DinoJr. × Kingo × Black petrol『anthem』鼎談 オルタナティブな泥臭さで繋がる3組が作り上げる至高の一夜
インディペンデント&DIYな活動スタイルで、多彩なジャンルを融かし混ぜ合わせるシンガーソングライター・DinoJr.。路上からライブハウスまで、軽快なフットワークで東京各地を駆けるラッパー・Kingo。2MCを含む7人編成で、フリーキーかつフリーダムなグルーヴを京都・大阪に響かせるBlack petrol。既存のシーンからはみ出しながら活躍する3組が5月20日に東京・下北沢SPREADで開催したスリーマンイベント『anthem』は、会場を埋め尽くす大盛況のうちに幕を閉じた。10月18日には、同イベントで披露されたコラボ楽曲「anthem」がリリース。Spotify『Soul Music Japan』『+81 Connect』やApple Music『Tokyo Highway』などの人気プレイリストにピックアップされ話題を呼んでいる。今回は、11月5日に大阪・心斎橋CONPASSでの『anthem -OSAKA-』も盛況に終えたKingo、DinoJr.と、Black petrolからMCのSOMAOTA、同バンドのリーダーも務めるtakaosomaの計4人を招き、リモートでの特別鼎談を実施。一介の企画イベントと呼ぶにはあまりにも熱い想いが込められた『anthem』の裏側とその余波をたっぷり語ってもらった。
取材・文 : サイトウマサヒロ
妥協できない3組だからできた『anthem』
——まずは3組の出会いについて伺いたいと思います。2022年11月にリリースされたDinoJr.さんのアルバム『NO MAN IS AN ISLAND』に、Kingoさんが参加した「Whales feat. ayafuya, Kingo」、Black petrolのMCであるSOMAOTAさんが参加した「Eh feat. SOMAOTA」が収録されていましたよね。
DinoJr.:先に出会ったのはKingoだったかな。
Kingo:初めて会ったのは碧海祐人の新代田FEVERでのワンマン(2022年4月開催)の時だったと思います。挨拶だけ交わしたぐらいでした。
DinoJr.:そうそう。その後「Whales」を作っている時に、早いラップが得意な人を呼びたいなと思ったんです。話したこともほぼないような状態だったんですけど、KingoにSNSで「入ってもらいたい曲があって…」というメッセージで送ったら、「やらせてください」ってすぐに返信が来ました。
Kingo:だから、まだ1年くらいの付き合いですよね。もう3曲くらい一緒に作ってるから、もっと長いような気がするけど。
Dino.Jr:リアルに、この1年で一番会ってる人だと思う(笑)。で、SOMAOTAとの出会いは、去年の夏頃に僕が大阪でライブに出演した時でした。対バン相手のバンドに颯爽と飛び入りゲストでラッパーが入ってきて、それがSOMAOTAだったんですけど、めちゃくちゃカッコよかった。で、その日僕が泊まる予定だった大阪のDUCK HOUSEというシェアハウスにSOMAOTAも住んでたんですよね。なので、空き日に散歩しながら色々話して、面白いやつだなと。その時、制作に行き詰まってるトラックがあったから聴かせてみたら、「僕にラップさせてください」って言われて。そうして2人が参加した曲の入ったアルバムが無事リリースされて、去年の11月26日に渋谷のTOKIO TOKYOで開催した僕のワンマンに彼らを呼んで、邂逅した…という流れです。
——なるほど。そこから、『anthem』を開催するに至った経緯は?
