【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.1 – 海外に向けた分かりやすいプロフィール作り

2021.8.4


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.1 - 海外に向けた分かりやすいプロフィール作り

音楽ストリーミングの普及とデジタルディストリビューションの台頭により、インディペンデントアーティストも好きなタイミングで、そして世界のリスナーに向けてリリースが可能となりました。さらに、TikTokやYouTubeなどから国内インディペンデントアーティストの楽曲が海外でバイラルヒットするという事例も増えています。

国内リスナーにフォーカスするのはもちろん重要ですが、活動にもし余裕があればグローバルなリスナーへのアプローチを視野にいれることで、潜在的なファンの分母は圧倒的に増えることになるでしょう。

そこで、この新連載『アーティストのための英語コミュニケーション – English Communication for Artists』では、インディペンデントアーティストの海外への英語アプローチの基本的な部分をお伝えします。

連載を担当するのは、シンガーソングライター / 油彩画家 / 通訳・翻訳家のRie fu。アーティスト自身の目線で、英語コミュニケーションについてQ&A形式で定期的に解説・紹介していきます。本連載が言語(英語)面におけるインディペンデントアーティストのサポートとなれば幸いです。

Rie fu × THE MAGAZINE

Rie fu
2004年、デビューと同時にロンドンのセントラル・セント・マーチン芸術大学で絵画を学び、アートと音楽を繋げる活動を続けている。日本国内だけでなく、アジアツアー開催など活動の拠点を広げ、2016年からはイギリスでの音楽活動をスタート。2018年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン大学院にてSpecialized Translation(専門分野翻訳)MSc修士号を取得。「音楽、アート、英語教育」をテーマに、アメリカ、シンガポール、イギリスに住んできた海外経験や、自らの音楽体験を織り交ぜた唯一無二の活動を展開。
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https://www.instagram.com/riefuofficial
https://twitter.com/riefuofficial

 
【連載】アーティストのための英語コミュニケーション – English Communication for Artists Vol.1


[相談] 海外向けにアーティストプロフィールを作りたいのですが、どのように書けばよいでしょうか?
【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.1 - 海外に向けた分かりやすいプロフィール作り

私は都内で活動しているシンガーソングライターです。高校生の頃からギターを主に楽器のスキルを身につけながら、作詞と歌もはじめ、DTMで曲を作ってきました。

以来、インディペンデントなスタンスで最初のリリースから1年が経過し、コンスタントに曲を配信リリースしたりMVも公開するなどアクティブに活動しています。先日は音楽ストリーミングサービスのオフィシャルプレイリストにもピックアップされました。

SNSのフォロワーも1,000人を超え、ライブの出演オファーもいただけるようになり、少しづつファンベースが増えています。エレクトロ、オルタナティブなサウンドをメインにしていますが、海外の方からメッセージが届くこともあります。

こういった状況の中、国内に限らずより多くの方に自分の曲を聴いてもらいたいので、SNSのプロフィール欄や海外向けのプレスリリースにも記載できるような、英文のアーティストプロフィールを作りたいと考えています。そこで、どういったところに気をつけて書けばよいのか、どうすれば分かりやすく魅力的な英語プロフィールになるでしょうか、教えてほしいです。

 
 

 Rie fuからのアドバイス&解説

海外に音楽を届けるにあたって、プロフィールはとても重要です。

魅力的な内容で読み手を惹きつけることで、「こんな人はどんな音楽を作るんだろう?」と音源に興味を持ってもらえるからです。

特に英語のプロフィールでは、オリジナリティーのあるストーリー性が求められます。履歴書のように経歴を並べるだけでなく、他にはない、自分だけの物語を綴ることが大切です。個性やサウンドを表現するときは、より具体的な形容詞を使ってみましょう。さらに掘り下げて、情熱、信念やこだわりを具体的に書くことで、芯の強さをアピールしてみましょう。自分のことなので、日本語で書くと照れてしまう表現もあるかもしれません、そのため、海外アーティストは、音楽ライターに依頼してプロフィールを書いてもらうことが多いですが、もちろん自分で書くこともできます。次にご紹介するポイントをベースに、まずは自分で英語のプロフィールを書いてみましょう。

