Mori Zentaro (Soulflex) インタビュー 「突き詰めると “サウンドしてる” かどうかが大事」

2019.8.28

大阪を拠点に活動するアーティスト・コレクティヴ「Soulflex」に所属するビートメイカー/コンポーザー Mori Zentaro。自ら「根っからの音楽オタク」と語る通り膨大な音楽をインプットしながら、独自のセンスと解釈で、緻密かつ聴くものをナチュラルに魅了するサウンドを構築。自身の作品やSoulflexの他、SIRUPをはじめ幅広いアーティストへ楽曲を提供、ミュージシャンからも厚い信頼を得ている。


【IYOW 】 Mori Zentaro  「突き詰めると"サウンドしてる"かどうかが大事」

About : Mori Zentaro

Beat maker、Composer。

1987年、高知県高知市出身。

R&B、Hiphopを中心に幅広いアーティストへの楽曲提供を行う。また、自身名義での作品ではElectronicaやAlternative rockなどの要素も取り入れたよりジャンルレスな作風を展開している。

2010年に大阪で結成されたアーティスト・コレクティヴ「Soulflex」所属。

 
——キャリアスタートのきっかけ

10代の頃はロック系のバンドでGt/Voとして活動していましたが、20代のはじめにそのバンドが解散になり、ちょうどその頃購入したAbleton Liveを使って作ったデモを持っていろいろなところへ出歩いているうちに、現在活動を共にしているSoulflexの面々と出会い、自然とビートメイカーとしての道が開けていきました。

 
——ターニングポイント

20代中頃まではまだビートメイカーという自覚があまりなく、どちらかというとDAWに関しては、デモを作っているくらいの感覚でした。

並行して、仲間のライブでキーボードを弾いたり、自分で歌う作品を作ってみたりと色んな可能性を試しつつも、どれもパッとせず悩んでいたんですが、ビートメイクのスキルだけは常に右肩上がりで上昇しているように感じたので、2017年に腕試しのつもりでOtai Recordさん主催のBeat Grandprixに参加しました。

結果として優勝まではいけなかったのですが、そこで自分の中でカチッとはまった感覚があり、以降ははっきりとビートメイカーとして振る舞うようになりました。

 
——最新作

Soulflex – Free Ya Mind

 
——キャリア当初の制作環境

PC : MacBook

DAW : Ableton Live (7だったと思います)

キーボード : Roland Juno-D (だったと思います)

主に自宅で制作していました。

 
——現在の制作環境

現在もAbleton Liveで、PCはデスクトップがメインになりました。

あと強いて言うなら、制作する時は、音楽以外のことでなるべくストレスを感じずに、リラックスした状態で作業したいので、部屋着のままやることが多いです(夏ならばタンクトップに短パンとかです)。


【IYOW 】 Mori Zentaro  「突き詰めると"サウンドしてる"かどうかが大事」

 
——メインの機材

PC : iMac / MacBook Pro

DAW : Ableton Live 10.1 suite

キーボード : KORG SV-1

ギター : Fender The Player Stratocaster

 
——モニター環境

ヘッドフォン : audio-technica ATH-M50x

スピーカー : PreSonus Eris E4.5

 
——使用音源

NI Komplete 11 Ultimate

Ableton Live 10.1 suite 付属のソフトシンセ類

Key類やSynth類、サンプラーなど、主な音源はAbleton Live付属のものを使っています。

ストリングスや、生ドラムの音源などはKompleteから使用することが多いです。

 
——使用プラグイン

プラグインはほぼ、Ableton Live付属のもので完結しています。

ビートメイカーとしてあまり褒められたものではないかもしれませんが、プラグインや音源を買い集めることに今のところあんまり興味がありません。

ビートメイクにおいて自分の最大の関心ごとが「曲の構造を組む」というところにあって、ハーモニーやビートそのものの構築に一番重きを置いているので、プラグイン類に関しては「そこにあるものを使ってなにをするか?」という感覚で向き合っているんだと思います。

けど今後はプラグイン類もディグっていけたらなとは思っています。

 
——ビートメイクのプロセス

根っからの音楽オタクなので日頃からあらゆる音楽にアンテナを張っているんですが、そんな中で、「自分もこんな曲作りたい!!」とか、「この曲どうなってんの!!??」と感じることがまず大きな初期衝動としてあります。

そこから実際の作業に入る前に、今自分はどんな曲を作りたいのかをじっくり考えます。いつもではないですが、曲の中に取り込みたい要素を書き出して、チャート化したりすることもあります。

実際の作業に関しては、最初のとっかかりとしてコード進行を組むことから入る場合が多いですが、最近は基本のビートパターンをまず組んでからという場合も増えてきました。

コードなり、ビートなりで基本的なパターンが組めたら、大まかな曲のサイズを作ります。

その上で、ここはビートを抜いてとか、フィルを足してとか、コードを変えてとかといった詳細なアレンジを進めていきます。

この段階のアレンジ作業はただただ楽しくて、寝食を忘れてしまうこともしばしばです。

勉強も兼ねたいので、他のアーティストの曲を聴いたり、YouTubeでチュートリアルを観たり、解説ブログを読んだりしつつ、ああでもないこうでもないと工夫を凝らしながら、少しずつ曲に磨きをかけていきます。

