ルシノ インタビュー |「ループザルーム」が世界的バズ “聴きたい”を“作りたい”に変える気鋭ボカロP

インタビュー
2026.6.29
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ボカロP・ルシノが2025年11月にリリースした楽曲「ループザルーム」は、今年世界で最も聴かれているボカロ曲の一つだ。Billboard JAPANの『Japan Songs(国/地域別チャート)』ではアメリカで首位を獲得し、4か国でトップ10入りを果たしている。ネット発の都市伝説であり、現在はA24による同名映画の大ヒットでも話題の『Backrooms』をモチーフに据えた同楽曲。キュートかつ不穏なイラストMVとTikTokでの動画拡散が手伝って、まさに曲中で描かれるフラクタルな無限空間のように、中毒者は今なお増加中だ。ルシノに、原点や創作観、「ループザルーム」の制作背景とヒット要因の自己分析などについて訊いた。

 
取材・文:サイトウマサヒロ

 
 
原点は吹奏楽、『東方Project』、米津玄師

——ルシノさんが音楽に夢中になったきっかけは?

子どもの頃は『太鼓の達人』で難しい譜面を叩くのが楽しいからプレイしていたっていうくらいで、音楽にちゃんと触れるようになったのは、中学で吹奏楽部に入部してからですね。担任の先生が吹奏楽部の顧問だったからなんとなく入部しただけで、もし先生が別の人だったら全然違う人生になっていたと思います。それから、『大合奏!バンドブラザーズ』っていうゲームで『星のカービィ』や『東方Project』の曲を耳コピして打ち込んだりするようになったのが作曲の始まりだったかなと。

——ゲームミュージックからの影響もあるんですね。

『うごくメモ帳』で流れていた曲を調べて、「ネイティブフェイス」が『東方Project』の楽曲だってことを知ったりして。それからよく、『東方』の曲を耳コピしたり、『東方』みたいな曲を作ったりしてました。だんだんDSだけでは物足りなくなって、Domino(MIDI編集ソフト)を使うようになって。

——インターネットカルチャーにも早い段階で触れていたんですか?

実はそこまで触れてないんですよね。吹奏楽とゲームミュージックばかりで、ボカロもそこまで知らなかったです。だけど、ずっと同じような曲ばかりを作るのに飽きてきたところにコロナ禍も重なって、何か新しいことをやりたいからボカロがいいんじゃないかと思ったのが活動のきっかけですね。ボカロ曲は父親が車の中で流していたのを聴いてたくらいで、そもそも歌のある曲をそれまであまり聴いてこなかったから、自分が歌ものを作っているのは今でも不思議な感じがします。

——影響を受けているボカロPやアーティストはいますか?

米津玄師にはものすごく影響を受けています。周囲にはJ-POPを聴いてる人が多かったから、僕もちょっと勉強してみるつもりで『BOOTLEG』っていうアルバムを聴いたんですけど、あの作品がすごく衝撃的だったんですよ。アーティストって同じような曲調のものをたくさん作ってその人のイメージを確立していくことが多いと思うんですけど、『BOOTLEG』にはすごく色んな楽曲が収録されていて、ゲームのサントラに通ずるものがあるのが面白かった。以来、米津玄師にハマったんですけど、「あの『マトリョシカ』のハチってこの人だったの!?」と気付いたのは後になってからでした。だから、歌ものを作ろうと思ったきっかけの一つは米津玄師への憧れかもしれないです。一番好きなアルバムは『STRAY SHEEP』で、あれはもう宝石箱ですよね。幅広い曲があるんだけど、方向性やスタンスは一貫してる。

——ジャンルではなく音使いやメロディに個性が宿っているという点では、確かにルシノさんの楽曲にも通ずる点があるかも。

そう言っていただけると嬉しいです。そうなりたくて曲を作ってるというところもあるので。

——僕は『BOOTLEG』を初めて聴いた時に、菅田将暉や池田エライザがゲストボーカルで起用されていることも相まって、演者というより監督のような立場で作品をまとめ上げているような印象を受けたんですよね。

僕も、何か大きなテーマに沿った作品を組み上げたいという思いはあります。単曲で人気になりたい、多くの人に聴かれたいというよりは、アルバムを通して表現したい。ボカロPだと柊キライさんも大好きなんですけど、キライさんの『スクラップファーム』というアルバムも、かなり収録曲の幅が広くて。とにかく二人にインスパイアされて、ただ何でも作るんじゃなくて、多様なんだけど芯が貫かれているものを作ろうとしています。

——楽曲を作る上では、音楽以外のものから着想を得ることはありますか? それこそゲームだったり、ネットカルチャーだったり。

めちゃくちゃありますね。裏テーマを決めて作ることが多くて、「ループザルーム」は『The Backrooms』というネットロアをテーマにした楽曲ですけど、元々はSCP-1065-JP『無間の部屋』が元ネタで。作ってるうちに「『The Backrooms』の方が合ってるんじゃないか?」と方向転換していきました。

——他にもSCPが元ネタの楽曲がありますよね?