 
はじめに

プロフィールの書き方に特にルールはありませんが、次の3つのことを心がけるだけで、読みやすく、クオリティーの高い文章になります。

1.長さは300〜500ワード、3段落ほどにまとめる
SNSのプロフィール欄とプレスリリースでは、求められるプロフィールの長さが違います。短すぎても勿体ないですが、あまり長すぎても、全部に目を通してもらえないかもしれません。そこで、300〜500ワード、3段落ほどの文章を作っておいて、ショート・ロングバージョンを用意しましょう。

 
2.三人称を使う(he/she/they)
主語は”I”ではなく、『彼/彼女/彼らは…』と三人称を使いましょう。そうすることで、音楽ライターが書いたような客観的な印象になります。

 
3.能動態(active voice)を使う
英語のプロフィールでは、すべて能動態を使うように心がけましょう。

主語+動詞+目的語の文法を使い、受け身(受動態)の文体にならないよにしましょう。

受動態と能動態の違いを分かりやすく説明すると…

受動態 : The song was written by him(その曲は彼によって書かれた)
 
能動態 : He wrote the song(彼がその曲を書いた)

このように、能動態を使うことで、自発的で積極的な印象を与えられます。

 
さっそく書いてみよう

それでは、英語のプロフィールの書き方を、いくつか例文をあげながら順序立てて説明していきます。ここでは、分かりやすいように三段落に分けてみます。

一段落目では基本的な情報を挙げてみましょう。名前、出身地、活動を始めた時期、サウンドなど、まずは簡単な自己紹介をします。文字数が限られるSNSのプロフィール欄には、ショートバージョンとしてこの一段落目のみを掲載してみましょう。

ロングバージョンでは、二段落目でもう少し深掘りして、影響を受けたものや個人的な信念など、読み手を惹きつける物語を展開できます。

そして三段落目では、今までの実績、現在の活動、今後の展望などを綴り、今後の活躍への期待で締めくくります。

 
■一段落目

1.名前、出身地

同じ名前と出身地を説明する文章でも、いくつか書き方があります。

Rie, born in Tokyo, Japan…(リエは、日本の東京で生まれ…)
 
Born and raised in Tokyo, Rie…(東京で生まれ育ったリエは…)
 
A Japanese native, Rie…(日本生まれのリエは…)

 
2.いつ活動を始めたか

活動を始めたタイミングは、曲作りを始めた時期、初めてライブをした年、デビュー曲をリリースした年など、それぞれの表現の仕方があります。いつでもいいので、独自の判断で決めてみましょう。

…released her debut single in 2016.(2016年にデビューシングルをリリースした)
 
…started composing music when she was 17.(17歳の頃、作曲を始めた)
 
…has been performing live since 2016.(2016年からライブ活動をしている)

 
3.どんなサウンドか

ここが重要なポイントです。いかにユニークなサウンドかを表現するために、より具体的な形容詞を使いましょう。似ているアーティストをあげてもいいですが、その場合は、書き方の工夫が必要です。他のアーティストの真似をしている印象になってしまっては、せっかくの個性がかき消されてしまうからです。例えば、『〇〇のこんな要素と〇〇の別の要素を掛け合わせたようなサウンド』など、あくまでも独自の表現力があることをアピールしましょう。

Her music is energetic, vibrant, and dynamic…(彼女の音楽はエネルギーに満ち溢れていて色鮮やかで、ダイナミック)
 
With a lush splendor of The Carpenters and acoustic intimacy of Suzanne Vega…(カーペンターズのような鮮やかな輝きと、スザンヌ・ベガのようなアコースティックな親しみやすさがあり…)

 
※英語の形容詞のボキャブラリーが少ない…

という場合!とっておきの検索ワザがあります。実は、私も英語の歌詞を書くときによく使っている裏ワザです。とても簡単、

「知っている単語 (スペース) synonym(類語)」

でグーグル検索するだけです。

例えば、beautiful voice(美しい声)と表現したいとき。

「beautiful synonym」

で検索すると、こんなに多くの類語が出てきます。

attractive / pretty / handsome / good-looking / gorgeous / heavenly / stunning / arresting / glamorous / irresistible / bewitching / beguiling / graceful / elegant / exquisite / aesthetic / artistic / decorative / magnificent…

