TRILL DYNASTY インタビュー | 日本人プロデューサーとして全米ビルボード1位を獲得「まだスタートライン、目標はグラミー」

2021.5.29


TRILL DYNASTY インタビュー | 日本人プロデューサーとして全米ビルボード1位の快挙

2019年にTHE MAGAZINEのプロデューサーシリーズIYOWに登場したTRILL DYNASTY。その時彼は「もっと海外のアーティストに楽曲を提供していきたい」と語っていた。その後、彼はまさしく有言実行、さらに日本人プロデューサーとして初のビルボード1位の快挙まで成し遂げる。シカゴのラッパー Lil Durkが2020年9月にリリースした楽曲「The Voice」のプロデューサーとして参加、その後同曲がタイトルトラックとなったアルバム『The Voice』が同年12月にリリースされ、『The Voice』は2021年1月16日週の全米ビルボードR&B/HIP HOP ALBUMSで1位を獲得した。5月には本人が自身のInstagramでその受賞盾を公開し、改めて快挙達成を国内に伝えた。現在も音楽とは別の仕事をしながらも、プロデューサーとして曲作りに励んでいるというTRILL DYNASTY、忙しい合間を縫って仕事終わりに時間をもらい改めて話を聞いた。

 
楽曲「The Voice」について

——今日は仕事終わりでお疲れのところありがとうございます。

ぜんぜん大丈夫です。今日はちょっと早くて、いつもだと22時くらいに帰ってきて、それから曲を作りはじめるんです。毎日午前の3時か4時まで曲作って、2時間くらい寝てまた仕事に行くっていう生活なんで。

——SNSでもかなりストイックに制作に取り組んでいる様子が伝わってきます。

いま30歳前なんですけど、僕は曲を作り始めたのが遅いんですよね。本格的にスタートしたのが3、4年前なんです。だから、自分としてはやっぱりそのくらいやって当たり前かなと思ってるんで。

——そして今回は改めておめでとうございます。ビルボード1位を獲得されたのが約5ヶ月前になるので、TRILL DYNASTYさん的にはだいぶ過去のことかもしれませんが、ビルボードで1位になったことについてお話を聞かせてください。

関わった作品が1位になったことについては、現在海外の活動に関してお世話になってるDiaper Goat Managementから当時すぐに連絡がありました。Diaper Goatはビートマネジメントをメインに手がけてるフロリダのエージェントです。Lil Durkとの楽曲に関するやりとりも全てDiaper Goatがやってくれました。彼(Diaper Goat)は元々Lil Durkのマネージャーとも昔から深いつながりがあったりしてシーンでのキャリアも長く、Rod WaveやQuando Rondoも含め、そういった界隈からも信頼されてる存在ですね。もちろん僕も彼に絶対的な信頼を置いています。

—— 「The Voice」では、楽曲を聴くと冒頭に「trill on the keys」というTRILL DYNASTYさんのビートタグを聴くこともできますし、ビルボードの記念盾にも明確にクレジットがあってTRILL DYNASTYさんが手がけた楽曲に間違いがない一方で、SpotifyなどではTRILL DYNASTYさんのお名前がクレジットされていなかったりしますが、それはどうしてなのでしょう?

それに関しては僕自身もどうしてそうなっているかよく分からないんですよね。実際「The Voice」のビートのループは全部僕が作っていて、LowLowTurnThatUp、Ayo Blue、Turn Me Up Joshという素晴らしいプロデューサーたちと一緒に仕事させていただきました。僕がピアノとオルガン、ギター、Ayo Blueもギター、LowLowとJoshがドラム、とそれぞれが手がけています。なので、ビートタグも無くてクレジットにも入ってないってなると、本当に自分が作ったの?ってなってしまう可能性もあるし、今考えると危ない状況ではあったと思います。ただ、僕のビートタグもちゃんと入っていますし、実際プロデューサーとしてリスペクトの証としてこうやってクレジットの入った盾もいただいて、Spotify USから僕のマネージメントにも確認があって僕がプロデュースしていることは間違いなく伝わっています。これに関しては、これからグラミーを狙っていく中で色々なことがあるだろうなと思ってて、そういう気をつけなきゃいけないことの一つなのかなと。とはいえ、もうすでにさらなるビッグネームのアーティストとのプロジェクトもどんどん動いているし、僕自身は次へ向かってるんで、その辺について今さらどうこう言うつもりもないし、もう過去の小さな話という感じです。

——「The Voice」のビート、ループはいつ作ったものだったんですか?

作ったのは2019年の2月くらいだったかな。作ってから相当な期間ストックされてたものなんですよ。実は自分ではそこまでかっこいいビートだとは思っていなくて、採用された時は「あ、それ使ったんだ」というのが素直な感想でした。

 


 
恩人のプロデューサーMookとの出会い

——今回のことは日本人でも世界のシーンの真ん中に楽曲で挑んでいけるんだということが証明された国内の音楽シーンにとって歴史的な出来事だと思うのですが、Diaper Goat Managementのような存在とパートナーになれるだけでもすごいことですよね。TRILL DYNASTYさんはDiaper Goat Managementとはどのようにして関係を築いたのでしょうか?