ありますね。「ファニーウッズドリームパーク」はSCP-2571『クラッグルウッド・パーク』だし、アルバム『Hateful Star』はSCP-1548『きらいきらい星』からそのまま拝借してる感じです。怪奇創作やホラーゲームは元々好きなので、元々知っていたものからモチーフを持ってくることが多いですね。

——活動を始めたのは2020年ごろかと思いますが、それから現在まで、作風や活動スタイルはどう変化してきましたか?

ほとんど変わってないですね。強いて言えば「ループザルーム」がターニングポイントになるかもしれないですけど、ただとにかく思いついたものを形にして世に出す、っていうのをずっとやっていただけです。ずっと、暗くて少しネガティブな曲を書き続けてるっていうのも変わってないし。

 
 
「ループザルーム」の起爆力&持続力

——そういった中で、「ループザルーム」が現在ものすごいヒットを記録していることに関しては、率直にどう感じてますか?

もう、よくわかんないですね(笑)。こんなにウケるとは思ってなかったので、「何が起こってるんだ?」っていうのがずっと続いてる状態です。その前にリリースした「ポップメア」「ネオンドール」と同時期に作ってて、どっちかというとその2曲の方がウケると思ってたんですよ。「ループザルーム」は気楽な思いで自分の趣味のまま作曲していたので、想定外の伸び方で。周りのボカロPに聴いてもらった時の反応は確かに良かったんですけど、流行るとは思ってなかったです。『The Backrooms』やリミナルスペースも、その時すごくブームだったっていうわけではないし。

——先ほどのお話と重なる部分もあるかと思いますが、「ループザルーム」の制作はどのように進んでいったのでしょうか?

普段から、先にメロディが思い付いて、そこに後からテーマや歌詞を当てはめていくことが多くて。今回もまずメロディが浮かんで、そこに『無間の部屋』や『The Backrooms』を重ねていきました。

——『The Backrooms』やリミナルスペースの薄ら寒さ、不気味さをサウンドに落とし込むために、どんな工夫をしましたか?

実は、自分自身としてはそんなに『The Backrooms』感がある曲ではないと思ってて(笑)。狙って不気味なことをしたわけではなく、結果的にそうなってたっていうのが近いです。まずノリノリだし、四つ打ちだし。ただ、イントロの声をサンプリングしたメロディは、MARETUさんの「ビノミ」を参考にしていて。Spliceで見つけた声のサンプルを入れてメロディを打ち込んで、奇妙なニュアンスを出すことができました。あとは、ちょっとピッチをズラしてるところにドリームコア感があるかもしれない。

——一般的な周波数であるA=440Hzではなく、432Hzでチューニングされていますよね。

ボカロPのはろけるさんに「ピッチを下げた方がドリームコア感があって面白いんじゃないか」って言われて、面白い響きになったので、そのまま採用させてもらいました。

——歌詞に関してはいかがでしょうか? 中毒性の大きな一因になってるんじゃないかと思いますが。

日本人からするとあまり深い意味がなさそうな歌詞ですが、結果的には音だけで楽しめる曲として、ワールドワイドにウケた要因になったのかなと思います。

——海外のリスナーからの反響も凄いですからね。Billboard JAPANの『Japan Songs(国/地域別チャート)』では、アメリカで首位を獲得、4つの国でトップ10入りを達成しています。

最初は頑張って反応をチェックしてましたけれど、すっかり追えなくなってしまって。もう把握できてないので、何がなんだかわからないですね。K-POPのアーティストの方々が踊ってくださったりしてたのもビックリして。経験したことがない反響ばっかりで、全部が印象的です。

——MVは四ツ木めいさんが制作を担当されていますが、どのようなやりとりがありましたか?

最初にプロットのようなものをパワーポイントで作って、それを基に制作をお願いしました。イントロで4拍に合わせてキャラが4コマ分移動するシーンがあって、最初はサビもそれにしようかと思ってたんですけれど、四ツ木さんの判断でもっと細かく分身するような映像になって。それがかなりハマってるなと感じます。

——改めて、今回のヒットの要因はどんなところにあると考えていますか?

リバースエンジニアリング的に考えてみると、まずは映像の真似のしやすさ、そして耳に残るメロディと歌詞ですかね。最初に伸び始めたのは、MVの絵をそれぞれが好きなキャラクターに置き換えた映像が、ミーム的に広がっていくという形だったんです。それがだんだん、実写の顔出しで踊る映像にシフトしていきました。ショート動画をTikTokにアップしたり、ステムデータを公開したりしたのも、起爆剤になってたんじゃないかな。

ただ、そうやって映像から広がった曲がヒットするには、やっぱり歌いやすいか、いかに耳に残るかが重要なんじゃないかなと思いますね。もちろん、それを狙って達成できたというわけじゃなくて、結果的にそうだったなと今になって思っているところです。


ルシノ インタビュー |「ループザルーム」が世界的バズ “聴きたい”を“作りたい”に変える気鋭ボカロP

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——「ループザルーム」でルシノさんのことを知ったというリスナーに対して、次に聴いてほしいオススメの楽曲はありますか?

