【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

2021.10.15


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

シンガーソングライター / 油彩画家 / 通訳・翻訳家のRie fuが、アーティスト自身の目線でアーティスト活動に役立つ英語コミュニケーションについて解説・紹介する連載『アーティストのための英語コミュニケーション – English Communication for Artists』。

連載第3回目となる今回のテーマは、コミュニケーションに欠かせない英文メールの書き方です。音楽業界に特化した視点で、メールを送る際のマナーや定型文などを紹介します。

Rie fu
2004年、デビューと同時にロンドンのセントラル・セント・マーチン芸術大学で絵画を学び、アートと音楽を繋げる活動を続けている。日本国内だけでなく、アジアツアー開催など活動の拠点を広げ、2016年からはイギリスでの音楽活動をスタート。2018年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン大学院にてSpecialized Translation(専門分野翻訳)MSc修士号を取得。「音楽、アート、英語教育」をテーマに、アメリカ、シンガポール、イギリスに住んできた海外経験や、自らの音楽体験を織り交ぜた唯一無二の活動を展開。
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【連載】アーティストのための英語コミュニケーション – English Communication for Artists Vol.3


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

メールを送る目的は?
はじめに、英文メールを送る目的が何かを考えてみましょう。音楽業界の場合、大きく分けて二種類に分かれます。一つはビジネス方面。音楽メディア、プロモーター、レーベル、マネジメント、出版社、ミュージック・スーパーバイザー(映画、ドラマ、広告などの音楽監督)などに自分の楽曲を売り込みたい場合です。そしてもう一つは、アーティスト関係。ほかのアーティストやビートメイカーなどにコラボを持ちかけたり、プロデューサーに楽曲プロデュースを依頼したい場合です。

ビジネス方面とアーティスト関係では、メールの内容もトーンも変わってきます。それは、『相手が求めているもの』が大きく異なるからです。音楽に限らず、海外のビジネスのコミュニケーションの駆け引きでは、WIIFM=What’s In It For Me?(自分にどんなメリットがあるか)がキーワードになります。メールする相手にとって、メリットがありそうだと思わせる書き方を工夫してみましょう。ライブプロモーターだったら、イベントにとってどんなメリットになる出演者か。マネジメントだったら、どんな利益をもたらしてくれるアーティストか。そんなことを踏まえて、読み手にとって魅力的なメールを書いてみましょう。

ただ、アーティストやプロデューサーとなると価値観が少し違うかもしれません。必ずしも『利益』や『メリット』先行で考えず、『面白そうなアーティスト』や『知名度は低くても曲が気に入ったから』などの理由でレスポンスをくれることもあるでしょう。

 
 


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

事前にリサーチしよう
ビジネス方面でもアーティスト関係でも、初めてメールを出す場合は事前に必ず相手について徹底的にリサーチしましょう。検索すればすぐに情報が出てくる今の時代、Wikipediaに掲載されている程度の情報より、相手がアーティストの場合、『〇〇年に〇〇名義でシークレットゲストとして参加されたライブ会場限定アルバムも持っています』など、マニアックネタであればあるほど良いでしょう。

これらの理由から、自分の楽曲を売り込みたい場合、手当たり次第BCCで営業メールを送ることはオススメしません。『数打てば当たる』のではなく、自分に合った相手を厳選することが、アーティストとしての自己ブランディングのカギとなるからです。

ちなみに海外のレーベルの場合、外部からのデモテープを受け付けていないことも多いです。これには実は法的な理由があり、送られてきたデモテープと偶然似ている曲が同レーベルからリリースされた場合、『曲のアイデアを盗用された』と訴えられるのを防ぐための方針の可能性もあります。

ライブをブッキングしたい、音楽メディアに楽曲を売り込みたい、など目的が決まったら、具体的に担当者、いわゆるgatekeeperが誰かを調べてみましょう。団体名ではなく個人名にメールを宛てることで、よりパーソナルな印象を与えられます。さらに、相手の実績や作品などを調べ、『あなたのイベントのこういったところにひかれてご連絡しました』『あなたの音楽メディアのこの記事に感動しました』など、一斉メールではなくピンポイントにアプローチしていることをアピールしましょう。相手がアーティストやプロデューサーの場合は、曲名や具体的にサウンドのどの部分にひかれたのか、『こんなに聴き込んでくれてるんだ!』と感心するような内容だとさらに喜ばれるでしょう。

 
 


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

音楽業界メール、5つのルール
リサーチができたら、さっそくメールを書いてみましょう。次の5つのポイントを心がけると、読みやすくて好印象のメールになります。良いレスポンスが来る確率も上がるかもしれません。

 
1.分かりやすい表題をつける
本文の前に、まずは表題が重要です。限られた文字数の中で、最も大切な情報を詰め込みましょう。基本ルールは、アーティスト/バンド名、用件。アーティスト/バンド名を入れることで、後から相手が『そういえば、この人からメールが来てたな…』とメール検索する際、すぐに出てくるからです。

