【Who’s NXT】starscream |「“異物感”を大切にして、聴き手に今まで感じたことのない感覚を」ネットを中心に精力的に活動する気鋭のラッパー

2019.11.3


starscream インタビュー

青森・弘前出身、ORIGAMI Entertainment所属のラッパー starscream。そのサウンドでは、ダークとポップ、無機質とオーガニック、陰鬱とフレッシュなど、ともすると相反する要素を絶妙にまとめあげ、数多くいるインターネットを中心に活動するラッパーの中において独自の存在感を示している。今年9月には1stアルバム『SCAPEGOAT』をリリースし、また同レーベルのラッパーBTSとのユニットGlumgunshとしても活動し注目を集めている。

Who’s NXT : A series of interviews with featured artists


starscream

青森県弘前市出身。2009年頃からインターネットを拠点にラップを始め、LOW HIGH WHO? ProductionのCOASARUとの共作や主宰を務める”Studio Cocoon”での活動、数多くの客演参加やフリーダウンロード作品の発表を経て、2017年、K’s・らっぷびと・抹が主宰する”ORIGAMI Entertainment”に加入。

Studio Cocoon及びORIGAMI Entertainment所属のラッパー/プロデューサー、BTSとのユニット”Glumgunsh”としても活動している。

 
——最初に、音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

実家が地元にある唯一のミニシアターだったので、関係者にサンプルで配布される上映作品のサントラをよく聴いていました。中でも、『トレインスポッティング』、『ゴースト・ドッグ』のサントラは特にお気に入りでした。

 
——自分で音楽をやるようになった経緯は?

中学生くらいの時に地元のTSUTAYAの試聴機でELLEGARDENを聴いてハマったのがきっかけです。ちょうどその頃バンドを組むのが流行った時期が重なって自分もやりはじめるのですが、コピーばかりでつまらなくなって割とすぐ辞めちゃいました…

オリジナル曲を作りたいけど自分が作曲するって考えに至らないまましばらく過ごしていたのですが、ネット上にあるフリーのインストを使って自作のラップを発表する文化があるのを知って、それなら自分でもできそうだなと思ってやり始めて今に至ります。

 
——現在活動している場所やシーンはどういったところになりますか?

インターネット上に楽曲を発表しています。たまにしかライブしていないのですが、ライブする場合は、都内ですることが多いです。

 
——最新作とその聴きどころをご紹介ください。

先日、『SCAPEGOAT』という初めてのソロアルバムをリリース致しました。聴くと不思議な気分になる作品になっていると思います。どの曲も聴いて頂きたいのですが、オススメしたいのは「群青 (feat. honninman)」と「LIM (feat. hattori)」、MVにもなっている「プールサイド」です。

1曲目の「群青 (feat. honninman)」は2012年くらいに作ってお蔵入りにしていたビートを復活させて使っていたり、実際にみてメモしていた夢日記をネタに歌詞にしていたり、honnninmanさんとの制作の過程で少しずつ形が変わっていったりと創意工夫に満ちた作品で、アルバムの雰囲気作りに一番貢献している曲なのでとても思い入れがあります。

「LIM (feat. hattori)」は”Life Is Movie”という明確なワードをテーマに制作しました。アルバムの中で最もわかりやすいサビ・構成でシンプルなのですが、単品で聴いたときとアルバムの流れで聴いたときに微妙に表情を変えるので面白いです。

僕なりの夏曲の「プールサイド」は、日本の夏のジメジメ感みたいなものを的確に表すことができたように思うのでとても気に入っています。また、ビート・声・歌詞全てを完全にマッチさせることができた自信作でもあります。短めの曲ですが全てにおいてこだわりぬいたので是非聴いてほしいです。

starscream – プールサイド


SCAPEGOAT starscream

アルバム『SCAPEGOAT』 各配信ストア : https://linkco.re/sADucAR1

 
——他にこれまででおすすめ、あるいは思い入れのある楽曲はありますか?

2018年に自分が企画したマイクリレー作品「drops」です。自分含め10組のアーティストで一曲を作っています。普段交わらないようなアーティストの皆さんが一堂に会しているにも関わらず、きちんと一曲としてまとまっているのがポイントです。

構成・順番・展開などかなり悩んでいたので、思ったとおりに完成できたときはとても嬉しかったです。この曲の制作における経験が、「アルバムを作ろう」という気持ちへとさせてくれた気がします。

HakobuNe, 線描, 架空女子会, 黒傘のame, hattori, 野崎りこん, Fzed, starscream, 百牙, colormal – drops

 
——普段、楽曲の制作はどのようにされていますか?

2週間に1回、休日の朝の3時間くらいスタジオに機材を持ち込んで録音しています。予め使いたいワードとか言い回しとかをちょくちょくメモしておいて、録音時にはそのメモを元にフリースタイル的に言葉を足していきながら徐々に形を作っていっています。

自分でビートを作る時やミキシングなどのガッツリ机に向かわないとできないような作業は、家族が寝てからリビングの隅っこで静かにやっています。

 
——まだstarscreamさんを知らない人に、その特徴を伝えるなら?

声と歌詞は特徴的かなと思います。歌詞は一番力を入れているので是非注目して頂きたいです。

 
——starscreamさんが影響を受けたアーティストを教えてください。

環ROY

ハイブリッド感にはとても影響を受けた気がします。彼がラップをすればどんなジャンルのトラックでもきちんとHIPHOPとして調理されて提供されるのですごいです。

 
MAKKENZ

棒読みスレスレな感情の込め方や抑揚の付け方で影響を受けました。

 
syrup16g

自分のことや身近なことを少しズレた視点で歌っているところとか、真っ直ぐだし赤裸々なんだけど微妙に歯に物挟まってるな…みたいな一筋縄でいかない感じとか、歌詞面で影響を受けている気がします。

 
——楽曲でいうとどういう曲に影響を受けましたか?

