KIRINJI インタビュー | 新レーベル・syncokinから発表したアルバム『Steppin’ Out』は冷静でポジティブなKIRINJIの現在地点を刻み込んだ傑作

インタビュー
2023.9.15

明確な曲がいっぱい集まったアルバムがいいなと思った

——今回のアルバムのはっきりした明るいメロディは、それこそ韓国の人たちがすごく好きそうだなと思いました。いい意味でシティポップ的というか、日本的というか。

最初からメロディアスなものを作ろうと思ってたわけではないんですけど、やはりここ2〜3年はコロナ禍の影響で世の中的にも自分的にも内向きなところがあったから、そろそろ次に行きたいなって意味でも明るくて楽しいアルバムにしたい気持ちがあったんです。そこから「Runner’s High」を書き出して、その次に「I ♡ 歌舞伎町」ができて。どちらも割とメロディがはっきりしてたから、今回はこういうパリッとした、ここがフックになるよ、っていうのが明確な曲がいっぱい集まったアルバムがいいなと思ったんです。ショートムービー集みたいな。全曲どれを聴いてもいいなと思えるような、強い曲がいっぱい並んでるイメージ。僕の中では比較的ポップなアルバムになったと思います。

——全曲シングルっぽいですよね。

「Runner’s High」は一番最初に書いた曲だけど、歌詞を作ったのは一番最後なんです。この曲って後半にかけてファンクっぽく盛り上がっていくじゃないですか。あのパートは最初なかったんです。でも途中からシンセのループを残したまま、曲が展開したら面白いかもと思って、あれこれアレンジしてるうちにできてきたんですね。最初は割と静かな感じだけど、だんだん盛り上がっていくから、歌詞も1番と2番で同じようなことを歌うんじゃなく、曲と同じように後半に向かってテンションが上がっていくストーリーになってないとダメだなと思ったんです。かなり悩みました。

——なるほど。

で、僕、たまにジムに行くんですね。ランニングマシンってあるじゃないですか。あれって、最初は4キロ、6キロ、8キロみたくちょっとずつスピードを上げていきますよね。身体が温まってきて、速く走れるようになって、終わる頃には肉体的にも精神的にもアップリフティングになっている。「この感じだ」と思ったんです。実際は大して走ってないんだけど、終わった後になんともいえない高揚感というか、全能感がある。「やったぜ!」みたいな(笑)。それを歌詞にしました。実際、僕はランナーズハイになったことないですけど。

——(笑)。2曲目の「nestling」は「syncokin」最初のリリースになりました。

この曲は2月くらいかな。ドラマのタイアップ主題歌のお話をいただいたんです。ドラマで使われる主題歌って大体1分くらいなんですね。それで、「そういえば昨日作った曲どうだろう?」と思ってデモを聴いてみたらいい感じで、しかも歌い出しからサビ終わりまで1分ちょいだったんですよ。それで提案してみたら「これで行きましょう」という感じですね。ドラマの主題歌なんで、勢いのあるアレンジにしました。歌詞はドラマの内容に則しています。

 

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この記事の執筆者
宮崎敬太
音楽ライター、1977年神奈川県生まれ。ウェブサイト「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」での編集/執筆/運営を経て2015年12月よりフリーランスに。2019年に「悪党の詩 D.O自伝」の構成を担当した。また2013年にも巻紗葉名義でのインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』も発表している。