DinoJr.:今年の2月に、KingoとBlack petrolが出演する『FREE!!!』っていうイベントがTOKIO TOKYOであったんですよ。僕も遊びに行って、そこで3組がお互いをちゃんと認識して。そこからあまり日を空けず、SOMAOTAから僕に「スリーマンを東京でやらないか」って相談がありました。
takaosoma(Black petrol/Gt.):まだバンドをやっていなかった5年前ぐらいから、DinoJr.の存在は知ってたんです。というのも、大阪で知り合いのイベントに遊びに行くとDinoJr.がよく出てたので。それからしばらく経って、僕がDUCK HOUSEに泊まったけど下着が無くて困っていた時、SOMAOTAが余ってるパンツがあるといってDinoJr.のパンツを渡してきたから、それをお借りしまして。
DinoJr.:やめろよ(笑)。
takaosoma:で、今年2月に『FREE!!!』があって。関西から東京に来た僕たちは肩身狭いし心細かったけど、その時にKingoチームがリハの段階からすごいフレンドリーに話しかけてくれたんです。本番でも僕らのライブに飛び入りしてセッションしたり。そして、ライブが終わった後にDinoJr.が観に来てるってことを知ったので、「Dinoさん、僕パンツをお借りしたんです」と話したら結構ビックリされて、距離置かれたりもしたんですけど。
DinoJr.:そんなことないよ(笑)。
takaosoma:その後、SOMAOTAと東京でもっとライブをしたいという話になったんです。誰を呼ぶか考えた時に、まずKingoはあんなに温かく迎えてくれたんだから絶対に呼ぶ。で、DinoJr.もそのステージを観ててやりたいと思ってるだろうし、彼しかいないんじゃないかと。連絡したら2組とも即答でOKしてくれました。
——その後、オリジナルの楽曲「anthem」を制作したり、noteでの企画『anthem交換日記』を実施したりと、単なるスリーマンライブ以上のカロリーを持つイベントに発展していきました。
takaosoma:僕らみたいなジャンルのバンドって、正直コンセプトがよくわからないブッキングのライブに出ることも多くて、そういう時はどうしても対バン同士仲良くなれないんですよ。だから、これだけ仲良くなれる3組が東京と関西からわざわざ集まるなら、妥協はしたくない、やれることは全部やろうという気持ちはありました。それと単純に、やっぱり頑張った方が楽しいですからね。イベントに向かっていくストーリーを作る過程が、一番頑張っているって実感できる。
Dino.Jr:3組とも泥くさい熱量があって、何か爪痕を残したいみたいな気持ちが強い。だから、何かをサラッとこなすことができない人たちが集まった結果、自然にこうなったと思ってます。
Kingo:自分もライブではできることを全力でやりたいっていうスタンスです。3組ともその姿勢だから、それが掛け算になってどんどん盛り上がっていったんじゃないかと思います。この3組だからこそできることをやろうっていう思いをみんなが強く持ってるし、その気持ちがイベントの隅々にまで現れてるかな。誰がステージに立っていても、残りの2組が参加して入り乱れる形になったりとか。
——『anthem』というタイトルにはどのような思いが込められているのでしょう。
Dino.Jr:考えたのは僕ですね。なんでなんだっけ(笑)。
Kingo:色んな案が出ましたよね。
takaosoma:結構なミーティングを重ねた上で決まったけど、『anthem』って聞いたときに、「それだ!」ってなった気がする。
Dino.Jr:その場でお金を稼ぐとかじゃなくて、世の中に、あるいはそれぞれの人生に何かを残すということを目的にしたイベントなので。その象徴的な言葉として、『anthem』がピッタリなんじゃないかという思いでしたね。
——時代に刻まれる一曲という意味でも、『anthem』はしっくり来ますね。楽曲「anthem」のリリックも、時代性を感じさせる印象があります。
Dino.Jr:リリックについて打ち合わせをしたわけではないんですけど、自然と方向性が同じになったのは不思議な感じですね。
——ちなみに、『anthem』以外にはどんな案が?
Dino.Jr:イベントの裏テーマとして、Black petrolのライブをフジロックの関係者に見てもらって、フェスに出演したいという裏テーマがあったんです。なので、イベント名を『FUJI ROCK DETAIDESU(フジロック出たいです)』にしない?っていう話に(笑)。
Kingo:『ROOKIE A GO-GO』でフジロックに出たいという思いが強くて、最初はまったく同じようなデザインのフライヤーを作ろうとしてたんですけど、どこかのタイミングでさすがにやめようかって冷静になりましたね。
Dino.Jr:で、結局Kingoがフジロック出るっていうね。
takaosoma:しかも、公式から発表されるまで僕には教えてくれなかった(笑)。その後僕らも『出れんの!?サマソニ!? 2023』を通ってサマソニに出演できて、みんなも祝ってくれたので良かったんですけど。
——揉める事態にならなくて良かったです(笑)。
SOMAOTA(Black petrol/MC):takaosomaは、この夏にフェスに出られなかったらバンド辞めるって話をしてたんですよ。だから僕は焦ってて、僕にとっては「フジロックに出たい」が裏テーマというより真のテーマというか。結果的にはサマソニで目標達成できたので、『anthem』があったからかどうかはわからないけど、良かったです。
takaosoma:僕は、「フェスに出られなかったら辞める」じゃなくて「フジロックに出れなかったら辞める」って言ってたんですけどね。SOMAOTAにもう辞められないよって言われて、違約金が発生する可能性があるんで今も続けてるって状況です(笑)。とはいえ、サマソニ出たのはすごく大きな経験になりましたね。でも結局、大きいステージでも『anthem』でも、演奏してる時の気持ちは全然変わらないなと思います。
Kingo, Black petrol & DinoJr.「anthem」