【Who’s NXT】SEIJ 「自分自身が音になって、どれだけ空気を揺らすことが出来るか」多様なルーツを持ち音楽に愛情を注ぎ続けるアーティスト
SEIJ
幼年期を自然豊かな南国で育ち、東京に移住して20年の歳月を過ごしているSEIJ。2021年に出した2枚のEPに続いて2022年には3枚目のEPを発表した。前作から意識されてる自然への視点がさらに深まった作品となっている。歌のみならずピアノやサックスを演奏してトラックメイキングや歌詞も自身で行なっており、様々なクラブミュージックに影響された多様なビートは正にSEIJの生き方を表している。ある時は外国人、ある時は日本人に。またある時は男であり、違うタイミングでは女になるといったように。EP『Golden Butterfly』には、それでも変わらない SEIJの音楽への愛情表現が詰まっている。
SEIJ grew up as a child surrounded by rich nature in the tropical southern islands before moving and living in the city of Tokyo for two decades.
After releasing two EP’s ,his third was about reconnecting with his roots and focusing the theme on nature.
Not only he sings,he composes his own music with beats influenced by different kinds of club music,and sometimes plays it together with the piano and saxophone
which he also loves,expressing his unusual life.
Sometimes as a foreigner and sometimes as Japanese,sometimes masculine and sometimes feminine.
Delivering his voice to this unstable world.
Who’s NXT : A series of interviews with featured artists
——まず最初に音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。
小さい頃から音楽は割と身近にあったのですが、正直何がきっかけだったのかがいまだによく分かっていません。ただ覚えてることは小学生の頃、将来の夢はパイロットかミュージシャンになりたいとよく言ってました。飛行機が好きなのもその音が好きだからという理由なので、多分音そのものが好きなんだと思います。小学生の時は楽器を通して自分で音を出すことにハマり、中学生の時はビブラートとハモリの魅力に惹かれ、20代前半はとろけるようなメロディー作りの研究に熱を注いでいました。現在はリズムのグルーヴ、スイング、フローに関心を持っています。
——現在の活動拠点はどちらですか?
現在は日本を拠点に主に制作活動に力を入れています。2022年8月に出した3rd EP『Golden Butterfly』に続き、4th EPを現在制作中です。少しずつライブも入るようになったので、ライブがある時はその準備や練習に時間を使っています。
——EP制作にはどんなことがきっかけとなりましたか?
20代前半は色々と過酷な時期だったのですが、結果的にずっと続けてた音楽を1年間離れてしまう時期がありました。でもやっぱり音楽を離れ人間が崩壊していったのと、音楽がやっぱり大好きだという強い再確認ができ、結果それがEP制作を始めるきっかけになったと思います。
——3rd EP『Golden Butterfly』について、改めてご紹介いただけますか?
『Golden Butterfly』は、子供時代はフィリピンやパラオの豊かな自然の中で育ったので、前作『I Feel It Again』よりもさらに深くもう一度自然との繋がりを再確認しようと試みた作品です。5曲入りのEPとなっていて、まず1曲目の「Bloom」は、冬の終わりから春の始まりにかけて作った曲で、1、2か月ほどかけて少しずつ大きくなっていく植物の蕾を観察しながら作った曲です。アップテンポで「まだかな〜、まだかな〜」と花が咲くのを待ちきれない気持ちをテーマにし、冬の寒さから春の風になった変化と暖かさを曲のコードに反映させてみました。蕾に自分のエネルギーを送るイメージと、無意識ですが、自分自身にもうまく咲いてくださいというメッセージを込めた曲となっています。
続く「Dancing in the flames」は、ワルツをモチーフにし、現代的な部分とアンビエントの要素を少し取り入れてみた楽曲です。多重コーラスや多重サックスでメラメラと燃える炎を作り、絡みあった人間のしがらみの中からバラが咲くというようなイメージで作ってみました。人間の白々しさと卑しさについてをテーマにし、この世の地獄をどう軽やかに渡り踊るかを自分なりの反骨精神で作った楽曲です。
3曲目のタイトルトラック「Golden Butterfly」は、都会の中を飛び駆けていく蝶をトラックに表現してみました。都会から渡る蝶の大群をイメージしたBridgeの後に来る「Release me in the islands Release me in the ocean Release in my homeland」「You will know me in the coral reefs」の都会から最終的に海に還っていく魚の自分を想像した部分がお気に入りです。パラオから日本に移住して20年近くになりますが、都会の中で味わう独特の孤独感や、ハーフとして生活させられる疎外感をメッセージに込めました。
4曲目は「Bubbles And Sweat」で、「泡と汗」の意味を持つタイトルこの楽曲は「命の洗濯」をテーマとした日々のお風呂を表現する曲です。日常の身近にあるような水の音をサンプリングしたりと、水のエネルギーを感じられるようなトラックにしてみました。ゆったりとしたグルーヴは日本のお風呂文化で感じることを表現してて、お風呂に入る時はもちろんのこと、ゆっくりリラックスしたい時におすすめする1曲です。
そして最後の「Sapphire Paradise」ですが、トラックはパラオの島々から見えた海に沈む大きくて燃えるような夕焼けと、暗闇で存在感を放つ満天の星空をイメージして作ってみました。身近にある幸せの大切さや欲張ってはいけないよ、そして後悔のない生き方というメッセージを込めてます。サックスを吹いたり、躍動的なリズムで島をのびのび駆けていくような爽やかで優しい1曲となっています。
——ご紹介ありがとうございます。また、上記以外でおすすめ、あるいは思い入れのある作品をあげるなら?