ある程度サウンドが固まってきたら一旦2mixで書き出して、自分で聴いて飽きがこないかどうかチェックします。

自分の場合は人に提供することが多いので、その時点で問題ないと感じたら、提供相手に投げます。

その後、何度か相手のフィードバックを反映するなどして、ひとまず完成という感じです。

 
——ビートメイクポリシー

仲間内のミュージシャンたちが、いい曲やいい演奏を聴いたりした時によく口にする「サウンドしてる」というフレーズが大好きで、突き詰めると大事なのはそこだけなのかなと思っています。

つまり、音楽として自然なものか?わざとらしいものじゃないか?整合性が取れているか?綻びがないか?ということだと思うんですが、その基準さえクリアできていれば、理論や技術は必要ないと思っています。

なので、その判断力をより確かなものにするためにも、常に能動的に音楽を聴くことを意識しています。

長く音楽を愛好していると、気づかないうちに惰性で聴いてしまってることがあると思うんですが、やはりいちいち感動して、そういった経験を自分の中に蓄積していくことが大事だと思うので。

かと言って、理論や技術を疎かにしていいとも全く思っていないので、そういった類の専門書を読んだりすることや、具体的なスキルアップのための工夫も、常に心がけています。

あと先の答えにもありますが、人にデモを聴かせる前に、自分で少なくとも100回ほど聴いて飽きないかどうかというテストは必ずやっています。

 
——最も影響を受けたプロデューサー/ビートメイカー

個人ではないんですが、Soulquariansです。

J Dilla、D’angelo、Questloveなどを中心に構成されたアーティスト・コレクティヴで、それぞれがレジェンド級のスキルを持った人たちの集まりですが、何よりも音楽に対する貪欲でフレッシュな姿勢を見習いたいと、いつも思っています。

彼らが2000年前後に手がけた作品群は、本当に自分にとって最高の教科書です。

 
——影響を受けた楽曲

自分個人としてだと多岐に渡りすぎるので、ビートメイカーとして、という観点でお答えさせていただきます。

 
Common – A Film Called (Pimp)

収録されているアルバムの中では割と地味めなポジションですが、なにげに先述のSoulquariansの叡智が集約されたような一曲だと思います。
シンプルな中に、色々な音楽的要素がドロドロに溶け合ってる感じにはなんともいえない迫力がありますし、シアトリカルなラップの掛け合いもものすごくかっこいいです。

 
Erykah Badu – Didn’t Cha Know

これもSoulquarians期にJ Dillaが手掛けた楽曲ですが、よりサンプリングオリエンテッドな作りの一曲です。
心地良いループがひたすら繰り返されながら、そこにパーカッションなどの生演奏が絡んでくる感じなどは、自分のプロダクションにかなり直接的に影響が出ていると思います。

 
D’angelo – Feel Like Makin’ Love

またまたSoulquariansの一曲で、こちらはソウルのスタンダードナンバーのカバーですが、ベースがSly & The Family Stone風だったりと、ごく自然にヒップホップ世代の解釈という感じで成り立っているのがすごくかっこいいです。
枯れたような味わいがありますが、情緒が溢れてて泣けます。

 
Moodymann – Black Mahogani

Soulquariansとは多少ベクトルが異なると思いますが、同じようにサウンドの中に歴史やDNAが脈打ちまくっている一曲だと思います。
この人のトラックで聴ける、ラフなクラップやドラムの鳴り、音色の組み合わせの妙にはすごく影響を受けました。

 
Raekwon – Ice Cream

自分のデフォルトなビートメイクの発想は、基本的にはヒップホップのマナーに沿ったものだと思います。
音楽でも、他の何かでもシンプルなものがとにかく好きなので、ヒップホップの1ループだけで有無を言わさない感じが性に合うんだと思います。
中でも、この一曲はサンプリングでしか有り得ないような独特なサウンドが破壊的にカッコよく、基本たった1小節のループだけなのにずっと聴いていたいと思ってしまいます。
ループものの一つの理想型のようなトラックだと思います。

 
Burial – Archangel

もともとブリストルサウンドなどの、UK産のダンスミュージックが好きだったこともあり、ダブステップは割と黎明期から追いかけていたんですが、そこに現れたBurialやJames Blakeのビート感には当時、相当衝撃を受けました。
自分はR&BやSoul系の声ネタをよく使いますが、この曲でのRay Jのアカペラの、原曲からは想像もつかないような使われ方にはかなり影響を受けたと思います。

 
Squarepusher – Iambic 9 Poetry

Soulquarians的なプロダクションとはまた違った文脈で、生演奏と、ビートメイク的なアプローチが素晴らしい形で結びついた一曲だと思います。
テーマを延々と繰り返しながら徐々にエントロピーが膨れ上がっていくような作りがすごいです。

 
Mac Miller – Matches (feat. Ab-Soul)