これらのbeautiful以外の言葉を使って、同じ意味を表現できます。ただし、類語として出てくる言葉が必ずしも伝えたい内容に適した表現とは限らないので、英和辞典で細かい意味をしっかり調べましょう。

この場合、good-looking voice(見た目が良い声)やdecorative voice(装飾的な声)など、視覚的に『美しい』という意味の言葉は適していません。elegant voice(優雅な声)やbeguiling voice(魅惑的な声)などが良いでしょう。

 
■二段落目

4.影響を受けたもの、人、出来事など

二段落目では、読み手を引き込むような物語を展開してみましょう。影響を受けたものは、音楽以外のものや出来事かもしれません。海外に向けたプロフィールのポイントとして、日本文化を紹介してみてもよいでしょう。日本人にとっては身近なものでも、海外にとっては異国情緒溢れる魅力的な内容になります。また、日本人なら誰もが知っている情報でも海外では知られていない場合もあるので、説明を加えましょう。

Growing up, she was inspired by Gundam, an animated television series featuring giant robots.(彼女は幼い頃から、巨大ロボットが登場するテレビアニメシリーズ、ガンダムに影響を受けてきました)

このように日本の代表的なアニメを紹介しつつ、文章の後半では『ガンダム』の内容を説明しています。

Inspired by the beautiful mountains of Nagano…(長野の美しい山々にインスパイアーされて…)

長野という場所を知らない人でも、美しい山がある場所だということが分かります。

 
5.信念やこだわり

ここでは、自分の信念、こだわり、また情熱を持っていることなどを紹介し、真剣に音楽と向き合っていることを伝えましょう。国内外でも、音楽活動を続けるためのアーティストとしての軸となるのが、この『信念』です。

She believes in hard work and modesty.(彼女の信念は、努力と謙虚さ)

She is passionate about volunteering activities through music.(彼女は、音楽のボランティア活動に情熱を注いでいる)

 
■三段落目

6.今までの活動、実績

三段落目では、今までで一番誇れる活動実績は何か、振り返って見ましょう。まだ活動を始めたばかりでも、リリースした曲の数や、オープニングアクトをつとめたアーティスト名など、今後の期待につながる内容を書いていきましょう。

She gained attention when her first EP was featured in numerous playlists, which lead to an opening act performance for XX in 2017.(1枚目のEPが数々のプレイリストに選ばれたことで注目を浴び、2017年にXXのオープニングアクトをつとめた)

 
7.現在の拠点や活動

最後に、現在の本拠地や今後の活動予定を書いて締めくくりましょう。

Now based in London, she is working on a new album with the producer, XX.(現在はロンドンを拠点に、プロデューサーXXとニューアルバムを制作中)

 
上級編のワザ

代名詞を置き換えてみよう

he/she/theyを置き換えてみることで、より多くの情報が伝わる洗練された文章になります。

He has released 5 EPs and 10 albums

The Houston rapper has released 5 EPS and 10 albums

heをthe Houston rapperに置き換えることで、彼がヒューストン出身だという情報がさりげなく伝わります。

 
二つ以上の文章を組み合わせてみよう

主語と時間軸が同じ場合、二つ以上の文章を組み合わせればさらにスマートな文章になります。そこで、分詞構文を使ってみましょう。分詞構文というと堅苦しい文法のイメージですが、これだけ覚えてしまえば簡単です。

例にあげて説明しましょう。

①He learned to play the guitar at 15.
 
②He recorded his first album in 2020.
 
彼は15歳でギターを習得した。
 
彼は2020年にファーストアルバムをレコーディングした。

二つの文章を組み合わせるには

Having + heを抜いた①+②
 
Having learned to play the guitar at 15, he recorded his first album in 2020.

または、

After +heを抜いた①(ing形)+②
 
After learning to play the guitar at 15, he recorded his first album in 2020.

三つの文章も組み合わせられます。

①He learned to play the guitar at 15.
 
②He formed a band in 2018.
 
③He recorded his first album in 2020.
 
Having learned to play the guitar at 15 and forming a band in 2018, he recorded his first album in 2020.