ART-SCHOOL – カノン

ART-SCHOOLも作詞の上で影響を受けているバンドなのですが、聞き始める切っ掛けがこちらの曲です。冬の切ない歌詞と木下理樹の掠れたような声がすごく好き。

 
Earl Sweatshirt – Grief

シンプルにダークを突き詰めるとこんな感じになるんだろうな、という曲。ダウンテンポで頭にへばりつくようなビートでひたすら沈んでいく感じが癖になります。

 
Kin$oul – Supra (feat. XXXTENTACION)

XXXTENTACIONの何やらせても無敵な感じは本当に凄いです。特にこの曲のようなブーンバップなビートを乗りこなすTENTACIONに衝撃を受けました。

 
Oliver Francis – flip phone

綺麗なメロディと声にかかったエフェクトのギリギリ感がくせになります。どんな場面にも合いそうで、こういったサントラ的な曲を作ることができたらと思います。

 
group_inou – SWEETIE

group_inouのダウナーな面が現れた曲。妙に物哀しい感じが好きです。目に映ったものを羅列していくような視覚的な歌詞も素敵です。

 
GZA – 4th Chamber (feat. RZA, Ghostface Killah & Killah Priest)

Wu-Tang Clanで個々のキャラ立ちの重要性について学びましたが、特にGZAの歌えば一瞬にして空気感が変わる感じは唯一無二で好きです。アルバムの『Liquid Swords』自体、RZAのトラックも相まって緊張感の塊みたいなものになっていますが、中でもこちらの曲はラップ始まる前のおどろおどろしいイントロで持っていかれました。

 
JUSWANNA – ブストゲスノエズ

正反対の音のはめ方をする二人が絡み合う様がかっこいい。比喩や韻の配置など、日本語の使い方がとても勉強になります。

 
ストレイテナー – Lightning

空気感、歌い方、演奏、歌詞全てにおいて最高で綺麗で素敵。日本語の歌詞によって、優しさや繊細さがフルで伝わるところも好きなポイントです。

 
Big Boi – Lines (feat. A$AP Rocky & Phantogram)

この曲でHIPHOPの自由さを再認識しました。このメンツでこういう感じの曲になったというのがなんかもう既に凄い。
トラックの上ネタの中にPhantogramのボーカルの声がちょいちょい挟み込まれていたりとか、途中で倍打ちになったりとか、そういう細かいところも好きです。

 
LEO今井 – TokyoLights 2(東京電燈其二)

メロディがいいのはもちろんですが、言葉選びがとても面白いです。外国でずっと生活されていた方なので独特の言語感覚があるのかもしれません。

 
——音楽活動にあたって何か特に大事にしていることはありますか?

“異物感”を大切にしています。それは聴く人や曲によって、歌詞中の行間のようなものだったり、ワードチョイスだったり、メロディだったり、声の出し方だったり色々変わってくると思うんですが、その”異物感”を残すことによって、聴き手の皆さんに今まで感じたことのない感覚を与えることができれば嬉しいなと思って曲を作っています。とはいえそれによって曲として破綻してしまったら意味がないので、どこまで残すかどうかのバランスにはかなり気を遣っています。


starscream インタビュー

 
——実際に音楽活動をする中で、リスペクトあるいは共感するアーティストはいますか?

野崎りこんさんとhattoriさんです。野崎りこんさんとはラップを始めた時に知り合い、当時HIPHOPをほとんど知らなかった自分にいろいろと教えてくれました。彼がいなかったら今の自分はいないと思います。いろいろと考え方が似ていて話もしやすく、変に気負わなくてもいい感じが落ち着きます。

hattoriさんも野崎りこんさんとほぼ同時期に知り合った人です。物事を感覚で言ってしまう自分とは違い考え方の筋道が通っていて、話している中でいろいろと気づきを与えてくれる存在です。

ふたりからはすごく刺激を受けますし、制作上のことだけでなくプライベートの話もしたり、リスペクトしつつも本当にいい友人でアーティストです。

前頭葉 aka 野崎りこん,hattori,大猫,starscream & togarinezumi – ストロボライツ

 
——今後の活動の展望や予定は?

『SCAPEGOAT』はライブ会場や一部の通販サイトでCDとしても販売しており、ジャケットの裏にあるQRコードからCD購入者限定の特典音源がDLできるようになっているのですが、その追加音源を近いうちに随時更新していく予定です。追加音源により『SCAPEGOAT』の世界が拡張され完成するので、是非CD版もチェックして頂けたら嬉しいです。
http://orgment.cart.fc2.com/
https://scubashop2.com/

また、近日中に別のレーベルさんから自身の過去曲を一部再録したEPを発表予定となっております。

ソロ以外ではBTSというラッパー/プロデューサーと”Glumgunsh”というユニットでも活動していて、こちらも現在2作目のEPを制作中です。

Glumgunsh(Bandcamp) https://glumgunsh.bandcamp.com/

Glumgunsh – Teacup Poisoner


starscream インタビュー Glumgunsh

starscream インタビュー Glumgunsh

 
——最後にメッセージを。

まだまだやりたいことや表現したいことはたくさんあるので、歩みを止めることなく活動していけたらと思います。是非今後ともチェックをお願い致します。

 

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