インディペンデントアーティストを支えるスタッフが語る実践的なSNS運用法

2021.2.23

音楽ストリーミングサービス、いわゆるサブスクの普及と音楽デジタルディストリビューションサービスの出現により、誰でも自分の曲を好きなタイミングでリリースすることができるようになりました。ただ、単にリリースしただけでは多くの人に曲を聴いてもらうことは中々難しいのが実情です。そこを補うプロモーションやマーケティングに活用できるのが、個人でも利用できるSNSをはじめとしたITサービスです。昨今ではそういったサービスの使い方次第でインディペンデントアーティストでも十分にヒットにつながる可能性が増えてきました。

とはいえ、インディペンデントアーティストやインディペンデントアーティストを支えるスタッフ、チームはどうしても時間やリソースが限られているため、全てのSNSを細かく運用するのは実際には大変かと思われます。

そこで今回は、インディペンデントアーティストを日々支えているスタッフの方が実際にどのようにSNSの運用を行っているのかについて、Creepy NutsやSUSHIBOYSをはじめ様々な注目アーティストを輩出してきたスティールストリート/Trigger RecordsのKoichi Satoさんに実践的、実用的なSNSの活用法について寄稿していただきました。SNSの運用にアタマを悩ませているインディペンデントアーティスト、スタッフのみなさんは参考にしてみてはいかがでしょうか。


 
Text : Koichi Sato(Steel Street/Trigger Records

Profile :
現在は主にSUSHIBOYSのエージェント業務(LIVE制作、PR、出版)、XY GENEのマネジメント&レーベル、oozashのマネジメント&レーベル、Minchanbaby & RhymeTubeコラボ企画のリリースなど、その他多くのインディペンデントアーティストのエージェント業務を手がける。
 
担当アーティスト :
DJ Ryow a.k.a. Smooth Current / HF International / MIDICRONICA / A.O. / CARREC / ChibiChael / DJ KRUTCH / 熊井吾郎 / / KING 3LDK / KO-ney / MIDICRONICA 181 / ROKA / SUKISHA(Lo-Fi作品のみ) / Takayuki Hashiguchi / The LASTTRAK

 
今回はインディペンデントアーティストをサポートするスタッフとしてのSNS活用について、実際に普段からどういったことを意識して運用しているかについて説明させていただきます。

具体的な説明の前にSNSの運用で触れておきたいことがあります。

それは、

SNSはやった方が良いが、無理してはやらない。最低限やることをだけは決めておく。

ということです。

SNSは色々なサービスがあり、使い方も幅広く、インディペンデントアーティストにとって重要なツールです。ですが、向き合う時間が必要以上に長いと、その分メンタルや制作進行に影響が出ることもあるので、得意なことや最低限の活用など、SNSでは何をやるべきで何をやるべきでないかを取捨選択することが大切です。

例えば、UGCが重要と言われてる昨今、TikTokやInstagramのリールなどにおいてUGC発生を訴求することができればアーティストの周知にはつながるでしょうが、音楽制作にまで負担がかかるような無理はやはりよくないでしょう。あくまでそういったところへのアプローチに適した作品が出来た時に試してみるもののひとつに過ぎない、と考えるのもありかと思います。逆にTikTokやリールでのパフォーマンスがもし得意なアーティストであれば、そこからどう作品につなげるかを考えるのもありでしょう。

こういったことを踏まえた上で、自分の場合の具体的なSNS活用について書かせていただきます。

 
SNS導線の整理

まず最初に、アーティストにとってどのSNSが相性が良いのか、そして、どこに集約することを目的とするのかを考えます。集約すること自体が目的ではなく、あくまでアーティストのファンベース構築が目的です。それを実現するための集約であり、そこから曲を聴いてもらい、より応援してもらうためにどうすればよいかに取り組みます。今回はその目的を果たす上でのSNS活用に重点を置いて説明します。

 
集約する場所はYouTube Channel

集約、導線の整理において、「何をどこからどこへ集約」すればよいのでしょうか。

なんといっても、現在アーティストを知ってもらい広めるツールとして重要なのがYouTubeです。ミュージックビデオ、Vlog、ダンス動画、演奏、LIVE動画、生配信、さらには有料メンバーシップとファンクラブ的な機能まであり、多岐に渡るメリットを鑑みるとYouTube Channelの登録者数を増やすことは非常に有用です。