 
2.本文は簡潔に
本文はなるべく簡潔に、目的をはっきりと伝えましょう。長文はNGです。特にビジネス関係の相手なら、1日に何十通ものメールが来るはず。忙しいスケジュールの中で、移動中や会議の合間など、受信箱に目を通すシチュエーションを想像してみましょう。前置きが長かったり長文の場合、最後まで読んでもらえる可能性は低いでしょう。短い文でなるべく多くの情報を伝え、好印象を与えることが重要です。本連載のvol.1『海外に向けた分かりやすいプロフィール作り』で紹介した書き方で、2~3文ほどのショートバージョンのプロフィールを1段落、そして2段落目に目的、最後に締めの言葉を一言添えましょう。

 
3.添付ファイルはNG
これは、音楽業界メールの暗黙のルールになりつつあります。リンクで音源が聴けてダウンロードもできる時代に、添付ファイルを送ることは、相手に余計な手間をかけることになります。また、スマホでメールをチェックすることが主流の今、ファイルが開けないかもしれません。音源などのデータは、必ずリンク形式で送りましょう。音源はSpotifyなどのリンク、ライブ動画はYouTubeなど。添付ファイルがあると本文自体読まれない可能性もあるぐらい、添付ファイルは嫌がられています。ただし何度かやり取りをして、『添付ファイルで送ってね』など相手から指示があれば、添付することは失礼にはあたりません。

 
4.意外と忘れがちなフォローアップ
一度メールを送って返事がない… そこで肩を落とすのはまだ早い!意図的に返信がないとは限らず、大量の営業メールに紛れて、単純にメールが見落とされた可能性もあるからです。一週間ほどで1度目のフォローアップメール、さらに一カ月後に2度目のメールを送ってみましょう。それ以上送るとしつこいと思われる可能性もありますが、本気でつながりたい相手なら、一定期間を空けて3、4回とフォローアップしてもいいでしょう。

 
5.さっぱりと、好印象な文体で
知らない相手に初めてメールを送る、いわゆるcold callの場合、あまり感情的になりすると引かれてしまいます。逆にぶっきらぼうや横柄なトーンだと、『めんどくさそうなアーティスト』という印象になるので、さっぱりと好印象な文体を心がけましょう。とはいえ、ストレートすぎても唐突な印象になってしまいます。日本人としては英文メールに慣れていないと、意図せずストレートで幼稚な英文になってしまう場合があります。そこで、同じ内容でも伝え方次第でグッと印象が上がる、メールで使える『好印象』英文フレーズを紹介します。

 
 


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

メールで使える『好印象』英文フレーズ10選
通常のビジネスメールと比べて、音楽業界の場合は『印象』が重要です。それは、文章からもアーティストの個性やコミュニケーションの取り方が伝わるからです。同じ内容でも言い方ひとつで大きく印象が変わります。堅苦しくなく、かつ丁寧で好印象に聞こえるフレーズ10選を紹介します。

 

I hope this email finds you well.

日本のメール文でいう、『ますますご健勝のこととお慶び申し上げます』のカジュアルバージョン英文、といったところでしょうか。How are you?I hope you are well. とも同じ意味ですが、メールの冒頭文としてはよりスマートな印象になります。

 

Just wanted to let you know…

『〜についてお知らせしたくてご連絡しました』。普通のビジネスメールとしては少々カジュアルな響きですが、音楽関係ではよく見かける文です。I wanted to let you know ではなく、Just wanted to let you know“Just” に置き換えることで、さりげなく簡潔な印象になります。

 

I am (We are) seeking opportunities to…

=『〜できる機会を探っています』。〜がしたい=I want to…と同じ意味ですが、この書き方だとストレートで幼稚な印象になりかねません。Seeking / looking for opportunities と書くと、丁寧でありつつも目的がはっきりと伝わります。

 

It would be amazing if…

=『〜できれば嬉しいです』。こちらも、I want to… よりも好印象ですね。

 

Could you kindly consider…?

=『ご検討いただけますか?』。Could you kindly…?Can you…?Will you…? よりも丁寧な尋ね方です。また、疑問形にすることで、相手が答えやすい内容になります。

 

I(We) would appreciate it if you could …

=『〜していただければありがたいです』。一つ前の文と組み合わせて、I would appreciate it if you could kindly consider~(〜をご検討いただければありがたいです)とするとさらに丁寧になります。

 

Any feedback you can give me on this would be highly/much appreciated.

=『フィードバックをいただければ大変ありがたいです』。“on this” はメール本文の問い合わせ内容なので、冒頭ではなく、本文の最後に付け加えてみてください。

 

If you have any questions, don’t hesitate to let me know.