2nd EP『eclose』に収録されている「I Feel It Again」ですね。日の光の持つエネルギーとそれを受ける私たち生物たちとの密接な関係をロマンチックなテイストで仕上げた曲になっています。
「I Feel It Again」収録のEP『eclose』
——音楽制作はどのような環境やプロセスで行っていますか?
基本的なトラック作り、歌やサックスのレコーディングは家のLogicでやりますが、曲のアイデアの材料などは外に遊び行く時に思い付くことが多いです。自然以外には読書やドキュメンタリー作品、映画や美術館などを通してアイデアを拾うことも多いです。景色を見てそのままその場で曲を作ったりもしますし、言いたいことがあればそのまま歌詞にしたりもします。出来るだけ偏った作り方にならないよう、どんな物事でも様々なアプローチで曲を作れるようには心がけています。
——SEIJさんが影響を受けたアーティストを教えてください。
Taro Okamoto
初めて太郎先生の作品を目の前にした時、ただただ度肝を抜かれました。先生の作品はどれも全力フルスイングで振り切ってて、ありとあらゆる万事や感情のエネルギーを全て凝縮して露わにしたようものばかりでただただ頭が上がりませんでした。「爆発」することは彼から学びました。作品を通して感じた孤独を吹き飛ばす彼の優しさ、人間への深い愛情、そして明日を生きる力をもらいました。
Tina Turner
Tinaの燃える魂は全てを溶かすくらいものすごく熱いです。どんな過酷な状況が目の前にあろうとも、それを燃やし尽くしてしまう「声」さえあれば道は開けるということを彼女から学びました。歌うことに怯える自分の背中を彼女はいつも押してくれます。
Naomi Chiaki
Naomiさんは「念」を唱えるかのように歌う稀有な存在。魂のこもる言葉、「言霊」の持つ威力は彼女から学びました。
——楽曲でいうとどういう曲に影響を受けましたか?
Mark Ronson performs Don’t Leave Me Lonely with YEBBA in acoustic session at Glastonbury 2019
苦しさを感じられるようなMarkのピアノの中で、重力さえ物ともせず、あまりにも自由に飛んで歌うYebbaの声に歓喜したのを覚えてます。歌とはここまでこんなことができるんだ、歌とはこんなに自由に歌っていいものなんだと目を覚まされた曲です。音楽から少し離れてた時期に聴いて、EP制作へと繋がるきっかけにもなった曲です。
Whitney Houston – Exhale
Whitneyはパワー系の曲が多いイメージでしたが、この曲はそれとは真逆で思い切ってリラックスして抜くっていう感じの曲です。低音の響きがとても気持ちよく、人の暖かさと優しさを感じられるような曲です。
Brian Eno – Ambient 1 Music for airports
アンビエント音楽が大好きになるきっかけになった曲です。宇宙の広さと自分の世界の狭さをいつも気づかされます。瞑想や読書、寝る時にいつも聞きますが初めて大好きな空港で聴けた時はとても感動しました。穏やかな気持ちになれる名曲です。
Janis Joplin – Cry baby
表現を超えて、自分の痛みを思いっきり人に晒すJanis。痛々しさもとても感じますが、それ以上に生にしがみつこうと燃え輝くJanisの魂に感動します。
Takashi Kokubo – Jamaica / Jamaica ~ Waves And Light And Earth (ジャマイカ~波と光と大地)
小久保さんのアンビエント作品の中でもよく聞くのがこの曲。優しい砂浜の音と太陽が昇り沈むのを繰り返すようなほのぼのとしたメロディ。喧騒な都会にいてもいつでも手軽に行けるオアシスに助けてもらってます。
Queen – Don’t stop me now
子供に戻ったような無邪気さと純真な心を感じられる名曲。誰にも止められない好奇心と遊び心、人にどう見られてるかなんて気にしないような真っ直ぐな心がこもった作品です。
Nina Kraviz – Skyscrapers
ディープなストリングスとパッドで出来たイントロ、その後入ってくる肉体的でビリビリと刺激音。ミニマルだからこそ出せる肉体的感と絡み合う余裕のある響き、そして解放が絶妙にマッチした見事な作品です。
Alewya – Sprit_X
エジプトとエチオピアをルーツにもつAlweyaの独自のリズムカルなメロディラインが特徴的。複雑でなくともリズムとフローを絶妙に作って上げることでキャッチーなのを保ちながらもものすごいグルーヴ感を引き出せることに影響を受けました。
Richard Spaven – Muscle Memory
神経を通って脳から筋肉へ伝わる電気信号を表現したような作品。エレピとジャズドラム、ベースで作られたようなこの曲ですが、音だけで精密な人体の構造と機能を表現することが可能なことに感化されました。
Pa Salieu feat slowthai – Glidin’
UKの2人によるラッパーの作品。ガンビアのルーツを持つPa Salieuの跳ねてオラオラしつつも、滑らかで滑るようなフローがとても気持ちよく最近一番聞いています。
——SEIJさんが音楽活動をするにあたって、なにか特に意識していることはありますか?
自分自身が音になって、どれだけ空気を揺らすことが出来るかを意識するようにしています。
——そういった意識の中で、リスペクトするアーティストをあげるなら。
Hibari Misora、João Gilberto、Oneothtrix Point Neverです。
——また、現在の音楽を取り巻く状況に関して、なにか感じることはありますか?
日本のテクノ、ハウスシーンからはいつもフレッシュでパワフルなインスピレーションをもらっています。DJたちがとても頼もしく感じます。また日本のヒップホップシーンも勢いに乗ってきているのでこれからが楽しみです。
——最後に今後の活動の予定や展望を教えてください。
さまざまな土地でライブをしたいなと思っています。また4th EPのリリースもすでに予定してるので、制作に引き続き尽力していきたいです。