それは全てMookのおかげです。ビートタグが「Mook Got The Keys Jumping」で知られているプロデューサーです。さっき言ったように僕はキャリアのスタートが遅かった分、自分でできる限りのことをしつつ、なるべく無駄なことはしないでいかに近道ができるかを考えていたんですけど、例えば僕みたいな末端のプロデューサーがいきなりQuandoに直接ビートを聴いてもらえる確率はほぼゼロに近いですよね。でもQuandoにビートを提供しているプロデューサーにビートを聴いてもらえる確率はそれよりはあるだろうなと。まずプロデューサーたちに聴いてもらえれば、使ってもらえる可能性は少なくともゼロよりは上がりますよね。曲が使ってもらえないって嘆くくらいだったら、ひたすら鍵盤の練習をしようと思って実際練習したし、そしてその練習の延長線上で作ったループをひたすらストーカーのようにMookやZaytovenをはじめとした海外のプロデューサーに送りまくってました。

——毎日ビート、ループを20本送っていたと言ってましたよね。

最初はひどかったですよ。Fxxkって普通に返信がくるし。「あ、本当に人にFxxkって言うんだ」って思いましたもん(笑)。でも、Fxxkって返信があった10分後にまたループを10本送るっていう(笑)。

——(笑)

そういうことを地道にやってたら、Mookが根負けしたっていうか、「もう分かった、お前しつこいから1曲だけ一緒に作るよ」って言ってくれて。彼自身も這い上がってきたタイプのプロデューサーなんですよ。以前のインタビューでも言いましたけど、彼は何のコネもないのにYoungBoyにビートを採用されたり、努力してキャリアを積み重ねてきたプロデューサーで。それで最初の1曲を皮切りにだんだん僕のことも認めてくれるようになって、今や海外のビートバトルに出るときはMookが「俺のアジア人の相棒だよ」って僕のことを紹介してくれたり。それである時MookがDiaper Goatに「ちょっとアタマ狂ってるアジア人いるから面倒みてやってよ」って僕を紹介してくれたんです(笑)。海外での活動が広がったのはやはりそこからですね。そうなってくると「日本人なのにこんなことやってんだ」みたいな反応もあったりして、興味をもってもらいやすかったり。僕にとってMookは恩人ですね。

実際に海外のプロデューサーと色々仕事してみて、海外と日本の仕事の仕方で一番の違いは “共有” の部分ですね。日本だと、なんとなく同じ仕事の人に対して嫉妬っていうか負の感情みたいなのってありがちじゃないですか。でも海外だとそんなくだらないことにこだわってなくて、ちょっとヤバいビート作ってる人がいたらもう速攻で仕事を共有するんですよね。

 
3年前は小学1年生と一緒にピアノレッスン

——曲を作るにあたって、以前ピアノのレッスンを受けているおっしゃっていましたが、鍵盤や作曲はどのように身につけたんですか?

レッスンって以前かっこいいこと言いましたけど、当時、実は小学生と一緒にピアノを習ってたんですよ(笑)。

——本当ですか?(笑)

とにかくピアノを上手くなりたかったんですけど、どこに習いに行っていいか分からなくて。とりあえず家から歩いて5分くらいのところに先生がおばあちゃんの音楽教室があったんで、そこの小学1年生のクラスに短い間でしたけど通いました。脇汗ビショビショになりながら、公開処刑みたいな感じでしたよ(笑)。

——そこから3年後には全米ビルボードで1位になるとは、その先生も思っていなかったでしょうね(笑)。

でも、そのおかげか今はスケールさえ分かれば自分が表現したいイメージ通りに勝手に手が動いてくれるまでにはなりました。その時は、できないんだからわがまま言ってられないっていうか、もうそれくらいやんなきゃっていう気持ちでしたね。

 
錚々たる楽曲提供アーティスト

——これまで国内だとShurkn PapやLunv Loyalらを迎えたご自身の作品や、Cz TIGER、¥ellow bucksへの楽曲提供もありますが、海外のアーティストだといかがでしょうか?

Lil Durk以外だと、リリースされているのはJackboy、Kiddo Marv、Fredo Bang、Young Chopですね。アンリリースで言うとQuando Rondo、Rod Wave、RJAE、OMB Peezyあたりになります。

——海外ラッパーの楽曲採用が増えたのはいつくらいからですか?

