【このリリースがすごい!】vぃv天使『vぃv天使の日記』 | すべてが繋がる世界で、どこにもいられないポスト・インターネットロック
音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、vぃv天使のアルバム『vぃv天使の日記』を紹介。
ベランダに干した折り畳み傘をカバンに詰め直し忘れたから、小雨に濡れながら帰路に就いていた。充電が死にかけのヘッドホンの、しきりに延命処置を促す声を無視して、途切れ途切れのノイズとメロディに耳を傾けている。それが『vぃv天使の日記』とのファーストコンタクトだった。このアルバムが、行儀良く起承転結をなぞる物語というより、すべての瞬間が最後のページになる可能性を孕んだ日々の堆積である以上は、今に途絶えてしまうかもしれないその聴取環境こそが、正しい鑑賞体験をもたらせてくれたような気もする。
vぃv天使は、「いきたゆず。」名義や「放課後のあの子」としてのバンド活動を経て始動したikitayuzu.によるソロプロジェクトで、今作が1stアルバムかつ初のサブスク配信音源となる。ストレートなバンドアレンジの美しく暴力的なピアノロック「あの夏に」を皮切りに、シューゲイズからインダストリアルやハイパーポップなど、音楽性は多彩、というか無軌道。しかし粗いノイズをまぶし、あえて解像度を下げてジャンルの輪郭を取っ払うことで、奇妙な統一感の獲得に成功している。
多領域を横断するフットワークの軽さはサブスク時代の恩恵と言えるかもしれないが、同時に帰る場所を持たないものが彷徨う姿にも見える。インターネットが我々に授けたものは、尊く深い人と人との繋がりというよりもむしろ、世界の果てまで見晴らせるからこそ逃げ場なんてどこにもないことがハッキリわかるという、完膚なきまでの絶望だ。自分だけが特別だと思い込ませてくれるような隙が、ここには一切ない。ぎこちないリズムと不規則な異音がエモーショナルなコーラスに発展する「構造を撃て!!」で、ikitayuzu.の歌声はキツいエフェクトをかけられて生々しさや固有性を奪われているが、だからこそその叫びは痛切に響く。
世界の中に僕の居場所がないのなら、せめて君の中にだけは。音、言葉、絵、映像、すべてを自らで手がけるikitayuzu.は、たくさんのあなたに向けて発信する。もはやインターネットに希望を持てない僕たちが、インターネットのすべてを使って自らを取り戻す。ikitayuzu.が本作について語る「ポスト・インターネットロックをやろうという意識」という言葉にも深く頷ける一作だ。
