライターさんならではの先見性があるからこそだ感じます。これまでマネジメントをされたご経験というのは?

全然ないです。最初はやり方が全く分からなくて。「どうやるの?」って色んな人に聞いてみたんですけど、割とみんなあいまいな答えで。それで試行錯誤しながらやってるうちに、色んなところから声をかけてもらえるようになって段々カタチになってきた感じですかね。

——マネジメント業務で苦労されていることとかありますか?

スケジュール管理が面倒くさいぐらいかな(笑)。普通のマネージャーがやらないような動きを同時にしても、俺は大丈夫な方なんですよ。ライブだとDJもするんですけど、DJしながら動画撮るためにビデオカメラを回したりもしますし。ライブの前にカメラ仕掛けて、DJやりながらRECオンにして、DJやって、ライブ終わったらまたRECオフにするっていう(笑)。

——先程のネットからリアルへの落とし込み方など、デジタルの表現の仕方や活用がヒップホップの方々は非常に上手な印象があります。

やっぱりバズる要素がヒップホップにはたくさんあるんですよ。それは恐らくヒップホップがストリートなカルチャーだからだと思うんです。ファンやリスナーが身近だから、共感のポイントがすごく分かる。(ヒップホップは)アメリカから来てるものだし、その最新のトレンドを常に見てるから、デジタルの使い方も日本のヒップホップのアーティストやシーンは取り入れるのがすごく早いですよ。その辺が他のジャンルとは少し違うのかなって感じます。

 

本当に大事なのは曲そのもの

——タイプライターさん自身は、音楽ビジネス全体を意識されたりしますか?

ストリーミングにシフトしているとかダウンロードがダウンしてるとか、そういう当たり前のことはもちろん知ってますけど、音楽ビジネス自体はあまり意識していないです。それよりも、いい曲を作ることしか考えていないかもしれない。結局そこから全てにつながっていくので。

——昨今は、音楽に関して目的と手段が逆になりがちな傾向もあるかもしれないですね。

ITとか手段を考えることも大事だとは思うんですけど、でも本当に大事なのは曲そのものなんですよ。今新たに手がけているアーティストがいるんですけど、そのアーティストもまず曲がいいんですね。だから、いい曲ができてはじめて「さぁこれをどうしようか」っていう発想になる。アーティストの特性を考えて、YouTubeとかネットで広げるのか、いきなりマスにあてていくのかとか。

——何をおいてもいい曲がないと、いくら“ガワ”で攻めても本末転倒だと。

だから、そういう(ITなどの)手法なり情報を持ってる人がいて、それが上手くハマるのであれば、そこは得意な人に任せればいいと思うし。繰り返しになりますが、まずは可能性がある音楽を作る。そして、アーティストに対して適切なアドバイスとキャラにあったパッケージをする。アーティストがもっているものを最大化する作業が一番ですね。

——そのアーティストの良さを最大限にまで引き出すこだわりやクオリティがあるからこそ、例えばTikTokでAYA a.k.a.PANDAの曲に火が着いたように、若い人たちのアンテナにひっかかるんでしょうね。

あれも「どうやったの?」ってみんなに聞かれるんですけど、「何よりもやっぱり曲なんですよ」って答えてます。まず曲が良かったり、ひっかかる何かがないと、いくら“ガワ”で仕掛けたって再生もダウンロードもされないでしょ?最大限のクオリティを目指すだけなんですよ。次に、どこにその音楽ファンがいるのかを掴んで、ちゃんとそこにとどける。それだけなんです。

あと思うのは、音楽って究極的には生きていくために絶対に必要ではないですよね。余裕があってはじめて楽しめるものじゃないですか。娯楽だし。だとしたら、最低限それは「良いものじゃなかったらヤバいだろ」っていう意識はあります。やっぱり音楽は「誰かの何か」になって欲しい。青春を彩ったりツラい時に支えになったり、そういうフェイバリットになるものじゃないとね。

 

活動の原点 ー 誰もが知る曲を絶対世に送り出したい

——ビートメイカー、DJ、プロデューサー、映像クリエイター、マネージャーなど多くの顔をお持ちですが、それぞれの役割の時に意識を切り替えたりはされますか?

特にそういうことはないですね。だから、マネージャーだとしてもマネージャーっぽくないと思います。俺のことを知っていただいている人だったら、それも込みで接してくれるけど、全く知らない人だと「何あの人?ずいぶんエラそうだぞ」みたいな(笑)。

——あとで知って急に敬語になったり(笑)。あと昨年はラッパーとしてもいい状態にあるとおっしゃっていましたね。

今はSUSHIBOYSが現れたからもういいかなって。この年齢になってリリック含め彼らよりいいパフォーマンスができるかって言われたら正直キツいと思うし。まぁいつかSUSHIBOYSの作品とかで軽く8小節だけ参加だったら……いや無いかな(笑)。トラック作ってるほうがいいですね。

——オモテに出ないクリエイティブな作業も向いていると自分で思われますか?

前からそう思ってましたね。何でも「俺がやったほうがいいんじゃね?」っていう性格なんで。

——そういう思考が、常にシーンの第一線で活躍できる要因だったりするんでしょうか?中々そうやって維持することができる人は少ないかと思います。

俺の場合はまだ目標を達成していないから一生懸命やってるのかな。ヒップホップだけじゃなく、すべてのジャンルにおいて1番をとれる曲を作りたいんですよ。これに関しては音楽をはじめたときから20年以上ずっと思ってて。例えば、三木くん(三木道三)の「Lifetime Respect」とかスチャダラパーの「今夜はブギー・バック」みたいな、本当にみんなが知っているレベルのものを1曲は絶対世に送りだしたいですね。

 

関わったアーティストが次のステージにいけるように

——今後の活動の具体的なビジョンはありますか。

まずはマネジメントしているSUSHIBOYSで、武道館やアリーナレベルまで行きたいです。あとは他のアーティストの手助けというか、俺が関わったことによって次のステージにいけたっていうアーティストを出来る限り産みだしたいですね。

——これを読んでタイプライターさんにお願いしたいというアーティストが増えるかもしれませんね。

でもね、俺そもそも直接コンタクトがとれないようにしてるんですよ、SNSも全くやってないし。人と人とのつながりっていうか、縁とか関わり方は大事にしたいんです。今も縁のあるアーティストしか手がけていないんで。仮にその縁の範囲でいいアーティストに出会えなかったとしても、もうそれはそれでいいと思ってますから。間口を広げて多数と積極的に関わるっていうのは全くやってないです。自分からも探してないし。YMGもSUSHIBOYSもAYA a.k.a.PANDAも埼玉だしね。あと俺は依頼があると割と受けちゃうから(笑)。

——際限なくなりそうですね(笑)。

自分のリソースが分散したりスピードが落ちるのが嫌なんで。だからビートのストックもしなくなりましたね。誰かの何かになるように、ちゃんと仕掛ける前提のものしか作らないようになりました。頼まれたからストックを投げるっていうやり方は、もはや俺の中では無しですね。そういうことをいまだにしてるから、結局なんにもならないんですよ。単にストックを売ってくれって言われても、きちんと説明して断ってます。「やるからには、何かになるものじゃないと意味ないですよ」って。

関わっている人のネームバリューとか、もはやそういうもので曲の再生回数は伸びないですし、そのアーティスト自身がどうなのか、曲自体が良いかだけですよ。何回も言いますけど「曲そのものが大事」。本当にそれだけですね。


この記事の執筆者

THE MAGAZINE

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