「ファニーウッズドリームパーク」は、不気味なドリームコアみたいなのが好きな人だったらハマるんじゃないかなと思います。あとは単純に、とにかく色んな曲調の曲をたくさん作ってるので、「ループザルーム」以外の楽曲をなんでもいいから一つ聴いてみてほしいですね。一つのアーティストにつき一曲だけをずっと聴くのは、ちょっともったいないなと思う。それこそ、米津玄師が好きになってから、アルバムを通して聴くことの魅力を知ったので。ぜひ「ループザルーム」から他の曲にも触れてくれたら嬉しいです。


ファニーウッズドリームパーク (feat. 初音ミク)
ルシノ

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音楽は実験の繰り返し

——「ループザルーム」に限らず、普段の楽曲制作全般で意識していることはありますか?

僕は理系なんですけれど、研究と創作には通ずる部分があるというか。まずは自分のアイデアに基づいて実験をやって、そこからこういう結果が得られて、また実験をして……というのをずっと繰り返していくというプロセスはまさに同じで。

——興味深いです。音楽における実験とその結果というのは、リリースをして反応を見るということ? それとも、制作過程の中で起こることですか?

両方ですね。「この曲は反応が良くなかったから次はこっちの方向で作ってみよう」っていうのもありますし。曲を制作する過程でも、全体としてはロックっぽいんだけどエレクトロな音使いを試してみて、それが面白くなったら形にする、みたいなことをずっとやってます。

——制作環境にはどんなこだわりがありますか?

これといったこだわりはあまりないですね。DAWはStudio Oneを使っていて、プラグインはもう1年〜2年くらいほとんど買ってないです。ずっとSurge XTとかフリーのシンセを使ってますね。Spliceも一時的に手を出したくらいで。

——色んな音を手当たり次第試してみるというより、手持ちのものでどんな化学反応が起こるかを突き詰めてるようなイメージ?

そうですね。

——ご自身では、アーティストとしての“らしさ”はどんなところにあると考えていますか?

一つはメロディですね。初音ミクが歌ってるから違和感なく聴けているだけで、実際に口ずさんでみると歌いにくいなって思うんです。それでもこういうメロディにしたくて。『東方』『カービィ』に加えて『UNDERTALE』とか、ああいう耳に残るフレーズがたくさんあるゲーム音楽に触れてきたので、自分が納得できるメロディを作る上で、人が歌うことを全く考えていないのは大きいです。

もう一つが曲の暗さ。それこそSCPや怖い話をよく読んでいたし、あまり明るい物語に触れてこなかったなって。そもそも自分自身がかなり落ち込みやすい性格で、そういう時に聴きたいのはネガティブな曲なんですよ。自分が聴きたいものを作ったら自然にこうなっている。

——なるほど。創作を行う上で、自分なりのルールはありますか? 例えばこういう表現はしないようにしようとか、逆になるべくこの要素を加えるようにしようとか。

具体的に決めているわけではないですけど、普段は明るい曲は作らないですね。自分が聴きたいとは思わないし。ただ、一回だけ、去年投稿した「ショコラマジック」という明るい曲を作ったり、あとは吹奏楽時代に演奏していた曲を思い出して急に和風の曲や変拍子を交えた曲を作ったりしてしまうことがあって。基本的には思いついたものを形にしたいっていう欲求を晴らしてるだけ、みたいなところがあります。

——今後の活動についても聞かせてください。「ループザルーム」リリース以降、少し間隔が空いているような印象ですが、現在進めているプロジェクトはありますか?

実のところ、「ループザルーム」の正当な続編みたいな曲が出来てまして。「ネバーランドネスト」というタイトルで、もう完成してるんです。ただ、正直に言うと「ループザルーム」がヒットしている現状で、どのタイミングで次を出せばいいかわからないし、「ループザルーム」で知ってくれた方を満足させるためのどんな映像を作るべきか、ちょっと考える時間が必要かなっていう。夏ごろにはリリースできればと思ってます。

——「ループザルーム」のバズによって、これからの制作にあたっての意識も変わっていきそうですか?

いや、それは変わらないと思います。あまり同じような曲調のものを作り続けるのは好きじゃないので、「ネバーランドネスト」でその方向性は一旦終わりで、また全然違う楽曲を出していこうかなと。

——作りたいものを作るというスタンスはブレないと。

その結果ヒットが出にくくなるってこともあるかもしれませんが、今までもずっとそうなので、困ることはないだろうなと。ボカロを始めた時は、まず自分の存在をリスナーに知ってもらうことが目標だったので、そのスタートラインには立てたと思います。リアルのイベントでも、挨拶すると「聴いたことあります」って反応してもらえることが増えてきて。

——具体的な数字に執着があるとかではなく。

そうですね。先ほど話した目標も、ただ純粋に誰にも知られてないのが寂しいっていうだけだったので。たくさん聴いてもらえているって体感さえあれば、それが嬉しい。

——今後挑戦してみたいことはありますか?

余裕があれば、DJとかをやれたらいいなと思いますね。ただ、でっかい音が鳴る場所が苦手だったりするので、耳栓をしながらDJするかもしれないですが(笑)。


 
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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。