山二つ ― フリーフォームで新たなバンドの在り方を示す4人組インディー・フォーク(今月のおすすめ)

2023.6.30

【特集】おすすめバンド


山二つ

山二つ

今回ご紹介するのは、2020年冬に結成されたバンド・山二つ。2021年6月27日、4曲入りの初音源をCD-Rおよびbandcampでリリース。2023年6月23日には、初のサブスク配信楽曲となるシングル「何もない場所」を、台風クラブや家主らを擁し、良質なメロディと言葉を全国に発信し続けるレーベル・NEWFOLKから発表しました。はっぴいえんどから連綿と続いてきた日本語フォーク・ロックの遺伝子を受け継ぎながら、ゆうらん船やGateballersといった、現行のインディー・シーンとも共鳴する人懐っこい歌心を感じさせる彼らの楽曲は、リスナーの間でにわかに注目を集めています。


山二つ「何もない場所」

山二つ「何もない場所」

 
山二つのメンバーは河合宏知、坂藤加菜、鈴木健太、高良真剣の4人。それぞれ、別バンドやサポート、ソロ活動のほか、デザインや演劇、映像、ダンスなど、多岐に渡る表現活動のキャリアを持ちます。その編成は流動的で、カッコ書きで担当パートを併記するのが困難なほど。基本的には河合、鈴木、高良という3人のソングライターがそれぞれ自作曲でボーカルを務めつつ、他のメンバーはドラム、ギター、コントラバス、マンドリン、鍵盤ハーモニカなどの楽器をかわるがわる演奏。アンプラグドな音色への愛着を覗かせながら、それぞれの自由な感性を重ね合わせることで、彼らならではの音世界を描きます。

その独特の佇まいが最も端的に表れているのが、2021年8月に三鷹・SCOOLにて行われた配信ライブ『お留守番』における「何もない場所」のパフォーマンス映像でしょう。親密なアンサンブルに突き動かされるようにコンテンポラリーなダンスを披露したかと思えば、楽曲中盤では鍵盤ハーモニカを手にしソロ演奏を披露する坂藤。その熱に当てられるように、少しずつ、しかし確かに感情をあらわにしていくメンバーたち。彼らの姿からは、まるで我々が未だ持ち得ない、聴覚以外で音楽を受容し発露するための、新たな感覚器官が備わっているかのような印象を受けました。

 
SCOOLのほか、高良が運営する横須賀の”オルタナティブ古民家”こと飯島商店や、尾山台のピアノアトリエ・Flussなど、ライブハウスとは一味違うべニューで、演劇やコントとのクロスオーバーを含む個性的な演奏活動を行う山二つ。その活動スタイルは、より自然な姿で表現を持続させる、新たな時代のバンドの在り方を予感させます。現在は、昨年の6月からレコーディングを開始したという1stアルバムを制作中。来るべき新作と今後のライブ活動を通して、さらなる音楽の悦びをリスナーに伝えてくれることでしょう。

 
(文・サイトウマサヒロ)

 
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