=『ご質問などあれば、遠慮なくご連絡ください』。こちらも本文の最後に書いてみると良いでしょう。

 

Thanks in advance and looking forward to hearing from you.

=『お返事をお待ちしております。どうぞよろしくお願いいたします』。こちらもメールの締めの言葉としてよく使われます。Thanks in advance は、何かをしてもらった後に Thank you と言うのではなく、あらかじめ先に(in advance)お礼を言っておく、という意味合いですが、日本語の『よろしくお願いいたします』に一番近い英語なんじゃないかと(個人的に)思っています。

 

Just following up on my previous email.

=『以前お送りしたメールの件でご連絡しました』。こちらはフォローアップメールの冒頭に使えるフレーズです。ここでも “Just” を加えることで、さっぱりとした印象を与え、『何度もメールしてくるしつこい人』感を薄めることができます。

 
 


【連載】アーティストのための英語コミュニケーション Vol.3 – 音楽業界の英文メールの書き方

カンタン英文メール テンプレート
上記のポイントをふまえて、シチュエーションを想定して、ビジネス方面、アーティスト関係向けの英文メールテンプレートを二種類用意しました。こちらを参考に、ぜひ海外の音楽関係の人たちにメールを送ってみて、活動の範囲を世界に広げてみてください。

 
ビジネス向け(音楽メディアの場合)

Dear (メディア名、分かれば担当者名),
 
I hope this email finds you well.
 
My name is (自分の名前).
(簡潔な自己紹介、[連載vol.1]参照)
 
Just wanted to let you know about my new track, (新曲タイトル).
 
I have been a big fan of(メディア名), and I especially enjoyed reading the article about(そのメディアで印象に残っている記事).
 
I would appreciate it if you could have a listen to the track and support our release campaign.
 
Below is the link to the track and my social media accounts.
(曲やSNSへのリンク。添付ファイルは避けること)
 
If you have any questions, don’t hesitate to let me know.
 
Thanks in advance and looking forward to hearing from you.
 
Regards,
 
(自分の名前)

▼(訳)

〇〇様、
 
こんにちは、〇〇と申します。(簡潔な自己紹介)
 
私の新曲についてお知らせしたくてメールしました。
 
以前から〇〇メディアの大ファンで、特に〇〇の記事を読んで感動しました。
 
ぜひ楽曲を聴いていただき、リリースキャンペーンにご協力いただければ幸いです。
 
下記は楽曲とSNSへのリンクになります。
 
ご質問などあれば、遠慮なくご連絡ください。
 
お返事をお待ちしております。
どうぞよろしくお願いいたします。

 
アーティスト向け(プロデュースを依頼する場合)

Hi (相手の名前),
 
My name is (自分の名前).
(簡潔な自己紹介、[連載vol.1]参照)
 
I have been a big fan of your music, and I especially enjoyed listening to〇〇 (相手の作品で好きなタイトルなど).
 
I am seeking opportunities to work with a producer for my new track.
 
Could you kindly consider a collaboration as a producer?
 
Below is the link to my track and social media accounts.
(曲やSNSへのリンク。添付ファイルは避けること)
 
Any feedback you can give me on this would be much appreciated.
 
Thanks in advance and looking forward to hearing from you!
 
Sincerely,
 
(自分の名前)

▼(訳)

〇〇様、
 
こんにちは、〇〇と申します。(簡潔な自己紹介)
 
以前からあなたの音楽の大ファンで、特に〇〇が大好きです。
 
今回、新曲でプロデューサーとご一緒できる機会を探っています。
 
楽曲プロデュースをご検討いただけますでしょうか?
 
下記は楽曲とソーシャルメディアのアカウントへのリンクです。
 
フィードバックをいただければ大変ありがたいです。
 
お返事をお待ちしております。
 
どうぞよろしくお願いいたします。

 

この記事の執筆者

Rie fu

シンガーソングライター / 油彩画家 / 通訳・翻訳家 - 日本語と英語がミックスされた歌詞や、カーペンターズに影響を受けた歌声が特徴。幼少期をアメリカで過ごし、現地で賛美歌などに触れた事がきっかけで歌に興味を持ち始める。2004年、デビューと同時にロンドンのセントラル・セント・マーチン芸術大学で絵画を学び、アルバムアートワークを描く等、アートと音楽を繋げる活動を続けている。ものづくりの過程が垣間みられる工事現場をテーマとした絵画も描く。日本国内だけでなく、アジアツアー開催など活動の拠点を広げ、2016年からはイギリスでの音楽活動をスタート。2018年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン大学院にてSpecialized Translation(専門分野翻訳)MSc修士号を取得。「音楽、アート、英語教育」をテーマに、アメリカ、シンガポール、イギリスに住んできた海外経験や、自らの音楽体験を織り交ぜた唯一無二の活動を展開。

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