Mili インタビュー 『ENDER MAGNOLIA』「Classroom Dreamer」の裏側、そしてアーティストとして暮らし続けるために

インタビュー
2025.2.25

Mili流のニューイヤーソング「Classroom Dreamer」

——ここからは直近でリリースされた作品について伺わせてください。まずは、1月30日にリリースされたシングル「Classroom Dreamer」について。bilbili動画の旧正月特番『bilibili拝年紀2025』オリジナルアニメーションのテーマソングとのことですが、そもそもこちらはどういったプロジェクトなのでしょう。

Cassie Wei:bilbili動画はサブカルチャーに特化したYouTubeやニコニコ動画のような中国の動画配信サイトなのですが、そこで毎年1月下旬から2月中旬頃の旧正月に、『紅白』のような毎年恒例の番組を放送するんですよ。様々なユーザーが次々に動画をアップして、自動的に次の動画に繋がっていく、長い番組で。私たちは、その枠の一つとしてbilbiliオリジナルのアニメーションを作るので、そのための曲を書いてほしいと依頼されました。そして、お互いにラフを提示してテーマを擦り合わせながら制作を進めていきました。

——Kasaiさんはどのようなイメージで楽曲を構築していきましたか?

Yamato Kasai:4つ打ちのハウス、テクノのテイストで、先方からいただいたアニメーションのラフに合わせて、爽快感のある楽曲を作っていきました。ただ、僕らはどんな依頼をいただいてもどこかにアクのような、ひねくれた部分を入れちゃうんです。それこそがMiliらしさだという意識もあって。そうするとNGを食らっちゃうこともあるし、「でもこれがMiliですから、こうじゃないとファンも喜びません」なんて話をしながら、理解もいただいて、最終的には良い形に着地できました。けど、色々あったよね?

Cassie Wei:ファンの方は、少し暗いというかそういうMiliが大好きなんですけれど、旧正月のお祝いの場で公開する楽曲なので、そのバランスを取って。ファンタジーや超能力を描いたり、希望を持たせつつも、最後には現実世界に戻って来るような作りにしています。

Yamato Kasai:サウンド面では、いわゆる普通のテクノではなく、生楽器を色々なところに散りばめるようなアプローチを取りました。歌詞でアクを出せない分、サウンドに個性を持たせようということで途中からその方向にシフトしていきましたね。映像とマッチングした曲になったし、Miliでは意外と作ってこなかったようなものが出来ました。

——確かにMiliさんの楽曲にはオーガニックな生楽器のサウンドのイメージが強くありますけれど、「Classroom Dreamer」はそこにデジタル感のあるビートが合わさることで新鮮さが生まれています。

Yamato Kasai:普通の生楽器とは違う鳴らし方、生なのにエレクトロニックな雰囲気があるみたいな音を目指しました。

——クライアントからの依頼やタイアップ作品に触れることを通して、それまで手札になかったような音楽的なアイデアが思い浮かぶことはしばしばあるのでしょうか?

Yamato Kasai:めちゃくちゃありますね。元々好きだったけどMiliではやらなかったようなジャンルも含めて。それによって、Miliとしても僕個人としてもどんどん引き出しが増えて、勉強になるので。貴重な機会だなと思います。

——Cassieさんはどのような思いで歌詞を書き上げたのでしょうか?

Cassie Wei:子どもの頃、中国に5年間住んでいたんですけれど、最近、中国の若者……ちょうど私ぐらいの世代の失業率がすごく高いらしいんですよ。それって切ない。私の世代では、親の話を聞いて、先生の話を聞いて、勉強して良い大学に入って良い企業に入るっていうのが正しい道とされてたんです。

Yamato Kasai:日本と同じだね。

Cassie Wei:そうそう。だけど、そのつもりで頑張ってきたのに仕事が見つからないっていう悲しい現実が今そこに来ているじゃないですか。だから、今までは他人が敷いたレールに乗っかって頑張ってきたけれど、これから自分で選んだ道に進んでも遅くないよ、っていうメッセージを込めました。最初は「夢は叶わないかもしれない」っていう方向性で書いてたんですけれど、最終的には「夢は叶うかもしれない、だけどあなたが動かないといけない」という形になりました。ただハッピーなだけではなくて現実味があるし、だけど希望も感じられる、バランスの取れた歌詞になりましたね。

——結果としては、Miliさんらしい祝福の歌となったのかもしれないですね。

Yamato Kasai:僕らは、幸せ100%で両手放しで褒めちぎるような歌詞は苦手なので(笑)。リアルな裏の苦労が見えないようなストーリーは嫌なんです。

Cassie Wei:現実的なところがあるよね。

Yamato Kasai:みなさんもわかっている通り、夢を追うっていうのは簡単なことじゃないじゃないですか。現実世界の中で理想を思い描いて生きていくと、色んなことにぶつかって苦労をする。その苦労を見せずに理想や夢を語ることはできないと思っていて。しんどい部分を含めることで、歌詞に説得力も増しますから。それを100%省くのは人間らしくなくて苦手なんです。

——そういった楽曲に込めるメッセージは、二人で共有した上で作り始めるんですか?

Yamato Kasai:特に打ち合わせとかはないですね。それはクライアントワークでもオリジナル曲でも同じです。クライアントワークでは、僕が資料を読み込んで作ったオケをキャシーに渡す。それから、キャシーはそのオケの印象と資料を基にメロディと歌詞を書くんです。で、オリジナル曲に関しては僕のオケが資料の代わりみたいなもので。どんな曲が作りたいかを話す工程はないです。僕の作業が終わったら、「じゃ、よろしく」って感じで。オリジナル曲を作る時に、最初にテーマを決めるような打ち合わせをしたら、クライアントワークとの違いがなくなっちゃうじゃないですか。そこは、僕からふと湧いて出てくるものを大事にしたいですね。


Mili「Classroom Dreamer」

Mili「Classroom Dreamer」

 

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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。