やっぱり「The Voice」以降ですね。ビートタグって本当に効果が絶大なんですよ。僕のは「trill on the keys」ですけど、このタグ聞いたことがあるから使おうみたいなのがやっぱりあるんじゃないですかね。耳にしたことがあるタグだったら曲も信頼してもらいやくなるっていうか。そういう感じで広がっていくんだと思います。だからマネージメントからも「まずは1曲ヒットを出せば広がるよ」って言われてたんで、本当にその通りなんだなと思いました。

——そして国内でも、TRILL DYNASTYさんが手がけた¥ellow bucksの「Wow Wow Wow」や「Keep Smoking」が昨年ヒットしました。

僕は「匂い」って表現してるんですけど¥ellow bucksは僕の好きな「匂い」のするラッパーなんですよね。単なる歌やラップの上手さだけじゃなくて、人としての立ちふるまいや雰囲気、バックグラウンドとかそういう部分にその「匂い」を感じるんですけど、彼はそれが全て備わっているなと感じます。

 
ちなみに僕的にその「匂い」を一番感じるのはQuando Rondoなんです。一方でRod Waveとかにはその「匂い」を感じなくて。なかなか言葉では表現できない感覚なんですけど、アーティストに対してはそういう僕なりの好みはありますね。なので曲が採用されたら誰でも嬉しいっていうわけでもないんですよ。実際、Lil Durkと作ったときも、もちろん自分のキャリアにおいては光栄ではありましたけど、嬉しさがめちゃめちゃこみ上げてきたかというとそうでもなくて。やっぱり僕の本命は今も昔もずっとQuando Rondoなんで。

 
プロデューサーとしてのスタイル、色

——ではアンリリースではありますがQuando Rondoとの曲がいま実際あるということは、これから期待が高まりますね。TRILL DYNASTYさんの楽曲のテイストは、まさにそのQuando RondoやYoungBoy Never Broke Again、OMB Peezyといったラッパーのサウンドとつながるところにあると思うのですが、曲作りではどういったものにインスピレーションを受けますか?

実のところインスピレーションを受けるもの、存在って、Mookだけなんです。Mookのビートを聴いて、Mookのライブ配信を録って、その手元の動きを見て練習して、そうやって自分なりに作ったものをMookに送って彼の感想を聞いていいじゃんって言われたら、自分でもいいビートが出来たっていう感じなんです。

自分の作るビートってジャンルでいうとジャズとR&B、ゴスペルの要素があるものだと思うんですけど、個人的に普段からそういう音楽を聴くことはありません。自分で作っているプレイリストにも基本的にQuando RondoかYoungBoyの曲しか入ってない感じです。だから自分でも自覚してますけど、音楽的な引き出しは非常に狭いと思います。かといって、広げようとも思ってなくて。僕は不器用なんで。カッコいい幅広いビートを作れるタイプじゃないっていうことは自分でもよく分かっているんです。共作する時も自分のループで作ってもらうように進めます。自分のタグが入っているのに自分の色じゃない曲になっているのは嫌なんですよね。アルバムで言ったら僕のテイストの楽曲は1曲入ってればいいのかなっていう感覚。自分はアルバムをフルプロデュースするタイプのプロデューサーではないと思っています。

——TRILL DYNASTYさんの場合、曲作りのモチベーションはどういったことになりますか?

自分のエゴ、色を表現できるのが曲作りだから、ということでしょうか。唯一自由に自己満足できる行為というか。あと最近はプロデューサーのポジションを高めたいっていう気持ちもあったりします。

 
「Quando Rondoとの曲でグラミーをとりたい」

——そしてその色が時間が経つにつれてさらに濃くなっているということですね。今や海外の第一線にいると言っても過言ではないと思うのですが、TRILL DYNASTYさんから今の国内のシーンについて何か感じることはありますか?

ヒップホップが浸透して人気のある音楽になってきているのはすごくいいことだと思う一方で、¥ellow bucksやLunv Loyalのようなさっき言った「匂い」を感じるかっこいいラッパーが国内でももっと増えたらいいなと個人的には思いますね。やっぱりかっこいいラッパーとかっこいいプロデューサーが作り上げた曲自体からヤバい景色が見えてこそのヒップホップだと僕は思ってるんで。上辺だけのかっこよさで完結するようなものはヒップホップじゃないと思いますし。

——今回の出来事は国内のシーンにも刺激となりそうです。そういえば先ほどから猫の可愛い鳴き声が聞こえますが、受賞盾の投稿にも愛猫たちのアカウントがタグ付けされてましたね。

この子たちは家の前の駐車場に捨てられていたのを拾って育ててるんですけど、彼女たちが家に来てからビルボードで1位になったり、Quandoと曲が作れたんで、多分自分じゃなくて彼女たちが何か“持ってる”んだと思ってます。彼女たちのおかげです(笑)。

——今日はお忙しい中ありがとうございました。最後に今後の目標を教えてください。

もちろんグラミーです。しかもQuandoとの曲でグラミーをとりたいですね。今回のビルボード1位はまだスタートラインでしかないと思っているので、その目標が達成できるように今後も頑張ります。

 

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