【このリリースがすごい!】OFFICE DESTRUCTION GIRL「jade」 | 『VRChat』発、“枠組み”を超えた世界を造る5人組バンド

コラム・特集
2026.8.6
【このリリースがすごい!】OFFICE DESTRUCTION GIRL「jade」 | 『VRChat』発、“枠組み”を超えた世界を造る5人組バンドのサムネイル画像

音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回はOFFICE DESTRUCTION GIRLのシングル「jade」を紹介。


路地裏でエッジィな感性が育まれ、地下室で日常を吹き飛ばす爆音が鳴るように、新たなカルチャーの足音は今、ここではない仮想空間から聞こえているのかもしれない。そこでOFFICE DESTRUCTION GIRLが始めているのは、世界の枠組みそのものを飛び越える、ささやかながらも確かな革命だ。

かつてともにバンドを組んでいたcaze(Vo)、shinya(Gt)、TodaFett(Gt)に、オンラインで出会ったHONNWAKA88(Ba,Key)、クミン100g(Artwork)が合流し始動したオデガことOFFICE DESTRUCTION GIRL。彼らの拠点となっているのが、世界的メタバースプラットフォーム『VRChat』である。

数十万以上とも言われる様々なコンセプトやデザインのワールドを行き来し、交流や探索を軸としてユーザーが自由な過ごし方を選択できる『VRChat』。2020年以降には、コロナ禍の拡大や低価格VRゴーグルの普及、そしてYAMAHAのリモートセッションツール『SYNCROOM』提供開始などにより、『VRChat』内で生演奏を行うバンドも増えてきた。その中でも、アートワーク担当を正規メンバーに迎えているオデガは、VR向けの描画ツールなども用いた空間構築によって表現される統一感と没入感の高い世界観を特徴としている。

彼らがテクノロジーを駆使するのは、創造性を人智を超える速度へと加速させるためではない。むしろ、人間の意思を表現の細部にまで宿すために、膨大なキャンバスを広げるのだ。演奏や舞台はもちろんのこと、地形から光の差し込み方まで、世界の在り方それ自体をもバンドのために書き換えて、OFFICE DESTRUCTION GIRLは巨大な総合芸術へと拡張されていく。

と、ここまで説明した上でこそ言い切りたい。そんな背景や意図を知らずとも一撃で心を掴まれてしまうぐらいに、オデガの楽曲は素晴らしい。7月22日にリリースされた第2弾デジタル配信楽曲である本作「jade」にて、数秒の予感めいたアンビエンスのあと、叩きつけるように刻まれる力強いリズム。深いファズの内側で、繊細なコードワークが密かにささくれ立つ。国外エモシーンからの影響も色濃い彼ららしい、たとえばAmerican FootballやPenfoldをも想起させるようなクリーンアルペジオの煌めきにも耳を澄ませてほしい(ちなみに、先ほどライブ動画を掲載した「Youth」の歌詞には“Never Meant”というフレーズが登場したりする)。無骨なオルタナティブ・ロックに彩りを添えるような鍵盤の音色も、目新しい活動形態ばかりをトピックとして消費することを拒むような説得力と独自性を放っている。

一方で、総合ディレクションも担うcazeのボーカルには包み込むような温かさと親しみやすさがあり、鋭利な音像の中に誰もが踏み込める入口を開く。“今日は晴れて門出と / 祝えたらいいんじゃないかな”という一節に滲む祈りは、その声によって切実さとポップネスを同時に帯びていく。

5人のステージは、メタバースをはみ出て拡張を続けている。今年6月に東京にて行われたワンマンライブの映像を観て、声にならない声を上げる客席の熱気には正直驚かされた。OFFICE DESTRUCTION GIRLを、単に“VRバンド”という言葉だけで括ることはできない。現実世界と仮想空間を往復し、時には双方を交差させる(実際、4月に行われたワンマンライブ『HOP,STEP,ERROR !!!』では『VRChat』にて実在するライブハウス・青山月見ル君想フを再現している)。その交差点では、未知に接する興奮では説明しきれない新たな熱狂と感動が胎動している。



OFFICE DESTRUCTION GIRL「jade」

OFFICE DESTRUCTION GIRL「jade」各サブスク

OFFICE DESTRUCTION GIRL「jade」歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーの音楽ライター。