【このリリースがすごい!】海風邪『私の夢を見ていてね』| 淡い世界観の中にも、確かな手触りが残るかけがえのない5曲

コラム・特集
2026.6.18
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、海風邪の1st EP『私の夢を見ていてね』を紹介。


海風邪の『私の夢を見ていてね』が、とても良い。

シューゲイズやドリームポップの手触りをまといながら、ただ音を霞ませるだけでは終わらない。ギターは厚く鳴っているのに、輪郭は意外なほど見える。歌はまっすぐ届くのに、感情を説明しすぎない。淡さと鋭さ、轟音と透明感、切なさと前向きさ。5曲の中で少しずつ表情を変えながら流れていくようなイメージ。

2026年5月30日にリリースされた『私の夢を見ていてね』のどこに惹かれたのか。サウンド、曲順、ボーカルとメロディーの面から書いていきたい。

 
ギターサウンドが良い

本作を聴いてまず耳に残るのは、ギターの音作りの良さだ。

シューゲイズ的なギターサウンドは、音を滲ませれば滲ませるほど世界観を作りやすい一方で、楽曲そのものの表情が見えにくくなることもある。けれど、海風邪の音はそこに寄りかかりすぎない。歪みの厚みはある。空間を満たす広がりもある。なのに、フレーズの輪郭やストロークの勢いがちゃんと残っているのだ。

1曲目「あの日の温度」は、そんな魅力を強く感じる。30秒ほどのイントロがまず良い。ゴリゴリとしたストロークの中で融合する、幻想的なギターの交錯。クリーンに抜ける単音も印象的で、音像の奥に、ある種の爽やかさが残る。淡いのに、ぼやけていないというか。柔らかいのに、芯があるというか。

2曲目「遭難信号」では、より立体的なギターの絡みが耳に残る。エッジの効いた“きゅいーん”というギターの音色が走る一方で、しっとりとしたカッティングの音色も重なる瞬間。曲の中に複数の質感が生まれて、良い意味でゾクゾクするのだ。轟音で押し切るのではなく、音の層を作ることで景色を広げていく感じ。そのアンサンブルの組み方が良いのだ。ベースやドラムも過度に前へ出るのではなく、楽曲が必要としているビートを的確に刻んでいく。だからこそ、ギターの浮遊感だけでなく、バンド全体の響きが美しくまとまる。

 
5曲の流れにドラマがある

『私の夢を見ていてね』は、曲順の流れも良い。

「あの日の温度」で作品の景色を立ち上げ、「遭難信号」で切迫感と奥行きを増す。青春みもある一方で、どこか胸の内側をざわつかせるようなドキドキもある。激しい音もイメージに残るのに、胸に残るのは不思議な儚さ。

そこから3曲目「雪解け」に入ることで、作品の表情が少し変わる。全体として爽やかに響くこの楽曲は、作品全体の景色も明るい方向へ開けていく印象を与える。キャッチーで伸びやかなメロディーの進み方にも、どこか風通しの良さを覚える。独特のセンチメンタルなムードは作りつつも、朗らかな聴き心地を覚えるのだ。

そのあとに置かれた4曲目「maria (Interlude)」も、短いながら重要な役割を担っている。「雪解け」の明るさから、ラストの「北極星」が持つ切なさへ、そのまま急に接続するのではなく、Interludeを挟むことで、音のグラデーションが生まれるのだ。作品全体のドラマがより際立つ感じ。

そして最後の「北極星」で、よりぐっとくる。楽曲は切ないアルペジオから始まり、後半にかけて空間を塗りつぶすような轟音が迫りくる。その展開がとても良い。静かな余白から、音が広がる瞬間の落差があるからこそ、ぐっと曲の世界に引き込まれる。最後に、余韻を残しながら柔らかくサウンドを締めくくる展開にも引き込まれる。

5曲というコンパクトな構成の中で、海風邪は感情の起伏をきちんと描いている。前半の切迫感、中盤の解放、Interludeによる呼吸、そして終盤の切なさ、轟音、余韻。その流れがあるから、一つの音楽体験としてのインパクトが強烈になる。

 
ボーカルの存在感

ボーカルの温度感も、本作の大きな魅力だ。

海風邪の歌は、まっすぐで凛とした響きがありながら、泣かせにいくような大げささがないのが良い。メロディーも、感情を爆発させるというより、言葉の温度を保ったまま進んでいく。だからこそ、歌の中で良い塩梅の余白が生まれ、それがサウンドと絡み合うことで、しっとりと胸に流れ込む。

さらに、男女ツインボーカルの重なりが効果的だ。ここぞという場面で声が重なることで、歌に深みが生まれる。歌が描く映像の解像度が格段に上がるのだ。奥行きが広がる印象も生まれるし、等身大性が際立つ。いずれにしても、感情の揺れ動きが鮮やかになることで、歌への引き込まれ具合が上がることは確かだ。

 
総じて感じること

海風邪の『私の夢を見ていてね』には、霞みすぎないギターサウンド、まっすぐな歌、感情の流れを丁寧に作る曲順がある。

シューゲイズやドリームポップの美しさをまといながら、単に雰囲気だけで聴かせる作品ではない。音の輪郭があり、メロディーの強さがあり、バンドアンサンブルの推進力がある。だから、淡い世界観の中にも、確かな手触りが残る。

特に良いのは、ナイーブさを美しいものとして閉じ込めるのではなく、その先へ進むための感情として鳴らしているところだ。

『私の夢を見ていてね』は、轟音の中に透明感を探したい人にも、まっすぐな歌の中に淡い痛みを見つけたい人にも届く作品だと思う。

このリリースがすごい!

そう言いたくなるだけの、かけがえのない5曲がここにある。



海風邪『私の夢を見ていてね』

海風邪
EP『私の夢を見ていてね』

2026年5月30日配信リリース
音楽ストリーミングサービス各リンク https://linkco.re/GzQfDMcV

 
 

この記事の執筆者
ロッキン・ライフの中の人
ロッキン・ライフという音楽ブログとイベントを運営している中の人です。