そのYouTube Channelの登録者数を増やすためにも、そこへのSNSからの導線を整えましょう。各SNSのプロフィールにおいて、YouTube Channelへの導線を整理します。

例)


インディペンデントアーティストを支えるスタッフが語る実践的なSNS活用法

https://twitter.com/0501gene
https://www.instagram.com/gene____01/

 
SNSのプロフィール欄ではリンクできるURLの数が限られているので、LinktreesmartURLlit.linkなどのリンクまとめサービスを活用し、URLを整理します。TwitterやInstagramでは、そういったサービスでまとめたリンクを貼るか、あるいはYouTube ChannelのURLを直接貼るのが良いと思います。

なお、リンクまとめサービスを使用する場合は、優先度を考えてリンクを並べる順番を決めましょう。また、MVなどそのリンクは常に最新の作品のものに更新することを心がけます。YouTubeで再生リストを整理しておき、動画のリンク先をそこにしておくと更新する手間が省けて便利ですね。

https://smarturl.it/XY_GENE

 
また、リンク先のYouTube Channelの概要欄の整理も忘れずに。そこで改めて他のSNSへの導線も作るようにします。


インディペンデントアーティストを支えるスタッフが語る実践的なSNS運用法

可能であれば、プロフィールはマルチランゲージで記載しましょう。日本語に加え、少なくとも英語での併記もします。潜在的なユーザー、リスナー、ファンはグローバルに存在します。

 
各SNSの運用で気をつけていること

導線の整理の次に、各SNSの運用において普段気を付けている具体的な部分を説明します。

 
Twitter

Twitterのタイムラインは早めに流れていくので、同じ告知でも複数回告知できるような工夫をしています。

ポストするときは、画像や動画と一緒にポストする方が、リンクのみのポストに比べるとインプレッション(見られる数)が高くなるようです。

 
動画と共にポスト




 
URLのみポスト



 
RTの違いもありますが、RTされるにはそもそも多くの人に見られるように工夫する必要があります。単純に映像が付いてた方が目につきやすいでしょうし、また、SNS内から外部に誘導しようとする行為を若干インプレッションが低くなるよう制御するSNS全般の仕様を考慮しても、MVやリリースの告知の時はリンクだけではなく画像や映像を付けてポストする方がおすすめです。余談ですが、呂布カルマさんがグラビアと共によくポストしているのは非常に有効な手段だなと思います。

また、告知の場合は似たようなポストが多くならないよう、その都度新鮮な切り口にするよう意識しています。

【リリース告知の場合】
1. リリース直前やリリース情報が解禁されたタイミング
2. 曲への思い入れなどコメントと共に
3. インタビューやニュース情報と共に
4. MVやティーザーなど映像と共に
5. 歌詞とリンクするシーン、風景などが身の回りにあった時に

など、同じ曲の紹介でも多様な表現をつかって、聴いてもらう機会を増やせるように心がける。

【ライブ告知の場合】
1. フライヤーとイベント内容
2. 意気込みなどと一緒にライブ告知
3. 本番日より前にリハーサルスタジオなどでリハがあれば、リハの模様とイベント告知
4. 当日再度、イベントフライヤーなどで告知
5. 当日、リハのタイミングでリハーサルの模様と一緒に告知
6. ライブ後の写真、共演者やライブ中の写真
7. ライブ写真やセットリストとともにプレイリストを紹介

これらはInstagramにも応用できますが、可能な場合は、各SNSにおいてもなるべく同じ内容にならないように心がけています。

 
 
Instagram

まず、1万フォロワーないしはオフィシャル化を目指します。理由はストーリー機能で外部リンクへの誘導が出来るなど、コールトゥアクションが可能になるためです。

SNSは告知ばかりになってしまいがちなので、特にInstagramではMVのオフショットやアー写の別カットなど、本来、表に出さないアーティストの写真などをアップできると、ファンや気になってる方も見たいと思いフォローしてくれると考えています。

さらに、告知時のハッシュタグの利用、タグ付け、リプライを通して自身のフォロワー以外へのリーチを増やし、フォロワーにはストーリーにシェアを促すことで、より多くの方に知ってもらう機会を増やします。また、質問やアンケートなどの機能を使ってファンと交流することもできますし、インスタライブはライブイベントやレコーディング、MV撮影などの時に実際の現場を簡易的に伝えるツールとして活用しています。