文章が長すぎても読みづらいので、組み合わせるのは通常二文、多くても三文までがよいでしょう。

 
メディアなどで紹介された場合、引用してみよう

“The voice of the new generation” – The Magazine

このように引用符と-を使うこともできます。また、〇〇has described her/him/them as “〇〇”という書き方もあります。

The Magazine has described her as “the voice of the new generation” in 2020.

ツイートやキャッチコピーなどでも良いでしょう。引用元には、プロフィールに掲載してもよいか確認することが好ましいです。

 
使えるワード・フレーズ

時制

“Since-“(〜以来)

“Between – and - ”(〜から〜の間)

“At 年齢”(when he/she was 〜years oldと書くよりもスマートな文章になります)

“As of 年”(〜年現在)
『彼女は2021年現在、東京に住んでいる』=As of 2021, she lives in Japan.

“To date”(現在まで)
『現在まで3枚のアルバムをリリースしている』=She has released 3 albums to date.

 
 
表現

“Gained attention (recognition)”
注目を浴びた

“Most known for…”
…で知られる

“Inspired by…”
…に影響を受けて

 
 
形容詞

“Unique”
ユニーク、唯一無二、誰にも真似できない、というポジティブな印象です。

“Eclectic”
辞書に載っている意味は『折衷的』です。つまり、さまざまな要素を組み合わせた斬新さを表現していて、新進気鋭のアーティストや楽曲を表現する時によく使われます。

“Promising”
promiseは約束、つまり将来を約束されている、将来有望な、という意味です

“Multi-talented”
音楽以外の活動をしている場合、マルチな才能があることをこの言葉でアピールしましょう。さまざまな楽器を弾く人は、multi-instrumentalistということもできます。

“Prolific”
数多くの楽曲を制作・リリースしている場合は、『多作』という意味のこの言葉を使ってみましょう。

 
プロフィールの仕上げに…

文法とスペルチェックを忘れずに!今の時代は、Grammarlyなどのオンラインツールが便利です。

https://www.grammarly.com/

 
 
自分の情報を当てはめるだけ!
簡単英文プロフィールのテンプレート

(名前), born in (出身地), started composing music in (作曲を始めた年).
 
After releasing his/her first single “(1stシングルのタイトル )” in (1st シングルを出した年), he/she started performing live in (ライブを始めた年).
 
His/her music is (形容詞その1), (形容詞その2), and (形容詞その3), with a (音楽的要素1)of (音楽性が共通するアーティスト1)and (音楽的要素2)of (音楽性が共通するアーティスト2).
 
Growing up, he/she was inspired by (幼い頃影響を受けたもの、人物、出来事など)and believes in (信念).
 
He/she gained attention when (注目を浴びた出来事), which lead to (今までの一番の実績).
 
Now based in (現在の拠点), he/she is (現在の活動、現在進行形で).
 
“(メディアの引用)” -(紹介されたメディア)

 


 
連載の第1回目は、「海外に向けた分かりやすいプロフィール作り」の方法をご紹介しました。

プロフィールを英語で書いてみることで、自分の個性や音楽性にピッタリな英語表現を新たに発見できるかもしれません。ぜひ、この機会にさまざまな表現や単語を深掘りしてリサーチしてみましょう。

この記事の執筆者

Rie fu

シンガーソングライター / 油彩画家 / 通訳・翻訳家 - 日本語と英語がミックスされた歌詞や、カーペンターズに影響を受けた歌声が特徴。幼少期をアメリカで過ごし、現地で賛美歌などに触れた事がきっかけで歌に興味を持ち始める。2004年、デビューと同時にロンドンのセントラル・セント・マーチン芸術大学で絵画を学び、アルバムアートワークを描く等、アートと音楽を繋げる活動を続けている。ものづくりの過程が垣間みられる工事現場をテーマとした絵画も描く。日本国内だけでなく、アジアツアー開催など活動の拠点を広げ、2016年からはイギリスでの音楽活動をスタート。2018年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン大学院にてSpecialized Translation(専門分野翻訳)MSc修士号を取得。「音楽、アート、英語教育」をテーマに、アメリカ、シンガポール、イギリスに住んできた海外経験や、自らの音楽体験を織り交ぜた唯一無二の活動を展開。

https://linktr.ee/Riefu