【このリリースがすごい!】NISC『Ns*』 | 関西発コレクティブによる、軽量化された最新型ロック

コラム・特集
2026.8.21
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、NISCのアルバム『Ns*』を紹介。


ロックバンドは、いつも重いものを運んでいる。……いや、それは人々からの期待や先人が繋いできた歴史とかいうわけではなく、実際に、物理的に。下北沢なんかを歩いてる時に、ギターケースにのしかかられてエフェクターボードを引きずるように歩いているバンドマンを見かけては、つくづく泥臭い生き物だと思う。機材車を何百キロも走らせ、地下のライブハウスへ繋がる階段を何往復もする。なんでもクラウドに預けてストリーミングで取り出すことができる時代において、カルチャーと所有がイコールで結ばれなくなってきたからこそ、その“重さ”はある種このジャンルのシンボルとなりつつあるだろう。もちろん、その重さにロマンと愛着を抱いてもいる。だからこそ、ロックを軽量化しようとしているNISCに、僕は未知の可能性を感じている。

関西を拠点に初期(現在配信サービス等で遡れる最古の音源は2023年9月リリースのシングル「常夏」)からラップやオートチューンを取り入れミクスチャーな方向性を志向していた彼らは、次第に編成を流動化。ドラムレス・DJセットでのライブを敢行、HEAVEN(RY0N4、Lil Soft Tennis、aryy)との交流をはじめとするクラブシーンへの接近を経て形式を手放し、現在はボーカル・ベース・ギターの3人によるロック・コレクティブとして活動している。

2ndアルバムとなる本作では、前作で見せていたHyperpop/digicoreへの傾倒をより深めつつ、サウンドはよりスマートに。歪んだギターの推進力とサブベースの重量感、そしてシーケンスビートの鋭利な軽快さを、ガチャガチャしつつ無駄のないレイヤー数で重ね合わせている。ごった煮ではなく根本発想の転換から生まれたミクスチャーは、余白を残したままでフレッシュに響く。短い「Intro」に続く「concerta」を聴くだけで、彼らのオリジナリティは存分に伝わることだろう。目まぐるしく展開するリズムの上で、残響を切り捨てたピアノとギターが躍動し、崩れた発音ながら「俺らは違うよラッパー / シンジみたく逃げないロッカー」とはっきり自らの在り方を宣言する。

バンドという杭から解き放たれたロック(彼らはそれを“NEW ROCK”と呼ぶ)は自由に飛び回れるから、リリックで引用されるボカロ楽曲のフレーズも、アニメキャラ・YouTube・K-POPグループまで分別なく繰り出されるネームドロップも、決してそれだけが浮ついては聴こえないし、全編を通してナードな感性を隠すつもりもない。そうしてあらゆるカードを切れるようになった彼らにとっての最大の武器は、すでに手の内にあるリアリティだ。タイトル通り「俺らだけで回すファイル」とそのスタイルを提示する「D.I.Y」、軽いノリとのたまいつつ密かに自信と野心を滲み出させる「Natsuyasumi #freestyle」、そして今はまだぼやけている未来を自らの言葉で希望へと手繰り寄せていく最終曲「これからのこと」。武装する必要はない。余計なアイテムを持たずに最短経路で、NISCは頂上を目指し駆けていく。



NISC『Ns*』

NISC『Ns*』各サブスク

NISC『Ns*』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーの音楽ライター。

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