 
 
YouTube

動画のディスクリプション(詳細欄)の3行以内にリンクを貼るようにしています。PCでYouTubeを視聴すると詳細欄の下部は折りたたまれてしまうので、楽曲の再生リンク/LinkCoreなど最もクリックして欲しいURLは必ず詳細欄の上から3行以内に記載するようにしています。また、固定コメントには歌詞とLinkCoreを必ず貼ります。さらに、プレミア公開を使う時にはアーティストがチャットに登場するなど、リアルタイムで同時に見ているといったファンとのエンゲージメントを高める演出も欠かせません。

チャンネルページ自体の充実も行います。プロフィールやアイコン、バナー画像を設定しましょう。


インディペンデントアーティストを支えるスタッフが語る実践的なSNS活用法

https://www.youtube.com/c/XYGENE

 
チャンネルの公式化もチャレンジしましょう。

 
YouTubeは他のSNSよりも利用方法などが多く、情報も沢山出ています。自分の場合も、「YouTubeの再生回数を稼ぐコツ」のような情報で役に立ちそうなものには目を通してみて、さらにその上で、アーティスト活動のサポートに応用可能であれば取り入れるようにしています。

 
 
TikTok

自分の曲を使った動画に”いいね”するようにします。さらに良い動画は他のSNSでシェアをすることでUGCを促します。自分のアカウントで自分の曲を使った自身の投稿でUGCを訴求するのもよいでしょう。

 
 
Facebook

オフィシャルページを必ず作成し、インスタグラムと連携させます。また、オフィシャルページに掲載する情報を必ず充実させます(日本語だけでなく少なくとも英語の併記も)。海外も視野に入れて活動をしている場合、Facebookが窓口になることがあります。

 
 
エゴサーチ

エゴサーチによって、自分の作品についてのコメントや使用状況等が分かりますよね。特に自分のフォロワー数がまだ少ないアーティストさんは、いいね、RT、引用RTでお礼などのアクションができるなら、可能な限り行いましょう。フォロワーとして、自身を応援してくれるファンとして、今後支えてくれる存在になるかもしれません。

ただし、エゴサーチは諸刃の剣でもあり、当然ネガティブな情報も目に入ってくる可能性が大いにあるため、アーティストは自身のアカウントではなく、スタッフ等が行うのもありだと思います。アーティストによってはポジティブでもネガテイブでも、エゴサーチから得られる情報を糧に制作を進めたり、作品につなげることができる人もいるかもしれませんが、 アーティストや担当者も含め、エゴサーチの扱いが向いていないと思ったら即座に止めてもかまわないと感じます。メンタルへの影響を考えると、耐性の無い人が無理にエゴサーチをする必要はなく、そこに神経や時間を割くよりも良い作品を作ることに集中した方が結果につながると思います。

 
 
その他

色々とSNSについて常日頃から気を付けていることを説明しましたが、自分自身やアーティストさん自身が、普段気になるアーティストを見つけたときに実際どんな行動をとっているか、どのような導線になっていれば嬉しいか、ということをよく考えた上で自分のSNSなどを見直してみると、無理のない適切な改善点が分かってくると思います。

 
 
まとめ

最初にも書きましたが、

SNSはやった方が良いが、無理してはやらない。最低限やることをだけは決めておく。

に尽きます。

大きな企業や大きなプロダクションに所属してるアーティストはSNS専門のスタッフがいたりするので、頻繁な更新をはじめ細かなところまで網羅することもできるかもしれませんが、インディペンデントアーティストや自分のような場合は必然的に少ないスタッフ、リソースの中でやりくりしなければならないため、他の業務との兼ね合いも含め、得意な分野に注力することをおすすめします。

その昔、CDで採算を考えていた頃は初回出荷枚数次第で、その作品がリクープするのかしないのか、ほぼ分かってしまう状況でした。ですが、現在はストリーミングサービスが浸透してきたお陰で、初動だけでなく(もちろん今でも初動は重要ですが)、コツコツ続けていくことがファンベースの積み上げにつながる状況になってきたので、何回かやって上手くいかなかったとしても諦めずに良い作品作りに取り組み続ける事が、最終的には大きな結果につながると考えています。


 

Trigger Records
http://trigger-records.com/

この記事の執筆者

Koichi Sato

(株)Steel Street/Trigger Records Mg A&R

https://twitter.com/fudo298