2010年以降に、TDEやOdd Futre、A$AP Mobなどが徐々に頭角を現し始めた時のワクワク感は忘れ難いです。
作り手が自分と同じか近い世代ということもあってか、音楽的に自分と似た背景があるのを感じたし、音楽の流れが新しいフェーズに入った感触がありました。
中でもMac Millerの、この曲が収録されたアルバム『Watching Movies with the Sound Off』は、すごくヒップホップなのに、オルタナティブロックを聴いてるような気にさせられるその佇まいが非常にツボでした。
その後も、Macのシーンでの奔放な振る舞いにはすごく刺激を受けていただけに、2018年の突然の訃報は本当に悲しかったです。

 
Jamila Woods – Holy

近年で自分の中で最もインパクトを感じたムーブメントの一つに、Chance The Rapperの大活躍をはじめとしたシカゴシーンの台頭があります。
現地の伝統的なスタイルであるGospelやHouse、Jukeなどの流れを取り入れつつ、更にその先を描いたようなサウンドや、ミックステープを主軸とした活動方式などには、僕だけでなくSoulflexとしても強く影響を受けました。
もちろんChanceの作品も大好きですし、SabaやSmino、Nonameなども捨て難いですが、Jamilaのこの一曲は格別です。

 
Flume – Levitate (feat. Reo Cragun)

これは単純に直近でチェックした作品の中でグッときたものです。
2015〜2017年くらいの間に、FlumeやCashmere Cat、Hudson Mohawkeなどが発表した一連の作品群は、自分にはかなり脱構築的というか、斬新な響きに聴こえてインパクトがありました。
Flumeのこの新作はその境地から更に歩みを進めたような印象があり、唸らされました。
重心低めながら、しっかり間が活かされてる感じが好きです。

 
——My favorite works / 自分の作品からのお気に入り

Soulflex – Free Ya Mind

自分が所属しているアーティスト・コレクティヴ「Soulflex」の最新曲です。Soulflexとしても自分個人としても、エッセンスが凝縮された1曲に仕上がったと思います。

 
Soulflex – Addiction

自分が手がけた曲の中でもアップ系のものでは1番気に入ってるかもしれません。ボーカル陣のリレーがとにかくかっこいいです。

 
Soulflex – 24

自分の中で2010年代以降のTrapやAmbientを取り入れたHiphop〜R&Bの流れからの影響は大きくて、それをちゃんと形にしたいと思って作った1曲です。

 
Soulflex 「Integral」

昨年(2018年)に他界したMac Millerに捧げた1曲です。彼には音楽的に非常にシンパシーを感じていたので、訃報を聞いて、すぐ何かやりたいと思って作りました。

 
eill – FUTURE WAVE-Mori Zentaro (Remix)-

Remixですが、タイトルに「Future」とあったので、そこからイメージを膨らませて作った1曲です。結果、自分でも思ってもみなかったような曲に仕上がって面白かったです。

 
Mori Zentaro – Undone

2017年のBeat Grandprixにエントリーするために作った一曲です。その時自分にできることを全て注ぎ込もうと思って作ったので、なかなか情報量が多い作品ですが、気に入っています。

 
SIRUP – SWIM

SIRUPとはSoulflexとしても活動を共にしていて、いろんな局面を共有してきましたが、この曲をリリースした時の感触は特別なものがありました。
自分たちが長らく取り組んできたことと、時代の雰囲気がカチッとかみ合ったような感覚がありました。

 
ZIN – Ghost

こちらもSoulflexの仲間であるZINの楽曲です。この曲はもちろんトラックもいいんですが、バンドによるライブがすごくカッコいいのでぜひ観ていただきたいです。
自分が関わった曲がライブで育っていくのを見るのは最高の気分です。

 
JYONGRI – Purple Cloud

この曲は、ZINとの共同プロデュースという形で取り組んだ作品なんですが、前述のSoulflex「24」と同じ時期に制作したもので、同曲と同じく、この頃は積極的にTrap〜Alternative R&Bなどからの影響を消化しようと試みていました。

 
——Message

めっちゃ告知になってしまいますが、自分が所属しているアーティスト・コレクティヴ「Soulflex」の新EP『Collected 1』が先日リリースされました。

昨年、毎月新曲を配信する企画をやったんですが、そこからセレクトした楽曲のリマスタリングバージョンと新曲2曲をまとめた内容です。

Soulflex – 『Collected 1』

M5を除く全曲でプロデュースを担当しています。

僕のビートももちろんですが、Soulflexのサウンドをぜひ楽しんでいただきたいです。

 

Mori Zentaro
Twitter
Instagram
Bandcamp
SoundCloud

Soulflex
Tumblr
Twitter
Instagram
Facebook
YouTube
SoundCloud
TuneCore Japan


【IYOW 】 Mori Zentaro (Soulflex) 「突き詰めると "サウンドしてる" かどうかが大事」

この記事の執筆者

THE MAGAZINE

国内のインディペンデントアーティストをメインに新たな音楽ムーブメントを紹介するウェブメディア